第2話「ゼス、ゲヘゲラーデンの論文を王宮に届けるため旅立ちの許可を貰うのこと。」
そして、授業の終了を告げるとともにゲヘゲラーデンはいつもの軒先で猫でも抱え込んでのんびりしているような態度ではなく、少し考えこむ風にしたあと、おもむろに
「さて……お前もそろそろ13歳。どうする?一つ旅に出てみるかね」
と、切り出した。
「ぼ、僕はまだ早いですよ!」
慌てて否定するゼス。無理もあるまい、本日も修得に失敗した初歩的な炎の魔法すら使いこなせないようでは、確かに旅に出るにあたって不安と言えよう。
「まあ確かに、初歩的な炎の魔法ですらまだ覚えてないから、不安に思うのも無理はない」
「ええ、ですから……」
「しかし、村の道場ではかなりの腕前だと聞くが?」
「確かに、師匠にはゼンゴウの称号を受け取りましたが、ゼンゴウなんて誰でも取れる称号です。それに、今の世の中魔法の一つや二つ使えないと……」
参考程度に記すが、「ゼンゴウ」の称号は才能がなくても努力すればどうにか取れる、といったレベルであり、決して誰でも取れるような簡単な称号ではなかった。
「そこで、だ。これを機にパーティーを組むことを私が許す。お前さんにとっては最初の依頼だと思うが……、そうじゃな。一つ、お使いという形で悪いが王宮に行ってくれないかね」
「王宮に!?」
王宮。このあたりの村はそこいらの領主に属する村ではなく、王宮直轄領であった。首都近郊であり、多少遠くにあるとはいえ首都の食料はビダーヤ村を始めとした村々が生産しており、今日も王宮近くの取引所に村人が荷を担いで出て行ったという一報が村の掲示板に貼ってあった。
「ああ、本来ならば子供だけで行かせるのはまずいし、私がきちんと出向くべきではあるんだが、王宮の方でひと騒動あってね。私は予備兵員としてここに残らねばならん」
「予備兵員?」
「ああ、私ほどの魔導士になると、場所を動くだけで他国に目を付けられる。故に、このビダーヤ村で療養を兼ねた駐在を行っているのだが、この村に私がいるということがバレなければ、もし何かあっても動きやすいからの」
「はあ……、で、僕になにをしろと?」
当然のように頭に疑問符を浮かべるゼス。
「簡単な話だ、新しい論文を作ったので学会に報告したい。論文の審査などの手間あるだろうが、まだまだわしを呼んで質問をするまでの作業には時間がかかるだろう」
それは後に、「魔導原本」と称される通称「ファル・ゲヘゲラーデン」であった。その「闇に照らす陽光」ともいえる魔法の歴史を変えた論文は、こういった些細な運搬から始まった。そう、誰も知らないところから、歴史はすでに動き始めていたのだ……。
「はあ」
「そういうわけで、論文だけでも王宮に届けてほしいのだ、頼めるかね?」
「僕でよければ、お任せください!」
「おう、頼りにしておるぞ」
再び、日向ぼっこをしている老人のような表情に戻るゲヘゲラーデン。しかし、その目は決して笑ってはいなかった……。
「はいっ!!」
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