第44話 魔王様、プレゼンです
「はふっ、ほふっ。あづっ、ふーっふーっほふふっ」
「美味いのは分かったから、黙って喰えよ」
「
デビルヘッド……もう普通に豚饅頭で良いか。
なぜか畑で突然変異したウチの豚饅頭を、温泉旅館の建設のためにやって来ていたクリムにも食べさせてみた。
結果はまぁ、予想通りというか。
大きな腕で豚饅頭を引っ掴んで、バクバクと
領主館の食堂にあるテーブルへ山のように盛られた、大量の豚饅頭たち。見た目は可愛いピンク色の豚なので、それらに囲まれた大柄な筋肉ダルマ男とのギャップがすごい。
「それで、どう思う? これは魔族領でも売れるかな?」
「もごもご……ごくんっ。――ガハハハッ、愚問だな!」
最後のひと口をバクンッと豪快に食べきったクリムは、満面の笑みで答える。
「もはやただ売れるどころではない、これはバカ売れ必須。肉好きな魔族男子どもは必ずやドハマりし、この饅頭を手に入れようと命懸けの争いを始めるであろう!」
「いや、そんな血生臭いことが起きては困るんだが」
いくら美味くても、食い物で争いを始める気はないぞ。
「それは残念……だがしかし! 争いの無い世界は素晴らしいことだ!」
「まあな」
そんな世界を目指すために、俺は自らの命を捧げたんだから。食い物でくだらん争いはやめてくれ。
「とはいえ、この饅頭の量産は難しいだろう。この村の畑では、予想される需要の数を満たせまい」
「いやー、それがさ……」
普通ならそうだし、俺も当初はそう思っていた。
開墾したとはいえ、まだまだ畑は小規模。他の野菜を育てる必要だってある。
さらにさらに。ただでさえ村人は俺を含めて五人。聖獣は……まぁカウントしなくていいか。そんな少人数で、商売にするだけの豚饅頭をイチから育てるのは不可能だ。
だが――。
「この変異種デビルヘッドさ、自分で勝手に育って増えるんだよ」
「……は? いや、そんなまさか」
「マジでマジで。なんなら先に生まれた豚饅頭が、他の子供を育てているんだよ。見てみるか?」
半信半疑、いや九割一疑のクリムを豚饅頭の畑へと連れていく。
そこには「ぶひっ」「ぶひひっ」と賑やかな鳴き声のする豚饅頭農場が広がっていた。
「な? 言っただろ?」
「……こんなデビルヘッド、初めて見たぞ」
クリムが呆然と呟く。
そんな彼の様子を見て、豚饅頭たちがわらわらと集まってきた。
「か、かわいい……」
「この子たちは『こんにちは』と挨拶しているのです!」
「おぉ、しかも礼儀正しいとは……なぁストラ殿」
「自分の家で飼いたいって言っても駄目だぞ。ペットじゃないんだからな」
俺がそうジト目を向けると、クリムは頬を少し染めて目を逸らした。やめろ気持ち割るい。筋骨隆々なオッサンが可愛く照れても、誰の得にもならんぞ!?
「まぁともかく、数なら大丈夫。少しずつ流通に乗せて、認知を広げようと思う」
「そうだな。では俺が――いや、まずは水の四天王であるアクアに任せよう。商売は彼女の方が詳しい」
「アクアか……」
魔王時代の顔見知りたちとは会いたいような、会いたくないような……ちょっと複雑な気持ちだ。
アイツらには苦労を掛けているのに、俺はこの村で楽しくやってるという後ろめたさもある。もちろんこうして辺境を開拓しているのは、魔王では実現できなかった目的のためっていうのもあるんだが……。
「じゃあさっそく、アクアをこの村に派遣させよう。彼女も美容に効く温泉があると言えば、喜んで飛びつくだろう」
豚饅頭を優しく抱きかかえながら、クリムは明るい声でそう提案した。
「あー、すまん。実は人族の王様と、“月イチのお呼び出し”のお約束があってな。先にその用事を済ませてくるよ」
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