第3話 ダニエル王との謁見

 リズパン王国の主宮殿は、うちのなんちゃって宮殿と違って、本格的なものだった。見た感じはベル○イユの○らとかで見た宮殿みたいな洋風な感じで、王宮自体の広さは東京○ー厶の百倍くらいありそう。皇○より広いんじゃないかな。


 一緒に船旅してきたマロンを宮殿入口の衛兵に預け、イーサンの後ろについて宮殿の中に入る。


「まずは旅の汚れを落とさないとだな」


 ですよね。

 さすがに旦那様になるだろうダニエル王に会うのに、こんな埃臭い乗馬服は嫌だ。露出の多いドレスはこの体型には似合わないから持ってないけど、家族みんなが褒めてくれた紺色のドレスは持ってきたもんね。ちょっと子供っぽいかなぁって思わなくはないけど、上品で可愛らしいから良しとしよう。


 イーサンは私を客間のような豪華な部屋に連れてくると、侍女を呼んで私の世話を頼んでから部屋を出て行った。


「お姫様、湯浴みの準備が整っております。こちらへいらしてください」


 口調は丁寧だけど、態度がツンツンした侍女が私を浴室に連れて行くと、そこに控えていた侍女二人に私の汚れをしっかり落とすように言いつけた。


「私、一人で洗えるよ」


 なにせ自給自足の王族ですから、衣服の脱ぎ着から入浴まで自分でやってきたからね。


「駄目です。我が王にお会いになるのに、汚いままお目にかける訳には参りません。耳の後ろや首の下、指の股まできれいに洗わなくてはなりません。あなた方、しっかりと洗うのですよ」


 確かに汚いけどさ、面と向かって言うかなそれ。それに自分じゃ何も出来ないような言われ方もムカつく。浴室を出て行った侍女の後ろ姿にべーと舌を出すと、とりあえずポイポイと乗馬服を脱いで放った。

 言われた通りにしっかり指の股まできれいに洗ってもらい、オイルで全身マッサージまでされたら、ついついウトウトとしてしまう。

 気がついたら空色のドレスを着せられ、軽くお化粧までされていた。うん、ソバカスがちょっと目立たなくなったんじゃない?


「あれ、このドレス?」


 目の前の鏡には、持ってきた中にはないドレスを着せられた私がいた。白い襟のついたゴテゴテとレースがつけられた空色のドレスは、可愛らしいのかもしれないが、よりいっそう私を子供っぽく見せているような気がした。


「我が王の目の色のドレスですわ。とてもよくお似合いですこと」

「そう?子供っぽくない?」


 私は鼻に皺を寄せてみせる。


「そんなことございません。このレースは今年の流行なんですよ」

「ふーん、まぁいいわ。で、いつダニエル王に会えるの?」

「ジェルモンド伯爵がいらっしゃるまでお待ちください」


 ジェルモンド?誰だっけ?


 私がキョトンとした顔をしたからか、侍女が苦笑してイーサンのことだと教えてくれた。名前でしか呼んでなかったからね、家名なんか覚えてないよ。


 髪の毛もきれいに編み込んでくれ、いつも爆発気味な天パーがなんとか形が整ってみえた。そうこうしているうちに扉がノックされ、イーサンがひょっこり顔をだした。彼も湯浴みをして着替えたらしく、くすんだ金髪を後ろになでつけ、紺色のウエストコートに黒いトラウザーと貴族らしい格好をしていたが、ちょっと窮屈そうに見えた。


