第5話
マスクウェルは清楚なタイプが好きではあることは、事前の知識から把握している。
乙女ゲームにはアリスを攻略対象者好みに着せ替えて好感度を上げていく要素もあったからだ。
しかしここはマスクウェルの幸せのために、悪役令嬢になると決めたからには、家族には迷惑をかけないように努力をしなければならない。
エマには今持っている中で一番豪華なドレスを用意してもらった。
高めのツインテールの巻髪、若干のドリル仕様で完璧なまでの乙女ゲームの『ファビオラ』の完成である。
鏡の前で意地悪そうな笑みの練習をしていると、エマに「本当にその格好でいくのですか?」「気持ち悪いのでやめてください」と止められてしまった。
ファビオラになってから一年間、派手な装いを封印していたためか、久しぶりにクローゼットの中から引っ張り出したド派手ドレスで気合い十分である。
「エマ聞いて……!たとえ困難が立ちはだかろうとも、後に引けないことがあるの」
「早く行かないとマスクウェル殿下がお待ちですよ」
「ど、どうしてそれを早く言わないのよっ!」
「ファビオラお嬢様が気持ちよく語ってらしたので」
エマの手を引いて、決戦の地へ。
(いざ、マスクウェル殿下の元へ……!今日は負けないんだから)
気合い十分、鼻息荒くファビオラは歩き出した。
ファビオラは女王様のように振る舞う気満々で出陣した。
けれど、現実はそう甘くはなかった。
「オホホホ、お待たせいたしました!マクスウェルで………ん……… !」
「ファビオラ様?」
「んぐぅ……!!!!?!?」
マスクウェルが振り向いてファビオラに笑顔を向けた瞬間、一瞬で心臓を撃ち抜かれて速攻でノックアウトである。
それこそ悪役令嬢の振る舞いをしなければらならいという決意を忘れるほどに、清らかなオーラにKOされてしまう。
ファビオラはニヤニヤと笑みを浮かべないように思いきり唇を噛み締めながら耐えていた。
(クッッッソォ……前途多難すぎるわ!まずは顔面が良すぎて直視できない問題を解決しなくてはっ!)
ファビオラはマスクウェルに背を向けてから心を落ち着かせるように大きく息を吸って吐いてと繰り返してから空を見上げた。
(眼鏡……いや、あえて顔を見ない様に視線を逸らし続けるのは辛いし失礼よ。でも折角、マスクウェルを独り占めできているんだし、いっぱい見とかないと!あぁ、でも……!)
どのくらいそうしていただろうか。
ファビオラが考えを巡らせていると、いつの間にか目の前に移動していたマスクウェルから声がかかる。
「ファビオラ嬢、大丈夫ですか?顔が赤いようですが……」
「───んがッ!?」
マスクウェルが心配そうに眉を顰めながらファビオラを見ているではないか。
目の前に麗しい顔面があったのには流石に心臓が止まった。
目を見開いて、鼻の穴が開き、唇を噛み締める様はなかなかに不細工ではあるが、今は自らを落ち着かせることに意識を集中させていた。
(ち、近い天使が近い天使が近い天使が近……ッ!?)
乙女らしからぬ声を出してしまったが、咳払いで誤魔化した後に、不自然なほどに思いきり顔を逸らす。
とりあえず応急処置として視線が合わないようにしてから口を開いた。
「………?」
「マ、マスクウェル殿下……ごき、ごきっ、げんよう」
「今日は……以前と大分雰囲気が違うようですが」
「あの、いつもはこんな感じですのよ!以前がたまたま!そうですわ!たまたま珍しかっただけで、本当に……オホ、オホホホ!」
そう言うとマスクウェルは困惑した表情を見せた。
そんな彼の姿を見て心の中でガッツポーズをしていた。
きっとドン引きにしているに決まっている。
このファビオラの姿が好みではなく気に入らないからだろう。
そんな時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます