第26話 ある日の返信

ライラ様


 ライラちゃん、お手紙ありがとう。とても楽しく読ませてもらいました。

 挨拶ぬきで、ライラちゃんの普段の様子をお手紙に書いて欲しいと頼んだのは私ですから、気楽に書いてね。


 ライラちゃんとこうやって、お手紙の交換ができるのが、とても嬉しいの。

 私はお妃教育が忙しくて、手紙を交換するようなお友達がいなかったから。

 だから、ライラちゃんは娘でもあり、初めてできたお友達みたいな気もしているのよ。


 お花のスケッチもありがとう。

 本当に珍しいお花ですね。興味深くて、見入ってしまいました。

 お花の特徴を、しっかりとらえた絵は、丁寧に愛情を込めてお世話をしているライラちゃんだからこそ描ける、素敵な絵だと思います。

 また、是非、見せてくださいね。楽しみにしています。


 それと、マーラの毛の手袋が、そのような威力を発揮したなんて、大変驚きました。

 すぐに、マーラに詳しい隣国出身の学者さんに、マーラについて話を聞きました。

 すると、興味深いお話があったのですよ。


 隣国のある小さな村では、マーラは邪気を食べる生き物だと言い伝えられているそうです。それは、昔、呪われて、病に伏していた人が、マーラの毛で作られた衣を着たら、病が治ったからだそう。

 だから、いまだに、そこの村人たちは、魔除けとして、マーラの毛をお守りに持っているようです。

 学者さんからいただいた資料を、アルに渡しておきますね。


 私は、身近な人たちに、よく、マーラの毛の手袋をプレゼントしています。

 でも、だれからも、そんな不思議なことが起きたとは聞いたことがありません。もちろん、愛用している私もアルもです。

 隣国でも、その村以外には、マーラの毛をお守りにするという風習はないみたい。


 学者さんが言うには、その村で、病が治ったという言い伝えが本当ならば、年代的に、野生のマーラの毛を使ったことになるそうです。

 でも、今は、野生のマーラはいない。全て、人間が飼っているマーラだけです。

 つまり、野生のマーラにそのような不思議な力が仮にあったとしても、今や無いも同然なのでは、とおっしゃっていたわ。


 私はね、邪気をとれるライラちゃんが、マーラの手袋を使ったからこそ、マーラの弱まった能力を活性化したのではと思っています。


 だから、ライラちゃんに、今度は、マーラの毛で編んだ帽子とマフラーをプレゼントさせてね。他人の邪気を取ってばかりいるライラちゃんを守ってくれることを願って贈ります。冬になったら、庭仕事の時にでも使ってください。

 

 しばらく、ライラちゃんと会っていないから、そちらの屋敷を訪れたいのだけれど、王宮の行事が立て込んでいて、残念ながら、しばらくは動けません。

 王都に来るときは、絶対に連絡してね。


 アルはね、ライラちゃんに会いに行く週末が近づいてくると、どんどん顔がゆるんでいくの。見る度に、笑ってしまうわ。


 小さい頃から、アルには、王宮暮らしで苦労させてきたから、こんなに楽しそうなアルを見られて本当に嬉しい。

 ライラちゃん。これからも、アルをよろしくね。


 それと、お庭の仕事は、どんどんアルを使ってください。

 どうやら、植物や庭の本を読んで、勉強をしているみたいだから。アルの親友が教えてくれました。


 では、また、お手紙をくださいね。楽しみにしています。


                              コリーヌ

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