第18話 どうやって?
「なあ、パトリックとアンナって、つきあってるのか?」
と、声が聞こえた。
声がしたほうを見ると、二人の青年がいた。
パトリックの友人、ブランディ伯爵家のヘンリーと、同じくらいの年に見える青年だ。
「どう見ても、あれはそうだろ? あいつら、学園で、よく一緒にいるしな。俺はずっと二人が恋人だと思ってたよ。だから、パトリックに婚約者がいるなんて、思いもしなかったけどな。しかも、辺境伯の令嬢だろ? パトリック、未来の辺境伯を棒にふるなんて、ほんと馬鹿だよ。その地位、俺がもらおうかな。辺境伯の令嬢、すごいかわいかったし」
と、嫌な笑みを浮かべたヘンリー。
いやいや、友達面して陰口を言う人なんて、絶対にごめんだわ。
というか、あのオレンジ色の髪の女性がアンナさんね。
なるほど、つきあってたんだ……。
パトリック、私との婚約が嫌すぎて、あんな態度だったのかな? それなら、さっさと婚約解消してくれれば良かったのに。
そこで、一層、まわりのざわめきが大きくなった。
というのも、アンナさんがパトリックにぴったりと抱き着くように手をまわしたからだ。
「おいおい、こんな大勢の前で何してるんだ、あの二人は!?」
「あの次男、婚約者がいるだろう?」
「あの特徴的なオレンジの髪は、ボリス子爵家の一族か? なんて品のない娘だ」
と、非難する声がどんどん大きくなってくる。
ふと、公爵夫妻を目で探すと、私の両親とともに、今もまだ、沢山の招待客に囲まれていた。
ここからは、離れているけれど、パトリックたちの行動が耳に届くのはあっという間だろうな。
人の良い公爵夫妻が、このことを知ったら……、想像しただけで、胸がズキンとなった。
二人は不自然なほど密着していて目をひくため、ひそひそと噂をする声が、ざーっと、まわりに広がっていった。
まあ、私から見ると、黒い煙でぐるぐる巻きにされて、全く身動きのとれないパトリックを、アンナさんが、しっかりと捕獲しているように見えるんだけど。
そのアンナさんは狂気をはらんだ笑みを浮かべ、うっとりとパトリックを見つめている。怖い……。
反対に、パトリックの顔色は悪い。黒い煙が縄のようになり、パトリックをきつく縛っているから、苦しそう。
早く、あの黒い煙を吸い取って助けなきゃ! でも、どうやって……!?
私が焦って考えをめぐらせていると、アンナさんがパトリックの腕をひっぱるようにして、歩き始めた。
私には黒い煙の綱でつながれたパトリックが、アンナさんに連行されていくように見える。
身動きもとれず、全く逆らえないパトリック。
歩き始めた二人を、まわりの人たちが好奇の目で見ている。
そして、離れたところでその様子を見ている私に気がついた人は、私にも視線を送ってきはじめた。
同情、興味、憐れみ、好奇……。色々な思いが混じった視線が痛い。
が、そんなことより、アンナさんは、パトリックをどこへ連れて行くんだろう?
私は、少し離れた状態を保ったまま、あとをつけ始めた。
すると、扉をあけて、二人がこのフロアから出て行くのが見えた。
あわてて、あとを追う。
フロアから出ると、そこは長い廊下になっていた。左右どちらにも行けるみたい。
が、左右を見ても、二人の姿は見えない。
どっちへ行ったのかな……?
公爵邸は初めてなので、屋敷の中が一体どういうつくりになっているのか、まるでわからない。
きょろきょろと注意深くあたりを見回していると、廊下の向こうに、黒い煙が漂っているのが見えた。
あの邪気だ!
私は、あわてて、黒い煙をおいかける。
黒い煙は、廊下の曲がり角から流れてきているようね……。
私は、急いで、そこへ行くと、黒い煙をたどって、廊下の角をまがった。
あ、二人がいる!
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