第91話アローヘッドとの戦い2

「なっ、範囲爆炎魔法だと!?」


 地面を転がるようにしながら避けるアローヘッド。足を引きずるようにして動くその様子はかなり切羽詰まっている。


 足をかばうようにしてキャットアイと戦うアローヘッドに、最初の頃のような余裕はない。


 悔しそうに僕の方を見ながらも、続けて完成した三つ目の拠点を眺めることしか出来ない。


 ということで、余裕ができたのでプランB発動。


「この拠点は君に任せた」


「キュイ!」


 翼のあるルリカラだけど、赤ちゃんなのでずっと飛んでいると疲れるみたいですぐに僕の肩や頭に着陸する。


 そこで、小さめの拠点ながらもアローヘッドに睨みを効かせるルリカラの拠点を用意させてもらった。


 残るは僕自身の拠点だ。


 戦況的には完全にこちらが有利に進められている。少し飛ばしすぎたキャットアイもアルベロとルイーズの攻撃のおかげで休めているぐらいだ。


 アローヘッドは苦虫を噛み潰したような表情でなんとか攻撃を必死に堪えている。


 アルベロの攻撃力が完全に想定外だったのだろうし、足を怪我したことでマハリトのスクロールがかなり効いている。


 範囲爆炎魔法なので、怪我をした足で大きく避けなければならず、しかも爆炎の音と砂煙がキャットアイやアルベロの攻撃を通しやすくさせている。


 そして、戦いの開始から五分が経過した頃、最後となる僕の拠点も完成した。


「マハリト!」


 アローヘッドを休ませないように僕もすぐにスクロールで攻撃。どの方角からも油断できない攻撃が飛んでくることをしっかり意識させなければならない。


「くっ、くそっ!」


 どうやら転げ回るように避けるうちにリカバリーポーションの瓶も割ってしまったらしい。


 完全に詰んだな。彼にインベントリのような特殊なスキルでもない限りポーションは出てこない。


 そして、僕のマハリトの爆音に合わせるようにしてキャットアイの攻撃がアローヘッドの左足を貫いた。


「ぐはっ……ま、負けだ、負け。降参する!」


 両足を負傷したとなれば、もうアローヘッドに勝ち目はない。


こちらの戦力を見誤った彼のミスだろう。せめて、B、Cランクのメンバーと行動を共にしていればまた違った未来があったかもしれない。


 キャットアイ以外の僕たち三人を甘く見ていたことで、結果として取り返しのつかないことになってしまった。


「干し肉と水を少し置いていくにゃ」


「こんな所に置いていくつもりかよ。怪我してるんだぞ」


「殺されたいのにゃ?」


 場所的には街道から少し離れているので、誰かに見つけてもらうというのも難しい。まあ、運が良ければ助けてもらえるだろう。


「ちょっ、ちょっと、待ってくれ……のあああっ!」


 ロータスのツタで作った縄で両腕をしっかり縛り上げて堀の下へと落とす。他の拠点は目立つので元通りの真っ平らにしておく。


 さすがに足を負傷して両腕も使用できないとなれば、この深い堀から上がってくることは無理だろう。


 まあ、国境を出る時に冒険者ギルドにでも手紙を届けておけば誰かに助けてもらえるだろう。二日後ぐらいに届くようにしておくつもりだけど。


 それまでは少しの水と干し肉で飢えをしのいでくれたまえ。


「せめてリカバリーポーションだけでももらえないか。血が止まらないんだ。なあ、仲間だろう」


 そんなものくれてやるわけがないだろう。命が助かっただけありがたいと思ってほしい。そもそも、多少なり仲間と思っているなら僕を捕まえにこんな所まで来ないんだよ。


 どうやら僕の怒りがルリカラにも伝染してしまったらしく、堀の下を見ようと首を伸ばしたと思ったら迷わずに小さめのブレスを吐きつけた。


「えっ、あれっ、ルリカラ!?」


「うわぁ、や、やめろー!」


 やはり、ルリカラのブレスは情報として入っていたのだろう。何とかして逃げようとジタバタしている。


 もちろん、それを避けられる状態のアローヘッドではない。全身にキラキラとしたルリカラの偉大な聖なるブレスが吹きつけられる。


 褒めてー、褒めてーと僕の胸に飛び込んでくるルリカラ。どうやら、ブレスを調節して吐けたことを褒めてもらいたいようだ。


「あー、うん。よくできたね。えらい、えらい」


 顔のまわりを撫でてあげると目を細めて気持ちよさそうにしている。


「ね、ねぇー、アローヘッドが静かになっちゃったよー」


 アローヘッドは頭を地面に擦り付けるようにして、とても静かにしている。


「どうなってるにゃ?」


「な、何か……ちょっと泣いてない?」


 頭を地面につけながら肩を震わせている……気がする。


「ぼ、僕は、何でこんな酷いことをしてしまったのでしょう。こんなことは、謝っても謝っても決して許されない。死んでお詫びいたします!」


 清々しいほどに号泣しながらも自死を訴えかけてくるアローヘッド。どうやら、効果は抜群のようだ。


「別に死ななくていいにゃ」


「しかしながら、現在、手持ちは金貨二枚しかありません」


「うーん、お金もいらないかなー」


「では、パーティメンバーとして一生働かせていただきます。ご飯さえいただければ無償で戦わせていただきます」


「それも却下ね。今のあなた、何だかちょっと気持ち悪いもの」


「では、どうすれば許してもらえるでしょうか」


「そうだね。なら、王都の冒険者ギルドにいて、僕たちを捕まえようとする動きがあったら、バレないように対処してもらえるかな」


「それぐらいお安い御用です。では、ここから出していただけますか?」


「それは、ちょっと……ね。君のことを信用していないわけではないんだけど、二、三日はそこで反省しておいてもらえるかな」


 これがアローヘッドの演技だとは思わないけど、国境を無事に出るまでは安全第一でいきたい。


 ほらっ、何かの拍子に洗脳が解けちゃったら困るじゃない。


 あっ、洗脳って言っちゃった。


 どのあたりまでがブレスの餌食になるのかわからないけど、危害を加えてくる人というのはその範囲内なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る