弱肉強食

ベニテングダケ

弱肉強食

「こちらが2年前廃墟となった池袋サンシャイン水族館で〜す」

ガイドさんが元気にそう言った。俺は、今2年前に廃墟となったサンシャイン水族館のツアーに、来ていた。

「バズるかな〜」

ツアーに参加していた女子高校生がなんか言ってる。俺は、女子高校生というのがあまり好きでは無い。

「お母さ〜ん…眠〜い」

ツアーに参加している小学生?なのか中学生なのかは、分からないが、母親を困らせている女の子と笑顔で「起きて」と言いながら娘を撫でる母親がいた。

「では、中に入ります!3時30分までは、自由行動となります!」

中に入る。

「痛っ」

「あっ…すいません」

「…大丈夫」

気づかなかった。赤いパーカーを着た女子高校生がいた。

「それでは、自由時間です。私も、自由に回っていますね♪」

そう言うとガイドさんは、先に行ってしまった。

「なぁ君」

「え?」

目の前には眼鏡をつけた。いかにも真面目って感じの男子高校生がいた。

「俺と一緒に回らないか?」

「あ…あぁ。良いよ」

「そちらのお二方宜しいですか?」

後ろでガイドさんに呼ばれた。

「はい?」

「こちらのタブレット。いかがです?苺味です」

「へ…?あ、頂きます」

「俺も頂きます」

「えぇ。是非」



「…て」

声がする。

「起きて…」

女だ。誰だ?

「起きてってば!」

「うおおっ⁉︎」

跳ね起きた。目の前には先程見た女子高校生。

「えっ…寝て…えっ?」

「あんた。寝る前の事覚えてる?」

「は?……なんで寝て…いやそこだけ抜けてる」

「やっぱりか…ここバックヤード。皆!起きたよ」

女子高校生がそう叫ぶと。先程の真面目そうな男子高校生。それとパーカーを着た女子高校生も来た。

「起きてくれたか…実はね。ここにいる皆記憶が無くてな」

「……大丈夫?」

「あぁ…ありがとう」

「ねぇねぇ!皆、おもちゃがあったよ〜」

奥の方から女の子がおもちゃ箱を持ってきた。

「売れ残りのお土産かな」

「廃墟なのに処分してないの?てかバックヤードも異常に綺麗だし」

「確かにそうだね。まるで先程まで人がいたようだ」

「ねぇねぇプテラノドンだよ。私大好き!」

女の子がプテラノドンのおもちゃの電源を付けると、おもちゃは音を鳴らして、開いてあった扉から出ていった。それを追いかける様に女の子も出ていった。

「ちょ!待っ」

「大丈夫よ。お母さんもいるだろうし。きっと急に私達が倒れちゃったからガイドさんがバックヤードに入れてくれたのよ」

「急に、寝るなんておかしいだろう?しかし最近のおもちゃは、空も飛ぶんだな」

ここにいた5人だけが、急に寝るなんて、不思議な事もあるもんだ。

「ふむ。これは鰐…?」

真面目そうな男子高校生が、車輪のついた鰐の様なおもちゃに電源をつけた。

「ターベチャウゾー」

「あはは!可愛い〜」

「ネライヲサダメテー!」

そう言うと、おもちゃは、俺の方へ向いた。

「ひっ」

その瞬間、パーカーを着た女子高校生が、震え出した。

「どうしたんだい?」

「そのおもちゃ…はっ…はっ…逃げなきゃ!」

パーカーを着た女子高校生の息が急に荒くなり、ドアノブに手をかける。

「あっ…開かない!ドア開かない!」

「3.2.1」

鰐のおもちゃがカウントする。カウントと同時に口が開き始める。すると鰐のおもちゃの中から血だらけの手が出てくる。

「…は?」

「イタダキマース!」

その瞬間おもちゃが俺に襲いかかる。咄嗟におれは、右腕で頭を守る。右腕が噛みちぎられる。

「あっ…ああっ手がっ。手がぁぁ!」

「ひっ。何これ何これぇ!」

「大丈夫かっ⁉︎扉…!くっ!開かない!!」 

男子高校生が、扉に思いっきりタックルする。しかし扉は、開かない。

「ツギハー」

鰐のおもちゃは、次にパーカーの女子高校生の方に向く。

「ひいっ…助けて…!」

何か…何かあれを止める方法が、無いか。その時だった。先程のことを思い出す。

「ネライヲサダメテェェー!!」

男子高校生が電源をつけていたことを。

「…!電源だ!後ろの電源を切るんだっ!」

「「電源⁉︎」」

「3.2.1」

「抑えろぉぉぉぉ!」

「イタダキ…マァァァァス!!」

鰐のおもちゃが飛んだ瞬間。女子高校生と男子高校生が抑える。

「助けてぇぇぇぇ!」

「「やれぇぇぇぇぇぇ!!」」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

決死の思いで。最後の力を振り絞って左腕を、使う。その小さな電源ボタンを。

「ガッ…ピッ?」

ガツッとボタンが×に移動する。

「ピッピッピピッ…ガー」

おもちゃの電源が切れる。

「切れ…たのか?」

男子高校生がおもちゃを持って確認する。

「らしい…わね」

「はっ…良かったぁ」

女子高校生とパーカーの女子高校生がフッと腰を落とす。

「…てか右腕ぇ…!」

「あ…あぁ!とりあえず一度出よう。ガイドさんに…開いてる?」

「えっ…あっ本当だ」

扉は開いていた。

「え…なんで?」

「気のせいだったんじゃない?鰐のおもちゃ恐かったし。とりあえず出よ?手の事ガイドさんに言わないと。てか病院行かないと」

「あっ。ああ」

男子高校生に肩を借り。皆で、バックヤードから出る。するとガイドさんが、俺達を探していた。

「あっ!皆さん!て…え⁉︎手、大丈夫ですか⁉︎」

「あ…ガイドさん。あの、病院」

「あっ、分かりました!とりあえずその前に手当てを」

ガイドさんの優しそうな笑顔に、さっきまでの緊張感も消え失せてしまう。

「あっ!お兄ちゃん達!」

先程の女の子が俺達に駆け寄ろうとする。するとガイドさんの口がぱかっと開き女の子の顔を食べた。

「えっ…?」

「すいませんね?本当は傷つけずに食べるつもりだったんですけど」

「それ…どういう」

女子高校生が言い切る前にガイドさんの口が大きく開き。女子高校生を食べる。ボリボリと。

「おもちゃをしまうのを忘れていました」

今度は、男子高校生を食べる。

「そちらの方は昔の事覚えていたみたいですね」

パーカーの女子高校生を食べる。

「2年前に何人か食べたんです。ただちょっと事故りましてね。警察にバレたんですよ。めんどくさかったんですけどね。残った人は、記憶だけ消したんですよ」

「…何が目的なんだ!」

「目的ですか?」

するとガイド…いや化物は、不適な笑みを浮かべる。

「弱肉強食…弱い奴は食べられる運命なんですよ」

そう言うと、化物は、口を開く。

「可愛いなぁと思ってたんですよ。私好物は、最後に食べる口なんです」

「あっ」

食べられた。

「うふっ……ごちそうさまでした♡」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る