第104話アドリーシャ人気

 特訓が終わり街に戻ってきた僕らを待っていたのはファン(信者)のみなさんだった。


もちろん、それはアドリーシャのファンだ。


「なんとおいたわしいお姿に……」

「頑張ってくださいませ、アドリーシャ様」

「何故、アドリーシャ様だけあんなにもボロボロな姿なのだ」


 何故ボロボロなのかは言うまでもなく、勝手に前線に出て自滅したからに他ならない。


 僕たちは特に怪我もしていなければ装備がボロボロにもなっていないので、なんとなくアドリーシャが一人で頑張った感が出てしまっている。


 まるで僕たちがアドリーシャを無理やり働かせているかのように映ってしまうのはやるせない。


 まあ、後半はアドリーシャの特訓も兼ねていたから彼女が頑張ってないわけではないのだけど、今日一番頑張ったのは間違いなくルイーズである。


 たくさんのワイルドファングを集めて、マポーフィックを使用させるために魔法の盾に攻撃を受けつつ立ち回り、アルベロが矢を打ちやすいように射線を確保。本当に大活躍だよね。


 この子は本当にDランクの冒険者なのだろうか。いや、近いうちにCランクに上がりそうな気がする。僕も追いかけなければ……。


 さて、アドリーシャを見るために人が集まっているのには理由がある。


 それは、マリアンヌさんから正式にアドリーシャが僕たちと一緒に旅に出るというお達しが発表されたのだ。それでファン(信者)の方はお姿を一目見ようと集まっている。


「あんまりはげしくないというかー、冒険者と違ってどこか落ち着きがあるよねー」


 ルイーズが言っているのはもちろんファン(信者)のことだ。アドリーシャを近くで見たいなら森に来たら見えるわけだけど、彼らはアドリーシャの邪魔になることは一切しない。


 街で見かけても、遠目で十字架にお祈りを捧げつつ一定の距離を保っている。とてもよく教育されているというべきか。


 きっとこれが聖女見習いの街の日常なのだろう。聖女見習いの子たちを見守りつつ、成長を一緒に楽しんでいるのだ。


 いろいろ話をしているのが聞こえてくるものの、その距離はキープしているし、こちらにも迷惑をかけないようにしているのを感じる。


 これが冒険者だったら、普通に追い回されるし、因縁をつけては絡んでくるし何なら殴ってくる。


 そんな距離感に慣れているのか、アドリーシャは微笑みながら軽く手を振っていく。


 最初にイルミナ大聖堂で見たアドリーシャの姿だ。


「聖女見習いは最初に笑顔と手振りの練習からはじめるのでございます」


 笑顔を振りまきながら、アドリーシャはそう言う。確かに麗しのアドリーシャと呼ばれるだけあって、手の位置、角度、そして何より笑顔は完璧とも思える。


「ここにいる方たちは私が小さな頃から応援してくださった敬虔なイルミナ教信者です」


 よく見ると、小さな子供から、おじいちゃん、おばあちゃんまでアドリーシャに手を振っている。


 聖女文化というのが根づいているこの国で、特にこの街の聖女見習いというのは、身近に感じるまさに信仰の対象なのかもしれない。


 正直、アドリーシャについては最初の印象とは違って、ポンコツなイメージを持ちはじめているけど、街のみんな(信者)からしっかり愛されているのはわかる。


 少なくとも彼女が聖女になれるように何かしら応援なり助力はしてあげたいなと思う。


「笑顔に手振りね」


「何でございましょうか?」


 アドリーシャの行動理念はすべて聖女としての生き方を叩き込まれたものだ。これは小さな頃から今日までずっと繰り返しやってきたことなので、矯正することはなかなか難しいだろう。


 しかしながら、一度自分の役割を覚えてしまえば、間違えることなくやり続けるということだ。


 今日の後半の討伐のように自分の役割を果たすことでパーティを支える屋台骨としての気持ちよさを感じてもらえば本当の聖女として目覚めるかもしれない。


 そのためなら、多少は出発を遅らせてもいいだろう。


 そう特訓あるのみだ。


 決して大浴場が気持ちいいからではない。

 料理が美味しすぎるからでもない。


 これはパーティのためでもありアドリーシャのためでもあるのだ。



 そうして、翌日も森でワイルドファングに囲まれながらパーティを支えるべくディオスとマポーフィックによるフォローと魔力操作による仲間の状態把握を徹底的に覚えてもらった。


 何度も繰り返すことで、アドリーシャにも確かな手応えが感じられるようになってきた。


 最終日には目隠しも外して、安全な拠点もない状態からも後衛としての役割を全うしてみせた。


 まだ若干不安な部分もあるけれど、そこは同じ後衛チームとして僕とアルベロがフォローしようと思う。


ということで、滞在三週間にしてようやく猫さんとアルベロのオッケーが出た我々パーティはついに聖都ルーンへ向けて出発をすることとなった。

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