第16話 放っておけない

 そこへ、パトリックと同じ年くらいの青年が寄って来た。


「よお、パトリック。すごいかわいい子連れてるな。紹介してくれよ」


 が、パトリックは不機嫌そうに顔をゆがめた。


 あれ? お友達じゃないのかな? 

 不思議に思って二人を見ていると、青年が今度は私に話しかけてきた。


「俺、ヘンリー。ブランディ伯爵家の長男で、パトリックとは同級生で友達。よろしくー」


 なんとも軽そうな感じの人……。

 そして、この青年ヘンリーにも、黒い煙がまとわりついている。


「ヘンリー、この子は俺の婚約者だ。ちょっかいだすな」


「ええっ?! 婚約者? おまえ、婚約してたのか?!」

と、目を見開いたヘンリー。


「ああ」


「おまえ、じゃあ、アンナはどうす…、あっ、いや、なんでもない…」


 私の顔を見て、急に気まずそうな顔をしたヘンリー。


 今、アンナって言った? それって、女性の名前だよね? 


 思わず、私はパトリックの顔を見ると、パトリックは、すごい目でヘンリーをにらんでいた。


「いや、なんか、ごめん。変なこと口走って…。婚約者さん、気にしないで。ええと、じゃあ、俺はこれで…」


 あわてた様子でそう言うと、すごい勢いで、ヘンリーは立ち去って行った。

 

 またもや、パトリックの胸からあふれでる黒い煙が、どーんと増えた。

 つまり、今のヘンリーの話、パトリックは、よほど気に入らなかったんだよね?

 

 でも、アンナさんがどうしたんだろう? 気になるな……。

 

「ええと、さっきの方、ヘンリーさんが言ってたことなんだけど……」


「あいつの言ったことは忘れて。どうでもいいことだから。ライラが知る必要はない」

と、冷たい声でパトリックがぴしゃりと言った。


「でも……」


「ライラは、ぼくが信用できないの?」


「そういうわけじゃないけど……」


「じゃあ、もういいよね、この話は。それより、色々紹介したい人がいるからフロアをまわるよ。こんなにきれいにしているライラを見せびらかしたいからね」

と、パトリックが、とってつけたように私に微笑みかけた。


 その時、パトリックの首の黒い煙が、ぐるぐるとまきつくように動き始めた。


 え!? これって、首をしめられてるんじゃない!?


 途端に、コホッコホッと、せきこみ始めたパトリック。苦しそうだ。


 この黒い煙、そのままにしとくには心配な感じよね。

 さすがに放っておけない。


 でも、みんなが見てるし、どうしよう? ……いい方法が、ほかに浮かばないから仕方ないよね。 


 私は、せきこむパトリックの背後にまわった。


「大丈夫、パトリック?」

と言いながら、背中を片方の手でさする。


 そして、片方の手のひらを首の後ろのあたりにあて、黒い煙をすい取り始めた。

 一瞬にして、手のひらに花の種が生まれる。それを小さなバッグに押し込み、また、すい取る。

 はたから見ると、心配のあまり、婚約者の背中をさすっているように見えるだろう。


 そして、やっと、落ち着いたパトリック。

 私の方を振り返って、微笑んだ。


「心配してくれてありがとう、ライラ。もう大丈夫だから」


 そう言ったパトリックの表情はおだやかで、心底、嬉しそうに見えた。


 その後、張り切った様子のパトリックに、婚約者として紹介されまくり、覚えられないくらいの人たちと挨拶をしまくって、もうぐったりだ。


 パトリックは上機嫌で、胸からでる黒い煙は今は止まっている。


「ライラ、疲れたでしょ? ここで休んでて。ぼくが、何か美味しいものでも取ってくるから」

 

 パトリックはそう言うと、私を椅子に座らせて、食べ物を取りに歩いていった。


 私はバッグをあけてみる。小さなバッグには、パトリックの邪気から取れた花の種がぎゅうぎゅうにつまっていた。


 疲れているけれど、種を見ると、ちょっとわくわくしてくる。

 帰ってから、ゆっくり観察しようっと!

 

 ふと、食べ物の並ぶテーブルのほうを見ると、あのオレンジ色の髪の女性がいた。

 やはり、女性の体からは黒い煙がふきだしている。

 

 すごい量の邪気。それに、全部が、どこかに向かっているみたい……。

 

 私は心配になって、その黒い煙が向かう先を目で追う。

 すると、そこにはパトリックがいた。


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