第57話 魔王様、チーズ作りです
クーとケルベロウシの協力もあって、無事に畑の拡張も完了した。
総勢20頭の巨大なケルベロウシたちが、ドカドカと鉄の耕運機を一斉に
おかげで現在の畑は、元の倍ぐらいの面積に広がっている。端から端まではたぶん、1kmくらいはあると思う。
それを見た豚饅頭たちが嬉しそうにブヒブヒと鳴いていたので、近いうちにその畑もまた彼らに占領されるかもしれない……。
「そういえば、ミルクの使い道も考えないといけないな……」
今日一番働いてくれたケルベロウシたちを牧場に帰し、彼らを
ちなみにケルベロウシたちは、牛みたいにミルクを出す。加熱して殺菌すれば普通の牛乳のように飲めるし、搾りたては濃厚で美味いのだ。
「そのまま飲む以外にも、使い道があるんですか?」
「シチューとかの料理にも使えるし、チーズやヨーグルトみたいな加工品にもできるな」
「チーズ!? あ、あの王族でも滅多に食べられないとされる、超高級品の!?」
「うわっ!? どうしたんだよ急に……」
興奮した様子のリディカ姫は、目を輝かせながら俺の手を取って握ってきた。
たしかにミルクの保存がきかないから、あまり乳製品は出回っていないんだよな。王族や貴族でも中々お目に掛かれないような希少品だったか……。
「あっ……ご、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だけど……」
彼女の手がそっと離れていく。手の温もりが消えていくのが、少しだけ名残惜しいと思ってしまった。
ん、待てよ? 彼女から俺に触れたのって、コレが初めてな気がする。チーズに釣られてか……なんだか複雑な思いだ。
「……食べてみたい?」
「はい……是非……」
仕草がいちいち可愛いなぁ、このお姫様は。
「じゃあクーがたくさんミルクを搾ってきてくれたことだし、今日の夕飯はチーズ料理にしようか」
そうと決まれば、さっそくチーズ作りである。
だけどさすがにミルクだけでは作れない。
もうすぐ日が暮れてくる頃だし、サクっと転移魔法で街に買い出しに行ってこよう。
「わ、私もご一緒してもよろしいのですか?」
「もちろん。一人より二人の方が楽しいだろ? それにたまには息抜きをしないとな」
「ありがとうございます! では、お
リディカ姫は嬉しそうな笑顔で俺の後をついてくる。
ああ……なんか男女が二人で街に行くなんて、ちょっとデートみたいで楽しみだ。いずれ夫婦になったら、王都を散策しに行くのも良いかもな……。
そんな他愛ないことを考えなら、俺たちはその場を後にした。
◇
街に転移して、チーズを作るための食材や調味料などを買い込んだあと。
俺たちは、ふたたび領主館の
「思ったより少ない材料で作れるんですね?」
リディカ姫の前にある調理台には、バケツに入ったミルクと一本の褐色瓶が置いてある。あとは塩と水の入った鍋、それと森で採れた果実が数個。
「ああ。これだけで作れるんだ」
まず作るのは手作りチーズの基本、カッテージチーズだ。
シンプルだけど、とても簡単だし美味しいのでオススメ。
まず鍋にミルクを入れて火にかける。沸騰する直前で火を止めたら、森で採ってきた果実の搾り汁を投入する。
本来なら穀物酢を使えば確実なのだが、街で買ってくる必要がある。だから森で採れる果実で代用できるならそれに越したことは無い。まぁ駄目だったら今回は大人しく酢でやり直してみよう。
果汁を混ぜたそれを、素早くかき混ぜていくと……。
「できましたよ!」
「おぉ、意外とやれたな!」
リディカ姫の隣で教えながらやらせてみると、鍋の中で固形物ができてきた。
彼女は頬を染めてこちらを見上げている。成功して嬉しそうだ。
「これを布で
水気を取ったものをボウルに入れて、塩を振り掛けていく。茹で卵の白身を潰したような見た目になっていれば完成だ。
「ん、良い感じだな」
「じゃあ早速食べてみましょう!」
視界の端から、彼女は期待を込めた瞳を向けてくる。
俺は小さく頷き返すと、スプーンでチーズを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます