第14話
見抜けなかった、というもやもやした嫌な気分が、俺の身体を支配し始めた。
それに気付いた優津は、おそらく使っていたであろう台本を手にして、
「友人も欺け、さすれば多大な感動をその友に送ることができる」
でひひいぃと、気味の悪い笑い声を付けて慰めてくれたのだった。
おそらく、マニュアルの一説なのだろう。
今のを優津がそらで言ったとしたら、良いお医者さんを探し始めるとこだ。
確かに感動した。
いい知れない感情が駆け抜けた。
綺麗だった、椿の似合う西洋の女性だと。
それを演じるために、優津率いる先代達はここで、淡々と練習し続けた。
伝統の名に、恥じないように。
その伝統の一端に、秘密に、俺は優津のお陰で触れることができた。
また、俺の世界を広げてくれた。
機密性の高い伝統を守り続けた、優津。
革張りの小さなチェアに腰掛けて、西洋家具と壁紙と証明器具を見渡しながら、俺はつくづく感服した。
ひとつも変化しないこの伝統に、そして優津に。
当の本人は当時をとてつもなく早口に語り、身振り手振りで俺に伝えようとしてくれていた。
早すぎてなんのこっちゃ分からない。
「…流さん、は先代?」
さっき言い忘れたので思いつきで口にすると、優津がぴたりと動きを止めた。
「な、なんでワカタノ…?」
俺を見る目が、異星人を発見した観光客みたいになる。
「だって、接点少ないのに仲良いし、あの自信に満ちた感じが…ひっかかって…正体不明である、ということに別の自信があるように見えて…それでお前が今代なら、そうなのかなーと、そして流さんにお前は選ばれた…どうゆー基準かは不明だけどな」
そして、流さんの見る目は間違いではなかった。
優津は伝統を受け継ぎ貴婦人を演じきった。
先代が流さんと分かったから、今度映像観てみようかな。
いや、図書館は自己判断で出禁だった。
「…たねうまは、本当に探偵役にぴったんこだったのな」
うんうんと優津は勝手に納得して、もう一客のチェアに腰を下ろした。
「ここまでがさ、貴婦人の演技なのだよ」
「ここ、まで?」
背もたれはないが足の長いチェアなので、かなり楽だ。
教室に持っていきたいくらいだ。
「こんだけ調べたけど分からなかったぜあははー的な、盛大な駄目駄目な探偵役を選ぶってこと」
「…嫌な役だな」
そう口にすると、優津が苦い薬を含んだみたいな表情を浮かべる。
痛い所を突いてしまったらしい。
「だから迷って今になったんだよなー」
「…迷った?」
確かに探偵役を選ぶのなら11月末が妥当だ。
調査に乗り出す火付け役にならなければいけないのだろうから。
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