第42話 アルマ君からのアドバイス ②

「ま、そんな話しは置いといて、簡単に手順を教えるから覚えてくれ。」

『ん?』


 なんかいつの間にか趣旨がアドバイスから指南に変化してた。まぁ、僕は問題ないんだが。


『良いの?ボクに教えちゃって?』

「別に良いさ。さっきも言った通り、互いに切磋琢磨出来ればそれで良いし。それにボクの魔術がヘレンの腕では破壊されないと自負してるんでね。」


 あらまー。そう明言されちゃうと余計やる気が出てきちゃったなー。


 それに言葉の端々からも「早く強くなって模擬戦を楽しませてくれ」という意図が込められてるようにも感じる。


『ん。じゃあボクはその自信と魔術を打ち砕けるように頑張るわ。』

「フッ、君なかなか上手いこと言うね。」


 アルマ君はそう言ってクスクスと可愛いらしく微笑する。地味にツボだったっぽい。


 そうして場の雰囲気が和やかになったことで、ようやく本題へと入った。


「それじゃあ、気を取り直して、まず前提として大体の魔術って術者以外の魔力では術式を構築出来ないようになってるんだよ。」


 いきなり初耳の情報が飛び出してきた。


『そうなんだ。』

「うん。これは魔力の波長が個人で異なるから起きる現象なんだ。だから術式に術者以外の魔力で弱点をいじれば自然と無力化出来るってこと。」 


 なるほど。"術式の破壊"こう聞くと難しそうに聞こえるけど、原理そのものは意外とシンプルだった。


『要するに全く噛み合わない歯車をいつつ嵌め込めば連動している他の歯車は一斉に機能を停止するみたいなイメージ?』

「まーそんなとこ。」

『ふーん。でもそれを戦闘中にましてや離れてる相手に実行するのってきつくない?』

「ヘレンの言う通り、魔術を発動前に無力化するためにはサクッと弱点を見つけて手際良く作業を行わないといけないから相当難易度高いよ。」


 だよねー。やっぱ、世の中そんなに甘くは無いか。


『なるほど…。ところでさ、弱点とか簡単に言うけど、全部が全部必ずある訳じゃないんじゃない?』


 僕の発した問いにアルマ君は少し考え込んでから答える。


「……質問で返して悪いんだけどさ、ヘレンは世の中にある物の中で永久に壊れないものが存在すると思う?」

『え?』


 突然、哲学的なことを聞くな…。永久に壊れないものか...。


『ボクはないと思ってる。』


 創られたものはいずれ崩壊する。それと同様に始まりがあれば当然終わりだって存在する。世の中なんて無常の塊と言っても良い。


「だよね。壊れないものなんて無い。つまりは完全無欠と豪語してる術式でも破れる可能性はあるってこと。」


 なんかそれに似た理論どっかで聞いたな。どこだったかな…。あ、確かサリエルさんが「スキルなんて個人差はあれど、時間を掛けたら習得できる。」みたいなことを言ってたな。


『要は脳筋戦法だね。』

「ちょッ…折角説明したのにその解釈は酷くない!?」

『フフッ、大丈夫。三割ぐらいは冗談だから。』

「それ冗談になってないから!!残りの七割は本気じゃん。」


 冷静にツッコまれた。


「ま、無駄話しはこれぐらいにして、とりあえず手始めにこれに付与されてる術式を無力化してみて。」


 そう言ってポイっと投げ渡されたのはそこそこ良質そう見える魔道具の首輪だった。何故首輪を常備してるのかツッコミたいところだけど無視しよう。


『これって良いの?』

「うん。《付与魔術》で身魂安定の効果を施しただけの粗悪品さ。術式に限らず、首輪ごと盛大にぶっ壊しちゃっても問題ないよ。」


 粗悪品って…。そうは見えないんだけどなー。しかも首輪に身魂安定の効果って…これは深く詮索しない方が健全だな。


『う、うん。なら遠慮なく…。』


 アルマ君の許可も得たことだし、早速、内蔵されている小型の術式を浮き彫りにして観察する。


 ぱっと、術式自体は完璧とは言い難いが、そこそこ綺麗に組み込まれている。でもアルマ君が粗悪品と言うのもなんとなく理解出来た。


 何故なら何箇所か、やたら構築の甘い部分を見つけてしまったからだ。そして、そこをさらに精密に探ってみると、二箇所ほど綻んでおり、魔力が漏れ出てる部分を発見した。これがアルマ君の言ってた術式の弱点なのだろう。


 で、これをいじるって言ってたけど具体的にどうすれば良いんだ…。こうか?


 よくわからないけど、《魔力操作》を駆使して手探りでやってみる。


『……。』


 しばらく間、無言で作業を続けてると術式が消滅した。


 これってもしかして出来ちゃった?


 僕は術式の破壊に成功を確信したその時だった。突然、脳内にレイ姉の声が響く。


「(ヘレンちゃん!!聞こえる?)」

『うぇっ!?』

「え、どうしたヘレン?」


 び、びっくりしたー。心臓無いけど心臓に悪すぎ!?


 というかレイ姉が《思念伝達》を使うってことはリディ姉関連で何かあったのだろう。


『(え、えーと…どうしたの?)』

「(そっちに狂乱状態の姉様が向かってる。気を付けて!!)」


 そう一方的に言い残して連絡が途切れてしまった。



 ◆◆◆


・「術者以外の魔力では術式を構築出来ない性質」がなんか「移植の際に適応せず免疫細胞が"拒絶反応"を起こす事象」に似てると思うのは自分だけですかね?



・「スキルなんて個体差はあれど時間を掛けたら習得できる。」の言葉は15話に記載してまーす。



・43話から話しが…脱線します(蛇足回?)。まぁ、妹大好きリディアさんの暴走関係です。妹2人への底無しの愛が故にスキンシップの表現が(多分)あると思いますのでご注意ください。(一応の保険)

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