「シャーロット殿、ずいぶんと可愛らしくなったな」

「イーサン、あなたは甲冑の方が似合っているわ」

「違いないな」


 私の返事に侍女達は顔色を青くさせたが、イーサンはニヤリと笑うと、軽く頭を下げてから私に向かって肘を差し出してきた。


「我が王と謁見の準備ができた。ご用意はよろしいか?」

「ドレスが気に食わないけどしょうがないわ」

「可愛いぞ?」

「可愛過ぎるのよ。ダニエル王に子供っぽく見られちゃうでしょ。なんでもね、初対面の印象って大事なのよ」


 イーサンの腕を取って立ち上がると、レースを摘んで引張ってみせた。


「子供っぽく見られたら駄目なのか?」

「駄目に決まってるじゃない!イーサンは子供をお嫁さんにできる?抱きたいと思う?」

「だ……、もう少しオブラートに包んでだな……」

「何に包んだって内容はかわらないじゃないの」


 私はプリプリ怒りながらイーサンと謁見の間に向かった。

 謁見の間に通されると、玉座には黒髪に青い瞳の筋骨逞しい大男が座っていた。

 最初の印象……ナニがデカそう!

 顔とかはどうでもよく、まず私の視線はダニエル王の股間に集中する。トラウザー越しだから分かりづらいけど、平常状態でまぁまぁの盛り上がりがわかるから期待特大だ!


「我が王、キスコチェ領主次女シャーロット殿をお連れいたしました」


 イーサンが深く頭を下げ、私の紹介をしてくれる。私はダニエル王の股間に集中しすぎて、淑女の礼をとるのも忘れてしまった。イーサンに小声で嗜められ、慌てて淑女の礼をとる。


「次女ということは長女もいるんだろう。なんでこんなガキを……」

「お言葉失礼します。ダニエル陛下におかれましてはご健勝のほど喜び申し上げます。我が姉は身体も弱く(嘘だけど)、山越えなどしたら一発で身罷ってしまうだろうということで、健康な私が適任かと参上いたしました」


 オホホホ、私も頑張れば猫をかぶれるんですのよ。立派な元王女様に見えますでしょう。オホホホのホですわ。


「身体が弱いとは本当か」


 ダニエル王は、ジロリとイーサンに目を向ける。私はスカートの裾で足が見えないことをいいことに、余計なことは言わないでねと合図する意味でイーサンの足を蹴りつけた。


「あ……あ、まぁ、そうですね。私が謁見させてもらった時はお倒れになられましたし」


 ショックで気絶しただけだけどね!イーサングッジョブ!


「だからってこんなガキ……」


 明らかに不服そうなダニエル王に、私はズイっと近寄る。


「本日で十四歳になりました。結婚も可能でございます!子づくりもバッチリでございます!ハーレム最年少かと思いますが、ダニエル陛下に誠心誠意尽くさせていただきます!まだ何色にも染まっておりません私を、ダニエル陛下色に染めてくださいませ!!」


 鼻息荒く言い募る私に、ダニエル王はゲンナリとした表情を浮かべた。


「俺はロリコンは管轄外だ。第一、勃つ気もしない」

「大丈夫です!何事も経験!やればできると申します」

「なんでこいつはそんなにやる気満々なんだ。チェンジだ、チェンジ。こいつの姉が駄目なら母親でも良いぞ」

「姉も母も瓜二つにございますけれどよろしいのですか?!」


 瓜二つなのは二人で、私には似ても似つかないけどね。


「これと瓜二つ……。もうよい。今回はハーレムの増員はなしだ。次に期待する。こいつは国に返せ」


 返されちゃうの?絶倫王とのめくるめく官能の世界はなし?


「我が王、お待ち下さい。シャーロット殿は我が国には必要な人材かと思います」


 イーサン、突然どうした?褒めてくれるのは嬉しいよ。でも、その根拠は?


「……こんなガキがか?」


 ダニエル王、たとえ絶倫(発言に絶倫関係なし)だとしても失礼だよ。


「はい。あの山越えの問題点。シャーロット殿が見事解決いたしました。それにこんな幼い見た目によらず、兵法にも長けているようです」


 幼いは余計だからね!


