第141話マヌルー玉
トルマクル大森林から街道の方へ向かって川が流れているのは来る途中で見ていたので知っている。
「確かあっちの方角だったと思うんだよね」
ドランクモンキーを五頭倒したあと、すぐに離脱した僕はマヌルー玉を作るために水場を探すことにした。
少しなら水袋があるし、拠点に行けばもちろん水はあるんだけど、一応食料扱いだしそんなことのために戻るのもなーと思ったのだ。
ドランクモンキー相手にならかなり使える代物だとわかった以上、いっぱい作っておいた方がいい。
あれがあれば群れに囲まれても離脱可能になる。あと、マヌルー玉一つで五頭ぐらいなら何とか倒せそうだしね。
「少し魔力の消費があるけど、魔力探知で探そう」
ここは割り切って初日はマヌルー玉作りに時間を費やそう。そのためにも早く水場を発見したい。
魔力探知はアドリーシャの特訓で学んだ技術で、自分の魔力を薄く延ばして周辺の情報を得るものだ。
僕も練習をすることで広範囲とはまではいかないものの、二百メートル程度先ぐらいまでなら何となく何があるかを調べられるようになった。
魔力の扱いがもっと上達すればもっと距離を延ばすことも詳細に何があるかを探ることも可能だろう。
「よしっ、見つけた」
水場は予想通りの方角に、少し大きめの池のようなものを発見した。
それはトルマクル大森林からの湧き水が溜まって出来たものらしく、これが街道へ続く川へと繫がっているようだ。
「その前に手頃なサイズのマヌルグの木をインベントリに入れてと」
マヌルーの粉以外を全てゴミ箱に捨てる。角材も手に入るけど、今は特に必要としていない。
「マヌルー玉はいちいち捏ねる作業が面倒なんだよね。水場だし魔物がやってくる可能性だってあるからな……」
マヌルー玉は少量の水で混ぜ合わせるとすぐに固まるので、捏ねる作業がそこまで面倒というわけではない。
問題は僕が数百個単位で作りたいと思っている点だろう。さっきの戦闘で早速二個使用したことを考えると、一日で数十個使用するのは目に見えている。
マヌルーには対ドランクモンキー相手には有効な戦略アイテムといっていい。たとえ、今日ここで半日を費やしたとしても構わないだろう。
水場のそばに粉を捏ねる平たい大きな石があるのを見つけ、そこで作ることにした。
水は湧き水だけあって透明に透き通っている。インベントリに入れたところ塵のようなゴミ箱行きの成分も少なかった。温度も冷たいし、きっと飲んでも美味しいお水だろう。
「さて、どんどん作っていこうか」
マヌルーの粉を平らな石の上に出して、少しづつ水を加えていきながら混ぜ合わせていく。
この作業だけを見るならば、うどんでも作っているかのように見えなくもない。
ひょっとして食べられるのではないだろうか……。いや、やめておいた方がいいか。これは狂暴なドランクモンキーがうっとりしちゃう粉なのだ。
一つの玉のサイズはテニスボールぐらいの大きさにした。ちょっと大きすぎる気がしないでもない。
これは単純に投げやすいというのと、ドランクモンキーが囓った際に割れてこぼれ落ちることで他のドランクモンキーを集める効果を期待してのことだ。
ゴルフボールサイズだと投げづらいし、一口で飲み込まれてしまう可能性もあるからね。
そういうことなので、マヌルー玉はある程度の衝撃で割れやすい程度に硬めにつくる。水分は少なめで、かと言って、投げるだけで割れるほど粘りがなくても困る。
やはり目指すのは固めのうどん。ある程度のこしとねばりがありつつ、衝撃で割れる弱さだ。
「こんなもんかな。どんどんインベントリに入れていこう」
完成したマヌルー玉はどんどんインベントリに入れていく。インベントリの項目にはそのままマヌルー玉の表記が。その名前でよかったのか?
●マヌルー玉×10
マヌルー玉の項目を見るといつもと違うところに気がついた。文字が青いのだ。通常はブラック背景に白文字がベース。インベントリの容量が限界に近づくとオレンジになりいっぱいになると赤になる。
このブルーの文字ははじめて見る。
「こ、これは……」
どうやらインベントリの新しい機能を発見したようだ。『マヌルー玉』という物が完成品として認識されインベントリに入ったことで、それを構成する成分がインベントリにある場合に発生するのかもしれない。
インベントリの新機能、アイテム合成か。
ブルーの『マヌルー玉』をタップすると、インベントリ内のアイテムを使って合成しますか? と出てくるではないか。
アイテム『マヌルーの粉』、『水』でマヌルー玉を合成しますか?
→はい
→いいえ
もちろん、『はい』を選択する。
次の瞬間、インベントリのマヌルー玉の合計数量が一気に百個に増えていた。
「もう、捏ねなくていいのか……」
その後、何回かの合成を繰り返してマヌルー玉の数は千個になった。
材料はそこら中にいっぱいあるし、適度に減ったらまた水のある場所で合成すればいい。
これは便利な新機能を発見してしまった。
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