第71話 魔王様、作戦会議です
「うぐぐ……っ」
「あ、頭が痛いです……」
「ほらほらぁ、しっかり考えてよね! そんなんじゃ、いつまで経っても温泉宿をオープンできないわよ!」
領主館の執務室にて、額に汗を浮かべながら書類とにらめっこをする俺とリディカ姫。その様子を見ていたアクアが、横から口を挟んできた。
「現時点で村の経営が赤字なんでしょ? だったらまずは収入を増やすしかないじゃない」
アクアは涼しい顔で、紅茶を啜りながら豚饅頭を食べ始めた。
「そ、それはそうなんだが……そう簡単なことじゃないだろう?」
俺は頭を抱えながら唸る。
言われなくとも、収入を増やすためのあの手この手は打ってきたのだ。
特産品である豚饅頭を軸とした商業戦略。畑の拡張、広報活動エトセトラ……。
人族の街ではムッチーピング、そして最近では魔族領にも販路を拡大し“魔球饅”という名で売り出している。
その売り上げも好調ではあるのだが、それだけでこの村の収益を支えるだけのパワーは残念ながらまだ持てていない。
「そうですね……私たちにできることは、もう限られていると思います。それにこれ以上お金を投資しすぎると、後々に問題が出るかもしれませんし……」
リディカ姫も難しい顔をしながら腕を組んでいる。
彼女も今まで本で溜め込んできた知識や、人族の住んでいる街の情報を駆使した戦略を考えてくれてきた。つまり俺たちでできることは、もうやり尽くしているのだ。
だがそんな俺たちを見て、アクアが呆れた様子でため息をついた。
「はぁ。どうして二人ともこうも頭が固いのよ」
「なっ、どういうことだ?」
「要するに魔族や人族の国だけじゃ足りないんでしょ? だったらもう一つの国と提携すればいいじゃない!」
そう言いながら彼女は執務机の上にドン、と地図を広げた。それは俺たちの住むこの村を中心とした周辺の地図だった。そこへ赤いインクで小さな丸を記しながら、彼女は言う。
「今、妖精の国が"アツい”のよ」
ばばん、とドヤ顔でアクアは言い放つ。
対してリディカ姫の頭の上には、クエスチョンマークが浮かんでいた。
「妖精の国……ですか?」
「通称“湖畔の国”と呼ばれていてね、かつては水の妖精たちが集う地として有名だったのよ」
アクアは地図に記された赤色の丸を指さす。それはこの村の北東部にある地域だ。国の名前は書かれていないが、その付近に大きな湖が記されている。
「リディカが知らないのも無理はない。そこは魔族領でありながら、魔王の支配を受けない自治領――隠れ里なんだ」
妖精族は平和主義で、極端に争いを嫌う。かといって戦闘が弱いわけではなく、基本の魔法とは違った体系を持つ妖精魔法は、自然環境を変えるほどの強大な力を持っている。
一度力を振るえば大きな影響を与えるからこそ、その力を使うことを良しとしない心優しき者たちなのだ。特に
そんな妖精たちは、魔族と人族が戦争を始めた十年前に、さっさと魔族を見限って鎖国してしまったのだ。
魔族でさえ交流が途絶えてしまったのだから、当然ながら人族の国に情報は入ってこない。リディカが知らなくても仕方ないのだ。
そんな状況下なわけで、俺はその国に手を出そうとは思わなかったのだが……どうやらアクアは違うらしい。
「魔王ウィルクス様が打ち倒され、勇者が辺境で戦争を防ごうとしている今なら――ほら、ちょっと事情は変わるんじゃない?」
そう言ってアクアが出してきた案は……なんというか、ずいぶんと
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