第5話 王太子妃になりました
「シャーロット様のお部屋を用意するまでの間、殿下のお部屋でおくつろぎください」
アダムにエスコートされ、王太子宮の三階中央にある王太子の自室に案内された。コの字型をした宮は、左翼側には大小のホールが数個あり、二階に休憩室や娯楽場、三階には客間があるらしい。こちらは今まで使用したことはないらしく閉鎖状態だそうだ。右翼側はいわゆる夫人達が住むハーレムというやつだ。これも住人がいないから閉鎖中。侍従達は裏手の宿舎で寝泊まりしているらしいが、マリアだけは宮の一階にある厨房横の小部屋に住んでいるらしい。
「別に、アダム様と同じ部屋でもいいけど。夫婦になるんだし」
マリアは鼻息荒く肯定する。
いや、あまり興奮すると血管プチンといくよ。けっこう高齢っぽいし。
「もちろん、殿下と続き部屋をご用意いたしますとも。ご衣装をしまったりお着替えをなさるお部屋が必要ですからね。月の物の時用に一応そちらにもベッドは用意いたしますが、通常は中の部屋にあるご夫妻の寝室をご利用くださいませ。でもまだこちらも準備ができておりませんから、今日だけは殿下のベッドでご不自由おかけいたします。明日までには夫婦の寝室は整えられると思います。夫婦のベッドはキングサイズでございますよ」
「まぁ、私は小さいけど、アダム様は大きいからベッドは大きい方がいいか。ここ?ここがアダム様の部屋?じゃあ後はよろしくね」
私はアダムの腕を引っ張ってアダムの自室の扉を開けると、問答無用でアダムを部屋に連れ込んだ。マリアが「ごゆっくり」と良い笑顔でお辞儀をしたようだが、その姿はすぐに扉の裏に消えた。
「アーッ、疲れた!」
私はアダムのベッドにダイブする。手触りの良いシーツに、程良い弾力のマットレス。良いベッドだわー。激しく動いてもギシギシ軋まないやつ。最高ね。
「足、見えてるよ」
捲れたスカートをさっとなおしてくれる。いやいや、もっと捲ってくれてもかまわないんだけど。
「アダム様、アダム様もゴロンとしようよ」
私は一度起き上がってアダムの腕を掴むと、全体重をのせてアダムをベッドに引きずりこんだ。アダムは私の身体の横に肘をつき、私の上に倒れ込まないようにセーブし、そのまま少し離れて私の横にゴロンと横になる。
「危ないじゃないか」
「アダム様が上に乗っかるくらいじゃなんともならないよ」
「怪我をするかもしれない。僕はこう見えても重いんだから」
「身長あるもんね。ね、アダム様は十八歳よね。二年前の成人の儀の時に立太子したって言ってたから。四つ差かぁ。まぁ、四つくらいの年の差はアリだよね。私は十四歳だよ。今日が誕生日だったの。アダム様と初めて会った日を忘れないですむよね」
「誕生日?それはおめでとう」
「ありがと。毎年さ、家族でお祝いしてたから、なんか変な感じ」
いつもなら、ママリンの作った特大ケーキを囲み、パパリンが下手な歌を歌ってお祝いしてくれる。スチュワートは肉担当で、前日は狩りを頑張ってくれたし、ティアラは当日めいいっぱい私を可愛くおめかししてくれた。
私は顔だけアダムの方へ向けた。
「家族?」
「そう。パパリンとママリン、あと双子の兄姉のスチューとティア」
「それは元キスコンチェ王国の王と王妃、王太子に第一王女だよな」
「そうだね。うちはあんま王家らしい王家じゃなかったから、呼び方にはこだわらないの」
「それにしてもパパリンとママリンって……」
クスクス笑うアダムは、凄く自然で年齢相応の若者に見えた。ダニエル王の前では緊張して固い表情をしていたんだと気がつく。
「アダム様は両親のことなんて呼んでるの?兄弟はいる?」
「普通に陛下に母上だな。兄弟か、同腹の兄弟はいない。母親の違う兄弟なら二十五人かな?妃の方に六人、夫人の方に十九人いるけど」
さすが絶倫王ですね。素晴らしい種付け能力です。
「じゃあ二十六人兄妹!一クラスできちゃうね。兄弟はあまり仲良くない感じ?うちは鬱陶しいくらい仲良いよ」
「そうだな。あまり話したりしたことはないな」
「そっかぁ、二十五人もいるのにね」
「すれ違ってもわからない兄弟もいるかもしれない。まぁ、母親が違うとほとんど他人とかわらないさ」
そんなものなのか?アダムが少し寂しそうに見えて、私はアダムの黒髪をワシャワシャとかきまぜた。
「まぁさ、私は兄妹にはなってあげられないけど、私とは結婚するんだからね。家族よ家族。アダム様にもなんか愛称つけようか?パパリンやママリンみたいに。アダムだから……アディ、アダ、アダリン!」
「いやいや、アダリンはちょっと……」
「そう?可愛いのに」
「普通にアダムがいいよ」
私がムーッと唇を尖らすと、アダムは苦笑してから起き上がりベッドから下りた。
「君は不思議な子だな」
「普通だよ?あんまり王女らしくはないかもだけど」
私も起き上がり、ベッドの縁に座る。
「なんか、そばにいても鳥肌が立たない
異性と接して鳥肌ものって、かなり問題だと思うよ。
「逆に聞いていい?どんな
アダムは顎に手を当てて考える。
「女をアピールしてくる人……かな。老婆とか子供は比較的平気だ」
ふむ……。もしや私は子供枠?
