第22話 トラブルの予感
ギルマスの話を聞き終え、再びギルド館の外へ出たネッド。行き違いになったメルが自分の店に行っている可能性も考えて、何処にもよらずに家へと急ぐ。
「こりゃ、もしかしたら、まずい事になってるかも……」
ネッドは、心の内を思わず声に出した。メルとアリシアが事情も知らず鉢合わせをしたら、これは大変な事になる。彼は二人の出会いを恐れ、極力両人が顔を合わさないように腐心していたのだった。だが今、最悪の形で、邂逅が成されているかも知れない恐怖をネッドは味わっていた。
そう思うと、彼の歩は自ずと早まっていく。しかし町はずれが近い、うらぶれて人の住まない廃墟がたたずむ路地辺りに差し掛かった時、ネッドの行く手は突然さえぎられた。
彼を待ち受けていたかのように、一人の男が立ちはだかる。先ほどギルド館でネッドとひと悶着あった、冒険者の戦士ガドッツである。
「よぉ、ネッドさんよ。遅いお帰りだな。ギルド館で、親戚同士のなれ合いでも楽しんできたか、あぁん?」
巨体に似合わぬ猫なで声で、戦士はネッドをねめつけた。
「何かご用でしょうか? 先ほどの話なら、既に決着がついたと思いますが」
ネッドが、務めて冷静に応じる。
自分がギルドマスターの甥だと知れた以上、何かトラブルを起こせば伯父に迷惑が掛かる。ギルドという場所は、荒くれ者も多数所属しているのが普通であるがゆえに、その采配が難しい。ほんの些細な面倒がきっかけで、組織がガタガタになる例も珍しくはなかった。
「あぁ。あの時の話は、薄汚くもお前がギルマスの威を借りて、一応のケリがついたさ。だがな、衆人環視の中で俺様に恥をかかせた”借り”の話は、まだ終わっちゃいねぇんだよ!」
猫なで声が、途端に荒れ狂ったクマのそれに代わる。トラブルの予感に、ネッドの心は急速に張り詰めたものになっていった。
「恥をかかせたと言うなら、申し訳ありません。ただギルドマスターが、あの場を放置できなかったというのは、役目上、仕方のない事だと察して下さい」
不本意であり、腹の虫がクツクツと煮えたぎり始めたのを覚えはしたが、ネッドは丁寧に頭を下げた。
「それで急ぎますので、これで……」
ネッドが、ガドッツの横を通り過ぎようとする。
「おぉっと、ふざけて貰っちゃ困るぜ。そんな通り一遍の謝罪で、許されると思ってんのかよ!」
ガドッツが一歩進み出て、ネッドの進路をふさいだ。
「じゃぁ、どうしろというんです?」
心中で拳を握りしめながら、ネッドが尋ねる。
「まぁ、細かな話は、そっちでしようじゃねぇか」
戦士が親指を立て、薄暗い路地の方を指さした。
「申し訳ありません、さっきも言ったように、急いでいるのでこれで失礼します」
これ以上は付き合っていられないと、ネッドは足早にその場を立ち去ろうとする。
「ほぉ、そんな事を言っていいのかねぇ」
ガドッツが、不敵な笑みを浮かべた。
「ネッド……」
路地の裏から押し殺したような、悲壮に満ちた声がネッドの耳元に届く。
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