第59話 魔王様、お夜食の時間です


 その日の夕食のあと、早速リディカ姫が作ったカッテージチーズでサラダにしてみた。


 トマトを刻んで塩と風味高い果実オイルを掛けただけ……なんだけど、このシンプルなやつも悪くない。うん、美味かったからまた作ろう。


 もちろん、獣人三姉妹たちにも大好評。

 フシなんて「コレは絶対に猫鍋亭の定番メニューにするのニャ!」と太鼓判を押していた。この調子だと、また数日は連続で俺はチーズを作らされる羽目になるだろう。



「あ~……疲れた……」


 もうすっかり夜も更けた時間なので、リビングのソファーで一人ぐったりとしていた。


 今日は朝から開拓に精を出して、午後からは牧場でチーズ作りと大忙しだった。



「転移魔法を使えるからって、調子に乗って動き過ぎたかもな……ん?」


 右肩に感じる体温と柔らかさで気が付いた。俺の隣に、リディカ姫が身を寄せてきていた。


「お疲れ様です、ストラゼス様」

「うん、姫様もお疲れさま……ってあれ? もしかして、お酒飲んでる??」


 彼女の手には赤い液体の入ったグラスと果実酒の瓶がある。リディカ姫は顔を赤く染めながら、にへらぁと笑った。



「えへへ~、ストラゼス様も飲みましょうよぉ」

「だいぶ酔ってるな……それは俺があげたお酒だろ? 姫様の分が減っちまうぞ?」


 先日、王城へ向かう間に城下町で購入したベリーワイン。

 リディカ姫のお土産に奮発したのだが、なんとおどろけ。この瓶1本で、30万アウルムもするのだ。リンゴ1個の相場が100アウルムしないぐらいだから、超高価なお酒なのである。


 慣れない辺境の村で頑張っている彼女へ、慰労を兼ねてプレゼントしたのだが。ちゃんと楽しんでくれているようでなにより。



「せっかくなので、勇者様と一緒にと思って……それに、今日は一日中働き詰めだったじゃないですか……」


 なるほど、俺の疲れを癒すために来てくれたのか。嬉しいなぁ。


「分かった。それじゃあ、ワインに合うようなツマミを作ってくるよ」

「えっ、良いんですか!? やったぁ!」


 フシたちより先に食べていた俺たちは、夕飯は取らずにいたからな。遅い時間に食べるのはちょっと不健康だけど、たまにはいいだろう。


 そうして食堂に向かった俺はストックしておいた食材と魔法で、ササッと食べられるツマミを作って帰ってきた。



「じゃーん、勇者特製チーズ焼きだ」

「……チーズ焼き、ですか? あっ、とても良い匂い! それに彩りも赤・緑・白で綺麗ですね!」


 そう、俺が作ったのはピザもどきだった。

 といっても、時間も食材も足りないから、本当にナンチャッテなピザだけど。


「練った小麦を薄く延ばした生地に、ドライトマトとオニオン、干し肉とチーズを乗せて焼いたんだ」

「ふわぁ……豪華ですね! 深夜にこんな贅沢をしちゃって良いんでしょうか!?」

「ははは、たまにはな。それに俺たちは勇者とお姫様、だろ?」


 茶目っ気たっぷりにウインクをすると、リディカ姫はクスクスと笑いながら「そうでした」と返してくれた。



「それじゃあ、さっそくいただきます!」

「おう」


 さらに乗ったピザを、姫様はナイフとフォークで器用にカットして口元へ。そして彼女は「あっ」と驚きの声を上げた。


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