第116話オウルベア
予想通りというか、教会を出たルリカラはそのまま崖の方へ向かって飛んでいく。既に嫌な予感しかしない。
ルリカラからは「この下にグレーリノ落ちてる。早く急ぐ!」とのこと。
落ちてるってなんだよね。足をすべらせて落ちたってこと? だとしたらグレーリノはもう死んでいるんじゃないのかな。人であるならばだけど。
「急ぐっていったって、崖の下にどうやって降りるんだって」
「そのまま飛び降りるにゃ?」
「いやいやいや、無理でしょ。何を言ってるのかな、この猫さんは」
「壁面を走りながら進めばいけなくもないにゃ」
一般冒険者とAランク冒険者のステータスを一緒に考えないでもらいたい。
「却下。ゆっくりじっくり階段を造って下りるから」
こんなところで死にたくはない。身軽な猫さんと翼のあるルリカラと一緒にしないでもらいたい。
「つまらないにゃ」
そう言いながらも、僕の造った階段を一段一段降りてくるキャットアイ。
一方で真っ逆さまに飛んでいったのはルリカラだ。
「何だか急いでいるにゃ」
「そうだね。本当に落ちて怪我してるのかな」
何となく気がついてはいるけど、風の谷の民というのはドラゴンの一族なのだろう。全員がそうなのかはわからないけど、長がドラゴンならドラゴン関係の民とみて間違いない。
人の姿をしているけど、本当はドラゴニュートとかだったりする可能性は十分にある。
そうなると、膝を抱えていた少年といえども実際はドラゴンかもしれない訳で、崖から落ちたぐらいで怪我なんかするとは思えないのだ。普通の人は崖から飛び降りないしね。
しかしながら、僕は落ちたら間違いなく死ぬ。生き残る可能性はほぼゼロだ。なので、ここは申し訳ないけどゆっくり行かせてもらう。
「ニール、下で戦ってるにゃ。先に行ってるにゃ!」
そう言うと、キャットアイは階段からジャンプするように飛び降りると、壁を蹴るようにしながら器用に下へと降りていく。
ブレスを吐いてほとんど体力のないルリカラを心配して向かってくれたのだろう。
僕も少しでも早く下へ行けるようにとにかく急いで進もう。僕が行ったところでどうにかなる戦いならだけども。
下に行くにつれ、激しい戦闘音が聞こえてくるようになった。ドラゴンと戦っている何か。
ようやく半分まで降りてきたところで見えてきたのは、頭が鳥で三メートル近くはありそうなクマのような巨躯の魔物。
それに対するのは、緑色のドラゴン。おそらくはグレーリノだろう。教会にいたドラゴンよりも一回りは小さいながらも咆哮を上げて激しく威嚇している。
「オウルベアにゃ! ニールは遠距離攻撃を頼むにゃ」
オウルベア、聞いたことのない魔物の名前だけど、小さいとはいえドラゴンと対等に渡り合っている時点で相当上位のランクであることは理解できる。
それから、遠距離攻撃をということは、下には降りてくるなという意味なのだろう。
ルリカラを回収したキャットアイは、距離をとりながら後ろに回り込みオウルベアを警戒させている。
Aランクのキャットアイトいえども、大きな巨体のオウルベア相手に攻撃を通すのは難しいと思われる。
となると、攻撃はグレーリノに任せて、自分は遊撃に徹する構えのようだ。いわゆるヒットアンドアウェイ戦法。
大きなダメージは狙えないが、スピードで翻弄して、小ダメージを与え続けていく。そうすることで、グレーリノの攻撃もオウルベアに入りやすくなる。
僕が遠距離攻撃の範囲内に入ったところで、ようやく状況を把握できた。
倒れているオウルベアが三体。あれはグレーリノが倒したのだろう。オウルベアの首に噛みついて倒している。
三体を倒したことで、グレーリノも深い怪我を負ってしまったらしい。頭からは血が滲んており、手や脚にも深い爪の跡がいくつか入っており、そのダメージはかなり深刻な状況に思える。
アドリーシャの回復魔法は長にかけてもらっているので手が離せない。ならば、ここは安いポーションでとりあえずは勘弁してほしい。
「グレーリノ、これを!」
僕が投げたリカバリーポーションを認識したのか、瓶ごと口で咥えると器用に瓶を割って中身だけ口に入れた。
一方で最後に残ったらしいオウルベアは一際大きな巨体。こちらは無傷である。
僕にできる攻撃は大きな炎を爆発させるマハリトのスクロールだ。残念ながらマジックリングに魔法はまだ入っていない。
「炎の魔法のスクロールを使うから様子を見て離れて」
その言葉を聞いたグレーリノはダメだとばかりに首を振る。その見つめる視線の先にあるのは綺麗な花。その花を守るようにグレーリノは戦っている。
すると、ルリカラからの気持ちが通訳代わりに飛んできた。「あの花は長を治す大事な花だから燃やされたら困る。この花は一つしか残っていない」
長を治すための花をオウルベアから守っていたということか。
僕が下にいければインベントリに入れられるんだけど、この緊迫した戦いのなかに入っていける自身はない。
ならば、動ける人に動いてもらえばいい。
「キャットアイ、グレーリノの後ろに咲いている花を僕のところまで持ってきて」
「あの花を持っていけばいいにゃ?」
「長の病気が治る可能性があるらしい」
「任せるにゃ!」
どうやら風属性付与を期待していた猫さんのやる気をアップできたようだ。
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