第20話 変化です。

9月。夏休み明けだというのに日は長くまだ猛暑が続いていた。二学期最初のイベントは文化祭。俺たちの通っている高校は一年の二学期で体育祭と文化祭を交互に行っている。今年は文化祭の年で、休み明けの体を動かして準備を進めていた。ちなみに俺たちが考えた文化祭での出し物はプラネタリウムだ。

ダンボールやら絵の具、ペンキ、照明やライトの配置。やる事が多くてみんなが忙しなく動き回っていた。


「おーいじんたん。こっちちょっと手伝ってくれ」


「はーい」


康ちゃんに呼ばれ看板の制作を手伝う。学校の一大イベントと言うだけあり、大掛かりなもので毎日が忙しい。夏休みの事を忘れるほどに。


午前中の作業が終わり、休憩に行く人が増える中、俺は作業を続ける。


「じんたん、休憩にしようぜ」


「いや、もう少しだけやってからにするよ」


「ほーい」


作業に集中している間は忘れる事ができた。深く考えなくていい。ただ目の前の事に集中しろ。

それから時間が経ち、気がついた時には周りに人が居なくなっていた。どうやらみんな休憩に行ってしまったようだ。


「俺もここの色つけたらご飯食べよっと」


「仁太」


「由ちゃんどうしたの?」


「休憩とったの?」


「いや、つい夢中になって。これが終わったらとるつもり」


こんな事を思うなんて俺はどうかしてる。自分でそう思う。今は由ちゃんと2人で話したくなかった。


「仁太」


「なに?」


「何かあったでしょ」


「え?」


「何か変だから。いつもの仁太じゃない」


「いつもの俺ってなに?」


ダメだ。


「いつもの仁太は優しくて、周りの事をちゃんと見てて楽しそうな笑顔だった。でも今の仁太の笑顔は苦しそう。いつものあの笑顔じゃない。何かあったんなら話聞くよ」


「聞いてどうする?」


やめろ。


「え?」


「聞いて、俺の気持ちが晴れるわけじゃない。この行き場のない思いが消えるわけじゃない。苦しい。この気持ちを誰かに押し付けたい。でもそれは逃げだ。だから俺はこの気持ちをずっと…」


「仁太」


「由ちゃんは優しいよ。でもその心遣いが今は苦しい」


「…」


これはただの八つ当たりだ。由ちゃんは悪くない。彼女にこんな表情をさせるつもりなんて無かった。でも由ちゃんの声を聞くと自分の弱い部分を曝け出したくなる。


「ごめん、忘れて。じゃ」


横目に見た彼女の表情が瞼に焼き付く。俺は彼女を残し教室を出る。


「そんなこと聞いて、引けるわけないじゃない。大切な人が傷ついてるのに!」


つい先ほど教室を出た彼を追い教室を出る。長い廊下を見るが彼の姿は無い。


(仁太が行きそうな場所。それは人に見つからないような場所!)


空き教室、体育館、校舎裏。そのどこにも彼の姿はなかった。


(それなら屋上)


階段を駆け上がる。胸が苦しい。でもこの苦しさは彼が胸に抱いている気持ちとは全く異なるものだ。それでも、彼に会わなければならない。彼に会って話さなければならない。彼に何があったのか。


屋上の重い扉を開けて見渡す。彼を見つける。でもその彼は屋上の端に居た。歩みを進めて。息を呑む。彼が今からすることの最悪を考えたから。駆け上がり息の整わない呼吸、震える足。そんなものどうでもいい。手を伸ばし彼を掴み引っ張る。めいいっぱい引っ張った事で彼は体制を崩し私もそれに釣られ倒れる。


「馬鹿仁太!ほんとに手出るよ!!!このアホ!」


「え、え!?由ちゃん?どうしたの?」


「こんのー馬鹿!!!」


彼を助けれた。その安堵と切れた呼吸で咽せび泣く。

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