第41話 アルのお土産 15
ジュリアンさんにリボンをかませたあとも、威嚇するようににらみつけるアル。
「この邪気、かなりしつこくて、今までにない感じなんだよね……。万が一、アルに飛び移ったりしたら厄介だから、とりあえず、壁のところまで離れといてくれる?」
「わかった。ライラも油断するな」
アルはそう言うと、視線はジュリアンさんをにらんだまま、ものすごいスピードで、器用に後ろ向きにさがっていった。
そして、あっという間に壁際にたち、ジュリアンさんに、にらみをきかせるように腕を組んでいる。
離れても、視線の圧がすごい……。
でも、まあ、これでアルの方は良し。
が、今度は、ジュリアンさんが、なにやら口をもごもごして、私に何か言ってきた。
なんだろう……?
首をかしげると、ジュリアンさんが、口のリボンを左手で指差した。
「あ、それね。ごめんなさい、ジュリアンさん。ちょっと、そのままで我慢してくれる? 今は、アルの対応が面倒だから」
と、私の気持ちを隠さず言う。
ジュリアンさんがアルを見る。
アルは私の指示通り、ジュリアンさんからしっかり離れ、壁際に立っている。
そういうところは、すごく素直なんだけれど、視線がね。怖すぎるよ……。
王子というより、暗殺者みたいな目で、ジュリアンさんを見ている。
ジュリアンさんも、その視線に恐れをなしたのか大人しくなった。
とりあえず、リボンを外すことをあきらめたよう。
でも、今はそのほうがいいわ。だって、それを外すと、今度は顔全体を覆われるみたいだからね。
ということで、ジュリアンさんの手に、私は再び集中する。
黒い邪気がとれ、肌が見え始めたところから、その隣に手を動かし、今度は、そこだけに集中して吸い取る。
そして、地肌が見え始めたら、また手を動かして、邪気を吸い取る。
そうやって、少しずつ吸い取っていくと、ジュリアンさんの肌が見える範囲が、だんだん、ひろがっていった。
それにしても、やっぱり、触ると早いよね! この調子で、どんどんいこう!
どんどんどんどん、吸い取って、吸い取って、吸い取りまくろう!
もっともっと、吸い取って、吸い取って、吸い取りまくろう!
と、心の中で自分を励ましながら、夢中で邪気を吸い取る私。
ふと気が付くと、いつのまにか、声にでていたみたい……。
背後から、アルのククッと笑う声。
リボンをかまされたままのジュリアンさんも笑っている。
うん、かなり恥ずかしい……。
が、すぐさま、開き直った私。
というのも、私は、今、ものすごくやる気に満ちているからね。
小さいことが気にならないの! ……フフフ!
だって、テーブルには山となった種。
ちらっと見ただけでも、まがまがしい雰囲気が漂っている。
はあー、なんておもしろそうなんだろう。
ものすごく珍しい種が取れたかもしれないわ!
後で、ゆっくり観察できると思えば、更にやる気が満ちてくる。
ということで、気合いを入れ、必死で手を動かす私。
そして、やっと、ジュリアンさんの手から黒い邪気が消えた。
「完璧にとれたわ! ジュリアンさん、右手をにぎってみて」
私の言葉に、ジュリアンさんはうなずいた。
そして、邪気のとれた右手をにぎって、ひらいて、また、にぎって…!
「すご…、ぜん…、い…! あ……! ラ………っ!」
ジュリアンさんが何を言っているか、全然わからない。
でも、ものすごく喜んでいることは伝わってくる。良かった!
アルがすぐさま、私のそばによってきた。
「ライラ。大丈夫か!? ……あ、汗がでてる! そんなに一生懸命やらなくていいのに……」
そう言いながら、自分のハンカチを取り出し、甲斐甲斐しく、私の額の汗をぬぐってくれた。
「アル、私は大丈夫だよ。それより、ジュリアンさんのリボンをとってあげて」
「ああ、そっちはどうでもいい。きつく縛ってあるが、右手が動き出したのなら、自分でとれるだろ。そんなことより、ライラの大丈夫はまるで信用できない。以前、母上の邪気を吸い取ってくれた時も、力を使いすぎて倒れただろう? とりあえず、休んでくれ」
「それが、今日は疲れてないんだよね。多分、アルがお花を私のまわりに置いてくれてたからだと思う」
と、話している間に、ジュリアンさんは、自分でリボンをほどいたみたい。
椅子からたちあがると、椅子にすわったままの私の隣に立った。
そして、そのまま、ひざまずいた。
え? ジュリアンさん、一体、何を……!?
「ライラちゃん。本当にありがとう。俺、ジュリアン・ロンバルディーは、一生、ライラちゃんについていく。ということで、ライラちゃんに忠誠を誓います」
そう言うやいなや、ものすごい勢いで、私の手をとり、自分の額を私の手の甲に押し当てた。
「断る!」
と、アルの声。
そのまま、アルは、ジュリアンさんの頭を押しのけ、手を叩き落とし、ジュリアンさんに蹴りを入れ、私を抱きしめるようにして、ジュリアンさんから引き離した。
ジュリアンさんは、アルに蹴られて床に転がった。
「ライラに触るな。死にたいのか、ジュリアン?」
アルの凍りつきそうな声が響く。
いや、アル……。なんで、そんな物騒な話になるの?
が、怒るアルを気にする様子もなく、涼しい顔で立ちあがったジュリアンさん。
「ほんとは、ライラちゃんの手にキスをして忠誠を誓いたいところだったのに、アルが怒るだろうと思って遠慮したんだ」
と、私に向かって甘ったるい笑みを投げかけてくるジュリアンさん。
なんだろう……。
その笑顔の裏に、どす黒いものが見えた気がする。
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