 そういえば、船旅している時にリズパン王国とニグスキ王国が開戦する予定だと聞き、わざわざうちみたいな弱小農業国を先に属国にした理由について、偉そうにイーサンに話したんだった。

 

 ニグスキ王国ってのは、うちのお隣さんなんだけど、そこそこの大国で、かなり好戦的……というか直情型で単細胞、あそこの王も王太子も本当に嫌な奴なんだよ。うちのティアラに懸想した王太子が、茶会の度にティアラに手を出そうとあの手この手を仕掛けてきたから、私が毎回叩き潰してきたんだ。

 

 あのクソ王太子、マジ女の敵!……って、話がズレた。


 地理的に、ニグスキ王国の後方は険しい山なわけ。山間にうちのキスコチェ王国があるんだけど、弱小農業国であるうちは眼中になく、さらに山を越えると後は海だ。つまり、ニグスキ王国は後方の備えはほぼしなくても良いと言える。

 そこで、リズパン王国はうちを属国にしたことで、海側からの派兵が可能になるってわけ。農業国だから、補給にももってこいだしね。補給は大事!前世ではまった対戦型の戦国ゲームでも、敵の補給を断つのがゲームを有利に進めるコツだったし。

 

 問題は、険しい山越えの方法と、山に出没する山賊達なんだけど、前者については、山越えに必要な装備として、私やティアラが山菜採りやキノコ狩りをする際に使っていた着脱可能スパイクを提案した。あれがあれば、どんな急勾配も滑落する心配がない。

 山賊については、彼等はお金さえ出せば、山越えの案内人にもなることを教えてあげた。報酬をケチらなければ、他の山賊の護衛までしてくれる。

 

 まぁ、私が山に入る時は、愛馬マロンが山賊なんか蹴散らしてくれるんだけどね。キスコチェ馬は、崖とかも駆け上がる脚力とバランス能力に長けており、足は短めでガッチリしていて、蹄が無茶苦茶固い。けっこう主人思いの良い子だから、山賊くらいならその凄まじい脚力と固い蹄で蹴り飛ばして撃退してくれる。直に蹴られたら即死しちゃうから、この辺りの山賊はキスコチェ馬を連れている人間は襲わないのだ。


 兵士全員にキスコチェ馬を貸し出せるほどはいないが、それでも少数精鋭のキスコチェ馬部隊がいれば、戦争も有利に運ぶこと間違いなしだ。


 後方からの攻撃に備えのないニグスキ王国を挟み打ちにできれば、リズパン王国の圧勝だろう。

 

 イーサンは、私の読みが的確であること、年齢性別関係なく戦略のセンスがあるとべた褒めしてくれる。


 これならやっぱりハーレムに入れてくれるんじゃないかと、期待いっぱいで話を聞いていると、ダニエル王が頭をガリガリかいて唸った。ワイルドな姿も素敵ね。


「……なるほで。こんなチンクシャが」


 チンクシャ言うな!まだ成長過程なの!


「もしもシャーロット殿の頭脳がニグスキ王国に渡ったら事です。ニグスキには未婚の王太子もいましたし」


 ニグスキの未婚の王太子?

 あれの嫁になるなんて、絶対に有り得ないよ?!


「俺はこれじゃ勃たんぞ」


 それはそれで困る。ハーレム入りできたとしても、放置プレイとか勘弁して欲しい。他の夫人達とのアハンウフンが聞こえてきたりしたら、なんの拷問だよって話だ。それなら、ちゃんとめくるめく官能の世界を一緒に目指せる男に嫁ぎたい。イーサンとかどうかな?年上ウエルカムだよ。下手な若者よりも熟練のオジサンのが断然良い。元気になれるお薬も作り方知ってるし。身体に無害だから大丈夫!


 私がイーサンに期待の眼差しを向けると、唸っていたダニエル王が座っていた玉座を叩いた。そのあまりに大きな音に驚いて飛び上がってしまったのは内緒だ。


「アダムを呼べ!」


 アダムって誰?

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