第7話
「ここ二週間、毎日遊びに来てるけど、ストーカーなの」
背後から急に話しかけられ、振り向いた先には紺色ブレザー姿の少女が立っていた。
スカッドハンマーを握っている。
「蔦の葉に寄生した顔の噂話を広い集める収集家なの」
また別の方向から、似たような声色で話しかけられる。
今度の少女は彼の右手側、駅前で繁盛していたであろうデパートの出口から出現していた。
服装は冬のセーラー服だった。
今度は鉄の金槌を装備している。
戦闘少女は一度現れると、なぜかぞくぞくと集結してくる。
そうして突如として戦闘を開始するのだ。
なにかが破綻している、と思う。
ギロチンの刃、スカッドハンマーと鉄の金槌をそれぞれ持つ、ひんやりと柔らかそうな肌の奥には、醜悪ななにかが詰まっていそうで。
近づくことさえ躊躇わせる。
集まった三人は、皆彼を見ている。
けれど互いのけん空域は気にしていて、いつ開戦しても可笑しくはない状況だった。
「虚ろじゃなくて耳なの」
「耳しかないなら見ないでなの」
「正気にさせてあげるから、一発ぶん殴らせろなの」
矢継ぎ早に責め立てられ、夏のセーラー服姿の少女が、鎖をひと振るい。
空気を切り裂く音のあと、彼の足元数センチずれでギロチンの刃が屋根を裂き、下のホームを縦に根本までかち割った。
どうせ今の致死的な攻撃が当たっても、彼は無傷で済む。
「相変わらず虚ろなの」
それを知っていて少女たちはかく語る。
まるで一人の人間にように、台詞を振り分けながら。
彼が触れて欲しくないところまで、傷を抉るようにして。
「おねえさまだけを信じるイマージュに捕らわれてるの」
「おねえさま以外は信じないなの」
可笑しい、と背後と右側からくすくす笑い。
姉だけを信じて、何が可笑しいのか。
少なくとも戦闘少女は信じることができない。
値しない、生き物だ。
「私は、美しいと思うの」
聞こえは良いが、鎖をたぐり寄せた腕振るいは鮮やかで剛胆。
「私には理解できないの」
「それは私たちに血を分け同じ産道から生まれたきょうだいがいないからなの」
「それも、そうねなの」
「同じなのはミームだけなの」
何処の少女が話しているのか、彼には段々分からなくなってくる。
同じ声で同じ風に、同じように彼女たちが口にしだすからだ。
会話をしているはずなのに、ひとりごとのように紡がれる。
「ところで、貴方はこの二週間ずっとそれなの」
それ、とは何を差しているのか。
振り返り、背後にいる少女と顔を見合わせた。
二人の少女に背中を見せる状態だが、殴られようが刺されようがダメージはゼロだ。
漆黒の渦が回る瞳で、少女たちは続けた。
「忘れて忘れて」
心の中で返答する。
忘れた忘れた、と。
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