第19話 悲劇

ネッドの父であるアルベルトは、仕事に忠実であり、また非常にまじめな性格であった。その父が話したくなかった理由というのは何だ……。ネッドの心が、少し曇り始める。


「いや、心配はいらん。決してアルベルトに、やましい所があったわけではない」


甥の心中を察したガントは、即座にネッドの不安を否定した。


「まぁ、聞け。話はアルベルトが、ゴワドン侯爵子息の世話係をしていた時の事だ。


侯爵子息、アルベルト、そしてもう一人、確か名前はマリオン・ガナレットと言ったか……、ライトグリーンの髪が鮮やかな子だと記憶している。で、まぁ、この三人は侯爵がこの街に滞在している間、色々と仲良く遊び回っていたんだよ。それはもう、最初からの友達同士のようだった」


ガナレット。その名前にネッドは聞き覚えがあった。父が常々口にしていた、尊敬すべき魂石を使用する機能付加職人である。まだ父が子供の頃、よく工房へ行って簡単な手ほどきを受けていたと聞いていた。


「お前も聞いているかも知れないが、ガナレットは、お前の父の師ともいえる人物でな。そういった関係上、その息子のマリオンとも、アルベルトは仲が良かったんだ」


ネッドは伯父の言葉に不信を抱く。確かに、職人としてのガナレットの話はよく聞いた。だが、その息子に関しては、聞いた憶えがない。もしかしたらその事が、伯父の話に関係しているのだろうかとネッドは思った。


「侯爵の滞在は五日間と言ったが、四日目にその事件は起きたんだ。リルゴットの森の入り口辺りに広がる平原。お前も知っているだろう。そこで二人は、悲劇に襲われたんだ」


「二人? 三人ではないのですか」


ネッドが、思わず話を遮った。


「あぁ、二人だ。ゴワドン侯爵子息とマリオンのな。アルベルトはその朝に急に熱を出して、一日中ベッドの中にいたんだよ」


ギルマス、ガント・ライザーが続ける。


「それで御子息とマリオンが、二人だけで遊びに出かけたんだ。知っての通り、あの平原はセルラビットの生息地だ。穏やかな生き物で、子供の遊び相手にはピッタリだったってわけさ」


なるほど、確かに子供の遊び場には適している。だけど……。ネッドは一抹の不安を覚えた。


「だが、時期が悪かった。あの季節、平原には、ラビットを目当てにした、ゾラウルフの群れがやって来る。もちろんマリオンは、その事を知っていた。けれど子息がどうしても、セルラビットを見たいとせがんだらしいんだよ」


ここまで来れば、誰にでも悲劇の予想は付く。


「二人は、狼の犠牲になったんですね……」


思わずネッドが、口走った。決定的な悲劇を最初に口にせずに済んだガントは、少し気が楽になる。

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