第21話 思い出してきたら
目がさめたら、王都の屋敷にある自分の部屋だった。
「ライラ……!」
泣きながら、私にむかって微笑みかけるお母様。
起き上がろうとしたけれど、体に力が入らない。執事のライアンが、さっと近づいてきて、体をおこしてくれた。
「ありがとう、ライアン」
「お嬢が無事でよかった……」
いつも笑顔のライアンが、涙ぐんでいる。
「心配かけてごめんね。お母様、ライアン……」
私の言葉に、ライアンがくしゃりと微笑み、お母様は、私をそっと抱きしめてきた。
目覚めたばかりの頭は、霧がかかったよう。
「ええと、私、階段から落ちたような……。うん、確か、落ちたよね? それで、あれから、どうなったの?」
お母様は、ゆっくり私の体を離すと、私の顔をのぞきこんで答えた。
「ライラが階段から落ちたところを、アルフォンス殿下が受け止めて、助けてくださったのよ」
「え、アルが!? じゃあ、あの時、私が見たのは、夢じゃなかったんだ……」
「アルフォンス殿下のおかげで、ライラは無傷で助かったの。ライラが意識がない間も、毎日、お見舞いにきてくださっていたわ」
「意識がない間?」
「ライラは5日も眠ってたのよ!」
「5日もたってるの?!」
だんだん頭がはっきりした。
私は、はっとして聞いた。
「パトリックはどうなったの?!」
思わず、大きな声で聞くと、お母様は困ったように、表情を曇らせた。
その時、部屋の扉が開いて、お父様が入って来た。
「ライラ。私が説明しよう」
ベッドのそばまで来て、椅子に座ったお父様。
そして、私の頭を優しくなでた。
「ライラの意識が戻って本当に良かった。……それと、長い間、気づいてやれず悪かった」
「え?」
「パトリック君のことだ。ずっと、ひどいことを言われていたのだろう? パトリック君に全部聞いたよ。ライラが傷ついているのに、全く気づかなくて、本当に申し訳なかった」
と、お父様は私に頭を下げた。
パトリックが、自分で言ったの?
茫然としている私に、お父様が静かに説明をはじめた。
「まず、当然、婚約は解消だ。うちのほうから婚約破棄をしてくれと公爵から泣きながら詫びられたが、これ以上ことを荒立てて、ライラを好奇の目にさらさせたくはないから解消にした。あと、パトリック君は、ライラに直接会って謝りたいと言ったが、それも断った。彼は、今、魔力治療院へ入院している」
「入院?」
「パトリック君は、あのボリス子爵家の娘に、長く操られていたため、治療をしないといけないらしい。あの娘には弱いが人を操る魅了の魔力がある」
「やっぱり、魅了だったんだ……。でも、あれで弱い力なの!?」
「ああ、測定すると、魅了の力は弱いそうだ。パトリック君の心が弱っている時につけこみ、時間をかけて魅了していったのだろうというのが魔力院の見解だ」
「それで、アンナさんのほうはどうなるの?」
「例え弱くとも魅了の力を使って人を操ることは禁じられているからな。魔力院にある、魔力を封じられる部屋で監視されている。パトリック君と離されたことで錯乱状態になっているようだ。あと、パトリック君が、ライラは、あの娘によって吹き飛ばされて階段から落ちたと証言した。魔力院は、魅了以外にもあの娘に人に危害を与える魔力があるか、調べているそうだ。それが判明すれば、ライラを階段から落とした罪を問えるが、あの精神状態では、まだ先になるだろうな……」
と、お父様が悔しそうに顔をゆがめた。
あの時の状況を思い出してると……、あ! 私、まずいんじゃない?!
「どうしよう!」
「どうした、ライラ?」
心配そうに聞いてきたお父様。
「私、あのあたり一帯、花の種だらけにしたんだけど……。パトリックの邪気をとるのに必死で、種を回収できなかったから。もしかして、私の力、ばれた!?」
「いや、アルフォンス殿下が、素早く処理してくれたから大丈夫だ。本当にアルフォンス殿下にはどれだけ感謝しても足りないな……」
そう言って、お父様は目を潤ませた。
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