第3話

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 観光客向けに作られた商業地区は、見栄えこそオシャレでどこか僕には近寄りがたいような雰囲気だったけれど、僕らがその場に着いた時には大半の店がシャッターを下ろしており、道を歩く人たちもまたまばらだった。


 茶色いアスファルトの歩道が海岸線に沿って続いており、海を望むようにして作られた真新しい平屋の建物がいくつも建ち並んでいる。その様は僕が知っている幼いころの、あの寂れた姿とは全く異なっていて、何だかとても複雑な心境だった。


 昔はよく死んだ爺さんと釣りをしに来ていた場所だったのだけれど、今では見る影もありはしない。だからだろう、僕はあまりこの道を通ったことがなく、どんな店が入っているのかすらよく知らなかった。


 反対に陽葵と千花はしょっちゅうウィンドウショッピングに来ているらしく、ここが出来上がった時も潮見たちのような他の女子たち同様、心底嬉しそうに喜んでいた。まぁ、女子たちからすれば寂れた港町よりも、オシャレな港町の方が良いに決まっているか。


 僕たちはそんな中、三手に分かれて行動する。


 陽葵と真帆さん、千花と潮見、僕と陸はそれぞれ割り当てられた辺りをくまなく歩いて回ることになった。


 遊歩道の海側に設けられた花壇にはたくさんの花が植えられていたはずだったが、今ではすっかり枯れ果ててしまっており、萎れて茶色になった茎と葉が黒い土の上にぐったりと横たわっている姿が何とも痛々しかった。


 茶色いアスファルトも、数年前に出来上がったばかりのはずなのにすでに所々ひび割れ始めており、遠目に見て綺麗だと思っていただけで実際はもうすでにそれなりの劣化が始まっているようだった。或いは真帆さんのいう、魔力の流出が関わっていたりするんだろうか。


「魔力が流れ出してるっても、よく判んないから困るよなぁ?」


 陸が唇を尖らせながら、僕に声をかけてきた。


 僕は花壇から顔を上げながら、

「俺もここ数日、真帆さんや潮見とあっちこっち探して回ってるけど、いまだに何が何だかよくわからないんだよね」


「だよなぁ?」

 陸はふんっと鼻を鳴らして、

「いったい、どうしろってんだろうな? そもそも魔力ってなんだよ! 魔女ってなんだよ! そんなん、漫画とかアニメの世界のもんだろ? 真帆さんや潮見が魔女って、マジかよ! びっくりだよ! すげぇよな!」


 否定したいのか肯定したいのか、いったいどっちなんだと思いながら、僕は隣の花壇に顔を近づけ、

「まぁ、この世には俺たちの知らないことがまだまだたくさんあるってことじゃない?」


「だよな。そういうことだよな。俺たち、この港町から外に出たことなんて、ほとんどないもんなぁ。中学校を卒業して、高校も卒業して、もしかしたら大学にもいって。そんでもって社会に飛び出していったら、もっともっと知らなかったことを知るようになるんだろうなぁ」


「……なんだよ、突然」


「いやぁ、世界って広いよなぁ、色んなことがあるんだなぁって、感動してんだよ」


 そこで僕は大きくため息を吐いて、改めて陸に顔を向ける。


 陸の企みなんて、だいたい解っている。


「適当なこと言って、全然探そうともしてないじゃないか。口ばっか動かしてないで、お前も魔力の穴ってやつを早く探せよ」


 やはりサボり目的のお喋りだったのだろう、陸は軽く舌打ちして「バレたか」と呟き、

「わーかったよ、探すよ。探せばいいんだろう?」


「そう、探せばいいんだよ」


 花壇の様子を虱潰しに探る僕の横で海を覗き込むようにして、

「んじゃまぁ、俺は海の様子でも見てみるわ」


「サボんなよ?」


「サボらねーよ!」


 そんな会話のあと、確かに陸は目を凝らすようにして海の様子をじっと見つめ始めて、僕も花壇に視線を戻したところで、


「……んんっ? おいっ! おいっ! ハルトっ! おいってば!」


「なんだよ、今度は」


 渋々頭をもたげると、陸が眼を大きく見開いたまま、僕を手招きして、


「あ、アレ! 何かいる! デッカイなんかが泳いでる!」


「デッカイなんか?」


 また適当なこと言ってんじゃないだろうな?


 思いながら、僕は陸の隣に立って、陸が指さす水面に視線をやって。


「――んなっ、なんだ、アレ」


「だよな? やっぱアレ、変だよな? デカすぎるよな?」


 そこには、巨大な何かの鱗が見えた。


 海の中を、何か巨大な、蛇のような生き物が、うねうねとうねりながら泳ぎ回っていたのである。


 いったいどれくらいの太さがあるのだろうか。ここから見た感じ、腕を回して抱き着けるか怪しいくらいの太さに見える。


「デカいとかデカくないとかいう問題?」

 僕は横目で陸に言ってから、

「と、とりあえず真帆さんたちを呼んでくるから、陸はアレから眼をそらさないように見てて!」


「あ、あぁ、わかった、頼む!」


 僕は踵を返すと、真帆さんたちのいる方へと駆け出した。

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