第32話 魔王様、建設です


「おぉー。自分の村が復興していく光景って、なんだか心躍るなぁ……」


 我がプルア村に、トンテンカンと釘を打つ小気味いいハンマーの音が響く。


 放置されていた廃屋はすでに取り壊され、代わりに新しい家の柱や基礎が作られ始めている。最初にこの村に来た頃の物寂しい雰囲気は、今はもう微塵も感じられない。


 領主兼、村長である俺は、その様子を眺めながら満足気に頷いた。



「何だかんだあったけど、クリムの提案を受けて良かったな」


 家屋の建て直しはリディカ姫を始め、フシたち獣人三姉妹も大賛成だった。


 守護聖獣のミラ様?

 あの白玉兎は『巨大な温泉旅館を作るンゴ!』とか言い出したので、シカトしておいた。


 ともあれ住人全員が可決ということで、さっそく俺はナバーナ村に支援を要請することに。

 ナバーナ村からプルア村までの移動や工事中の生活。そして賃金を払う条件で、向こうもこころよく了承してくれた。


 ちなみにだが、このお賃金。

 勇者が元々持っていたお金は、買い物でほとんど使い果たしてしまったので、新たに稼いでくる必要があった。


 仕方ないので、俺は森で魔物を狩り、それを街で売ってきた。何だか最近、村で過ごすよりも森にいる時間の方が長い気がするな……?



「そういえば領地は貰ったけど、王様から支度金を貰っていなかった気がするな?」


 ……ま、いいか。

 月イチで王城に行くし、きっとそのときに貰えるんだろう。



「おう、ストラの兄ちゃん! 木材の調達は上手くいきそうかい!」

「おかげさまで、なんとかなりそうです。ちょうど売り手に困ってる木材屋が街に居たので、安く譲ってもらえました」


 声を掛けてきたのは、今回ナバーナ村から派遣されてきたゲンさんだ。彼は大工さんで、なんとこの道50年の熟練らしい。


「……(じー)」

「オベールさんもお疲れ様です」

「……(ぺこっ)」


 それとゲンさんの弟子であるオベールさん。とても寡黙な人で喋っているところを聞いたことがない。だけど腕の方は確かで、この二人のおかげで建設がスムーズに進んでいる。


 しかもこの二人は魔族なだけあって、魔法を使った建築をしている。浮遊魔法で木材を持ち上げたり切ったりと、重機要らずなのだ。しかもそれがまた早い。この調子でいけば、予定よりも早く完成しそうだ。



「いやぁ~。『森の木を用意したから、これで家を建ててくれ』なんて言われたときは、ビックリしたぜ!」

「ははは、すみませんゲンさん。本当に知識が無かったもんで……」

「まぁ勇者つっても、できねぇこともあらぁな! まぁ俺っち達に任せてくれ!」


 日焼けした顔でニカッと笑うゲンさん。

 彼のいう通り、恥ずかしながら俺は、森の木があれば家が建つと思っていたのだ。


 だがゲンさんいわく、切ったばかりの木材は建設に向かないらしい。

 じっくり水分を抜いたり、柱や板材として適した形に変えたりと専門的な技術が要るんだとか。


 結局その木材は俺が転移で別の街で売り、専門店で買い直すことになった。まぁ、今となればいい経験となったかな。


 だから今はゲンさんにすべてお任せすることにした。指示を出してもらって、それを俺たちが従う。適材適所ってやつだね。



「しっかし、ストラの兄ちゃん。本当に良かったのか? こんな老いぼれ職人に大金を渡してよ。ありゃあ相場よりだいぶ高い給料だぜ?」


「良いんですよ、ゲンさん。その代わり、ナバーナ村の人たちにプルア村は良いところだって宣伝しておいてください」


「んなははは! そりゃあ金なんて貰わずともしてやるさ! なにしろプルア温泉は肩凝り腰痛、擦り傷にまで効く万能温泉だしな!」


 ゲンさんが、グッと親指を突き出した。


 彼は大金だと言っていたが、俺はそう思っていない。

 たとえ相手が老人や女子供だろうと、技術に見合った分はキチンと給金を出すのが当たり前だ。


 資金を稼いでくるのは確かに大変だけど、良い人材を引き入れる。そうすればゆくゆくは村のためになる……これは先行投資なのだ。



「ところで、ゲンさん」

「あぁ、アレか? アレは……あんま気にしないでやってくんな」

「う、うーん……」


 俺とゲンさんは、村の中央にあるプルア温泉旅館(仮)の建設作業をしている赤髪の男を見やる。


 もちろんその男とは、四天王のクリムである。しかも隣にはウチの犬獣人であるクーもいる。パワータイプ同士で気が合ったらしく、一緒に旅館を建てるんだと二人ではしゃいでいた。



「なんで魔王軍のトップが、人族の村で大工仕事を……」

「アイツはたまに行動力がバグるんだ。俺はもう、諦めたよ……」

「クリム様はすごい人だと、憧れていたんだがなぁ……」


 ゲンさんは皺だらけの顔で遠い目をしながら、悲しそうに呟いた。

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