第14話 シャミーの提案
「あ、ちょっと待って」
表に出ようとする二人をシャミーが引き留めた。
「何? 止めないでよ、シャミー」
メルがシャミーを振り返る。
「止めやしないわ。どうせ一戦交えるんなら、これを試してほしいの」
シャミーの手には、テントを張る際に使うペグのようなものが数本あった。
「何ですの、それ?」
アリシアが不思議そうに覗き込む。
「これはね、結界を生成する杭なのよ。今、お兄ちゃんが色々と実験中のアイテムなんだよね。結界獣ガサラーンの魂石を使った一品なの」
「で、それが何?」
決闘の出鼻をくじかれたメルが、少々腹立ち気味に尋ねた。
「だからね、これを試してほしいって言ってるの! 林の中に割と開かれた広場みたいな場所があるでしょ?あそこで円周上にこれを突き刺せば、上空も含めて結界が張られるわ。
どうせあんたがた、攻撃魔法もバンバン使うんでしょ?どれくらいの耐久力や持続力があるのかを調べるのにもってこいだわ」
シャミーが、シレっという。
「シャミー、あなたねぇ、ネッドへの愛を掛けた決闘を、商売に利用しようっていうんですの?」
頬を少し膨らませ、アリシアが小娘に詰め寄った。
「さっきも言ったでしょ? 今、お兄ちゃんが、色々と実験しているって。試してくれて、それが製品開発の助けになったら、お兄ちゃん喜ぶだろうなぁ……」
悪魔のささやきに、婚約者二人の目が輝いた。ここで点数を稼いでおいても損はないと悟ったのだろう。もっとも、ネッドがこんな戦いを望むはずもない事など、二人の脳裏には露ほども浮かばない。
「よこしなさい」
メルがシャミーの手にある結界杭に手を伸ばすと、アリシアがすぐに割り込んできた。
「もう、邪魔しないでよ!」
「邪魔はそちらですわ!」
二人は争うように結界杭を奪い合い、それぞれが半分ずつを手に入れる。
「しっかりモニターしてきてよね。じゃ、メル姉、頑張って」
「ちょっと、シャミー。何でイカレ女の味方をするんですの?」
シャミーの意外な一言に、アリシアは顔を真っ赤にして抗議する。
「シャミーはどっちがネッドにふさわしいか、ちゃんとわかっているのよ」
メルがフンと鼻を鳴らした。
「だってメル姉は、”スベリ止め”としてはまぁ、合格点だもの」
「スベリ止め?」
自慢げな顔をしていたメルが、一転、訝しむ。
「よく考えてみてよ。
メル姉は、将来ギルマスになる事が約束されてるでしょ? 今だって、それを知っている人達からは一目置かれてるわ。そのメル姉と結婚すれば、そのコネでお兄ちゃんの商売もやりやすくなるってものよ」
結界杭の無くなった手をはたきながら、説明を続けるシャミー。
「まぁ、ポーナイザル程度の街のギルマスの伝手なんてたかが知れてるけど、それでもないよりはずっとマシ。もっと条件の良い人が現れたらその人と結婚すればいい話だし、場合によっては再婚って手もあるわ。それまでのツナギとしても、メル姉はいいスベリ止めなのよ」
「ほーっほっほっほっほっ! 所詮あなた程度の人は、スベリ止めが関の山って所でしょうね」
スベリ止めにすらなれなかったアリシアが高笑いをする。
「シャミー、あんたねぇ……」
シャミーの本性を知っているとはいえ、メルはガックリと落ち込んだ。
「ええい、悪魔の小娘! さっさと林の広場に行くわよ!覚悟しなさい」
気を取り直したメルが、店の玄関ドアを荒々しく開ける。
「あぁ、もう!。ちょっとお待ちなさいよ!これだから下賤の者は、せっかちで困りますわ」
アリシアが、数歩先を行くメルを追いかけた。
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