女をアピールせずにエロエロにもっていかないといけないのか……。難しいな。
そんなことを考えていると、扉がノックされてイーサンが入ってきた。
「殿下、書類だ」
「イーサン、君も疲れただろう。早く休んだほうがいい」
「おまえの親父さんは人使いが荒いんだよ」
多分婚姻関係の書類だろうが、イーサンはテーブルにポンと放った。その親しげな態度と口調に、私は首を傾げる。イーサンは無骨なタイプであまり畏まった話し方などはしないタイプだとは思っていたが、ダニエル王の前ではちゃんとしていたと思う。イーサンが「私」とか言った時は吹き出すかと思ったもん。そんな私の疑問に気づいたのか、アダムが親しげにイーサンの肩を叩いた。
「あぁ、イーサンは僕の剣術の師なんだよ」
「教えたのは剣術だけじゃないけどな」
「剣術以外の何を教わったの?」
どうせなら、女の抱き方……はないか。女嫌いだもんね。
「まぁ護身術大半は教えたな。あとは酒の飲み方」
「お酒!」
「オッ?!シャーロット殿はイケる口か?」
前世はね、ご飯食べずにお酒飲んでたくらいだもん。この身体では残念ながらまだ飲んだことなかったけれど、飲めと言われたら余裕で飲める気がする。
「何言ってるんだ、イーサン。ロッティはまだ十四歳になったばかりだろう。成人してないんだから飲むのは駄目だよ」
真面目か?!
うちの家族もそこは厳しかったんだよなぁ。あと二年の我慢だ!成人したら、浴びる程飲んでやるんだから。
「ほー、ずいぶんと仲良くなったんだな。もしかして、俺はお邪魔だったか」
イーサンが厳つい顔をニヤリと歪め、ベッドに座る私を見る。
「まだ大丈夫よ」
「まだって……」
「あらだって私達は夫婦になるんだし……って、イーサンの持ってきた書類、婚姻証明書よね。ちょっとペン貸して」
私はベッドから立ち上がると、テーブルの上に置いてある書面を確認した。まだ未成年の私の欄の上には、トーマス・キスコンチェとパパリンのサインが書いてあった。私はサラサラとその下に自分の名前をサインする。
「あ……」
「なに?どっか間違った?」
アダムが急に声を出すから、最後の文字がちょっと滲んじゃったじゃない。
まぁ、読めるから良し!
「間違ってはいないけど、それ婚姻証明書だよ?」
「わかってるよ。だから書いたんじゃん。借金の連帯保証人だったら書かないよ」
私がどうぞとペンと書面をアダムの前に置くと、アダムはペンを取ることなくジッとそれに目をやる。
「アダム、腹くくりなよ。それとも私に不満があるっての?!」
「ハハ、シャーロット殿の方が男前だな」
「そりゃね、相手はかわったけど嫁入りするつもりでここに来たもん。ハーレムで魑魅魍魎共と戦わなきゃなんないって思ってたから、妃になれんなら全然今のがいいじゃん(絶倫王とHできないのは正直惜しいけど、月に一回あるかないかのお渡りを待つより、アダムなら競争相手がいないし、毎日でもHし放題かもじゃん。若いし、絶倫王の息子だし、女嫌いさえ克服できたら期待値は大きい!)」
内心の声は隠して、私はほら書けとペンをアダムの右手に押し付ける。
「殿下、もし殿下がシャーロット殿を断ったら、シャーロット殿の次の夫候補はロイド公爵だそうだ」
ロイド公爵?誰それ?
アダムの眉がギュッと寄り、アダムはペンを左手に持ち替えてサインをした。まさかの左利き?左利きは器用だっていうし、何より神テク男優シンさんが左利きだったから良いイメージしかないわ。
「よし、じゃあこれを提出してくる。殿下、結婚おめでとう」
イーサンは書面をくるくる丸めると、ウエストコートの内ポケットに丁寧にしまった。
「ね、ロイド公爵って誰?」
「我が王の叔父上だ」
ダニエル王の叔父って、おじいちゃんってことかな?
「ヨボヨボのおじいちゃん?」
「いや、まだ50歳くらいか?」
じゃあ現役じゃん。もしかすると、女嫌いのアダムよりもそっちのが良かったりして……。
「加虐趣味が酷すぎて夫人を使い捨てるから、毎年ハーレムを増員してるのに人数が減るばかりだ。もしかしてシャーロット殿はそっちのが良かったか?」
私はブンブンと首を横に振った。
ソフトSMくらいならどんとこいだけど、ハードSMは苦手なんだよね。使い捨てるのはカイロだけで十分よ。
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