第16話 夏は始まったばかりです。

「難しい…」


「早伊香頑張れ!」


「よるみんファイトー」


「がんばれよるみ〜ん」


「が、頑張って夜巳さん」


夏休み真っ只中にも関わらず、俺たちは制服で学校へと来ていた。その訳は期末テストで赤点を取ってしまった夜巳さんの補習を応援しに来ていた。

補習プリントに頭を悩ませている夜巳さんを俺と由ちゃんが挟み教える。カトちゃんが居てくれたら良かったんだけど…(カトちゃんはお店の手伝い)


「ごめん僕は数学得意じゃなくて…力になれません…」


「俺は人に教えるほど頭良くねぇし…」


「ならなんで来たのよ!!!」


「ヒッすみません!」


「俺はからかいにー」


「ムキーっ!早く終わらしてあげるからそこで大人しく待ってなさい!」


馴染めてるようで良かった。野々くんと友達になった後、みんなに紹介した。最初は緊張もあり話すことすらできなかったが、少しづつ話せるようになったと感じる。


「終わったわ!」


「はい、お疲れ様」


「さて、そこに座りなさい和栗くん。私がプリントで手が離せない事をいい事に散々言ってくれたわね…」


「ひぇ…」


康ちゃんが教室から飛び出しそれを追いかけ夜巳さんも教室から出ていく。


「じゃあ、この補習プリント先生に渡しに行くわよ」


「は〜い」


俺と由ちゃん、野々くんで職員室へと向かう。職員室には担任の繭村先生しか居らず、ガラんとしている。書類の山に囲まれ大変そうだ。


「先生、早伊香の補習プリント預かってきました」


「うん、ありがとう。今は、もう10時か…プール掃除に行かないとなんだけど…」


「先生って多忙?」


「そーなんだよねー。あー誰か心優しくて優秀な先生を助けてくれる“心優しい人”って居ないかなー」チラチラ


2回言った。そしてこの言い方は確信犯ですね。逮捕です。こんな事言われたら…


「先生私たちがやりますよ。ちょうど人数も居ます!」


「おお!いやー助かるよ♪これ鍵ね。後で様子見にいくからよろしく頼むよ」


「任せてください!」


ほらこうなった…由ちゃんは困ってる人を放っておく程無慈悲ではないからね…先生はそれを分かってて言ったのだろう。


「全く…」


ジジジジジ…

ミーンミンミンミーン…


「どうしてこうなるんだ」


由ちゃんとブラシで擦りながらそう思う。ホースを占領して水をかける悪戯をする康ちゃん。その悪戯の標的の夜巳さん。2人の悪戯を止めようとしてとばっちりにずぶ濡れになる野々くん。


「こうなると思った。野々くん大丈夫?」


「大丈夫!夏だからすぐ乾くと思うし」


ため息を吐き悪戯を止めに動く。


「康ちゃん、真面目に」


「あ、はい」


元凶を止めたのでもう大丈夫なはず。が、夜巳さんはそれでは気が収まらないだろう。ならばと康ちゃんからホースを回収し夜巳さん手渡す。結果は言わずもがな…びしょ濡れになった康ちゃんの出来上がりである。


そこからの掃除はスムーズに進んだ。由ちゃんの指揮のもと手早く終わりプールには綺麗な水が張られた。

俺たちはプールサイドで足をプールにつけ各々が自由に涼んでいた。


「お、終わってるねー助かったよありがと。これは頑張ってくれた生徒諸君に先生からのご褒美だよ」


何処からか見ていたのか何とも絶妙なタイミングで登場する繭村先生。の左手にはアイスの箱が握られていた。


「マジっすか先生!」


「ありがとうございます先生!」


「詩織ちゃんありがとう。あ…」


「おま、学校では繭村先生だろ!」


「え、何どゆこと?」


野々くんは確かに繭村先生の事を下の名前で呼んだ。疑問。


「まあ、君たちなら大丈夫かな。鳴海は私の友達の息子さんでね。こっちに来る前からの知り合いだ」


新事実。


「色々と詮索するお馬鹿さん達がいるから黙っていたんだ。けどまあ、鳴海がここまで自然体でいられるの君たちのおかげだね。これからも仲良くしてやってくれ」


じゃ仕事に戻る。遅くならないように帰る事。そう言い残し先生は帰って行った。


「へぇー野々くん先生のこと詩織ちゃんって言ってるんだー」


「ぐっ…」


蝉の鳴き声と野々くんへの質問攻めが始まり俺はそれを聞きながら横になる。

暑い日差しと胸が高鳴る話を聞き思う。どうやら、俺たちの夏はまだ始まったばかりのようだ。

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