JK四天王のゆるふわ学園生活

伝説の貧乏小僧

第1章 入学〜スプリングセミナー

第1話 始まり

 艷やかな黒髪の少女明智あけち千花ちかは、期待と不安の入り混じった複雑な気持ちを胸に校門の前に立っている。

 彼女は中学卒業と同時に親の仕事の都合で引っ越してきたばかりなので、この地域の友達が一人もいないのだ。

 この高校の生徒はほとんどが地元の中学校の出身であり、既に仲良しグループのような物が形成されている。そのことが彼女の不安に拍車をかけていた。


 ドキドキしながら高校の敷地内に入ると、満開の桜の木が目に飛びこんできた。桜のほのかな香りが彼女の鼻孔を刺激する。


(シャキッとしないと駄目ですね。高校生活は出だしが肝心です!)


 目に入ってきた満開の桜に元気づけられた彼女は、軽い足取りで昇降口前の掲示版へ向かった。


(え〜っと、私のクラスは……A組ですか!)


 A組の出席番号一番だったため、彼女はすぐに自分の名前を見つけることができた。

 一応、A組の名前を全員分をチェックするが、当然知っている名前は一つも無かった。


(このクラスで一年間頑張ります!)







 クラスを確認したチカは入学式の会場である体育館へ向かった。

 体育館にはたくさんのパイプ椅子が並べられている。


 チカはA組の列を探し、パイプ椅子に着席する。到着した人から順番に左から座っていく方式なようで、彼女が座った席は右から二番目だった。


 彼女はのんびりとした性格で歩くのもゆっくりなため、学校につくのが最後の方になってしまったのだ。


「それではこれより、入学式を始めます」


 チカが着席してから五分ほど経ち、教頭の開式の言葉により入学式が始まった。

 入学式が始まっても彼女の右隣の席には誰も座ることはなかった。


「満開の桜と木々の新緑、美しい草花がうららかな春の日差しに映えております。この生気がみなぎる春の日に、多くの来賓の皆様、さらに保護者の皆様にご臨席をいただき、ここに入学式を開催できることは……」


 国歌や校歌を歌った後、校長先生の長い長いお話が始まった。

 あまりにも退屈な話だったため、睡魔が襲いかかってきて、チカは大きなあくびをしてしまう。


(眠いけど寝ては駄目です……絶対に寝ません……絶対に……)


 そう自分に言い聞かせて睡魔に抵抗するが、その努力も虚しく彼女は深い眠りの中へと落ちていった。







「起きろーー!」


「えっ!? な、何ですか?」


 チカを眠りから覚ました原因は、勢いよく背中を叩かれた衝撃と、右耳から聞こえた少女の声である。

 思わず声をかけられた方を見ると、先程まで空席だったはずの右隣の席に金髪の美少女が座っていた。


「入学式中に居眠りとはけしからんねぇ!」


「す、すみません……」


「まぁ、寝坊で遅刻した私も偉そうなこと言える立場じゃないけどね!」


 そう言うと、金髪の少女はケラケラと明るく笑う。

 チカはそんな金髪の少女の姿を見て釣られて頬がゆるんでいた。


「私は丹羽にわ怜奈れいな、これから一年間よろしくね!」


「私は明智千花です、こちらこそよろしくお願いします!」


 それから二人は退屈な入学式の暇つぶしをしようと、雑談を始めた。二人の会話はとても盛り上がり、話題は次から次へと移り変わる。


「最近のマイブームは何ですか?」


「イカの塩辛」


「え、私もです!」


「本当!? 同年代で初めて塩辛のよさを共有できる人に出会ったよん! これは運命だね!」


「運命……良い響きですね!」


「ところで、昨日のドラマ見た?」


「見ました。あのゾンビとサメのキスシーンはドキドキしましたね!」


「でもそれを遠くから見てたゴジラの気持ちになると、何か切ない気持ちになるよね」


「なるほど、そういう見方もありますね!」


 出会ったばかりの二人はすぐに打ち解け、まるで長年の親友だったかのように距離が縮まった。


 しかし、静かな入学式の中ではひそひそ話でも意外に響いてしまうのだ。

 二人のもとに、怒りの形相を浮かべた若い女教師が近づいてきた。


「こら、そこ! 入学式中に喋らない!」


「ひぃぃ! 先生だ!」


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


「あなた達にはお説教が必要なようですね!」


 そしてチカとレイナは周りの生徒達にジロジロとした視線で見られながら体育館裏まで連れていかれ、入学初日に怖い先生にお説教を受けることになってしまった。


「私の教師人生の中で、入学式の日にお説教をするなんて初めてです。まったくもう!」


 先生のお説教はそれはそれはとても長いものだった。


(校長先生のお話の方がまだましでした……)


 チカは入学式でお喋りをしてしまったことを少し後悔した。

 それに対してレイナは、激しいお説教を受けているのに気にも留めない様子だった。


 体感時間的には数時間経過していたところで、先生にどうにか許してもらった二人はどうにか解放され入学式に戻った。

 体育館の時計が実際には十分ほどしか経過していないのを知り、チカはショックを受ける。


 それから二人は来賓の方々の話などを睡魔と戦いながら、大人しく聞いていた。


 途中、先生からお説教を喰らうというアクシデントがあったものの、無事に入学式は終えてチカ達は体育館を後にして一年A組の教室へ向かった。






 教室の机は出席番号順に並んでいた。出席番号一番のチカは一番右の列の一番前の席だ。


 高校に入って初めてできた友達のレイナと席が離れてしまい、チカは少し残念に感じた。


 全ての生徒達が着席してから少し経った頃、ガラガラと音を立てて教室の扉が開いた。

 中に入って来たのはふわふわとした髪の、かわいらしい雰囲気の女教師だ。

 彼女の容姿は本来の年よりも一回り若く見え、高校生だと言っても誰も疑わないレベルである。

 彼女はチョークを持つと黒板に自分の名前を書いた。


「どうも皆さんこんにちは。本年度一年A組の担任をします、織田おだ友美ともみです。一年間よろしくお願いします!」


 そして軽いホームルームをやった後、その日はそれで放課となった。


 ホームルームが終わると同時にレイナがチカに向かって猛ダッシュで近づいてきた。


「チカ、一緒に帰ろうよん!」


「はい、レイナちゃん!」


 そして二人は先程の話の続きを楽しみながら下校した。その間、チカはずっと笑顔でいることができた。


(私、高校生活も楽しく過ごせそうです!)

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