第89話情報収集
シュメールは武器を捨て手を上げると、こちらに駆け寄り話しかけてきた。
「追手はこれで全員だ。アローヘッドとは合わなかったのか」
「こちらに気づかず先に行ったにゃ」
「そうか。では、まだ油断はできないね」
「お前たちは捕まえなくていいにゃ?」
「俺たちはこんなこと反対してたんだけど、向かわなきゃ投獄するとか言われて仕方なくね」
「そうだったにゃ」
どうやら、他の冒険者が無力化されたことで、もうつきあう必要はないと判断したらしい。
「それにしても、その弓は反則だろ」
「本当だな。しかも矢を掻いくぐっても馬車にキャットアイがいるとか、こんなの絶対無理じゃねぇか」
「で、何しにきたにゃ?」
「言った通り、こちらに敵意はない。仲間に少しでも情報を渡したい」
シュメールの話によると、もう後から追手が来ることはないとのこと。騎士団は帝国方面に向かったらしく、どうやら一番の脅威からは逃れられたようで安堵した。
シュメール達が他の冒険者を連れて戻る頃には僕たちはすでに国境を越えているだろう。
そうなると、残す厄介者はアローヘッドのみ。
国境付近の街までは全力で向かうだろう。それから時間が経ちすぎてしまうとアローヘッドの体力が回復してしまう。
先に行かせはしたものの、こちらもそこまで離されずに追いかけなければならない。
いつの間にか追われる側から追う側に変わってしまったらしい。ただ、追いつかれるまでもかなりの日数を稼げたし、そこまで休む時間は与えずにいけるかもしれない。
馬も三回目の交代をしたばかりで元気いっぱい。スペシャルドリンクで移動時間を増やして頑張ってもらおう。
「情報ありがとうございます」
「ああ、健闘を祈るよ」
「相手がアローヘッドでもキャットアイとアルベロの弓があるなら何とかなりそうだしね」
それじゃあ、と言ってシュメールさんたちは他の冒険者たちのいる方へ戻っていった。
冒険者に対してはあまり期待をしていなかった僕にとって、仲間だと思ってくれる人が少しでもいたことがうれしく感じた。
もちろん、それはアルベロやルイーズの今までの冒険者ギルドでの行いがあったからこそだと思う。
次の冒険者ギルドではそういった仲間同士の関係性を少しでも築けるといいな。
出来ればジャイアントトード狩りを追いかけ回されたりしない仲間がいてほしいものだ。
そう考えると、とても不安になってくる。
いや、今はそんな後のことを考えている場合ではない。
聖イルミナ共和国に入るためには、待ち構えているアローヘッドをどうにかしないとならないのだ。
「アローヘッドの弱点とかないのかな」
「たいした遠距離攻撃を持ってないにゃ」
それはつまり、近づけさせずにアルベロが一方的に攻撃出来る状況をつくれれば可能性は高くなるといことだ。
「でも、近接戦闘は強くてパワーもあるのよね」
そうなると、押さえることは難しい。一方的に遠距離攻撃でというのも無理だろう。
「もっと何というか、致命的な弱点がほしいよね」
「致命的な弱点ある人がAランクにはならないよねー」
それもそうだよね。全くもってルイーズの言う通りだ。
「じゃあ、やっぱりルリカラのブレスをフェイントにしながら隙を突くしかないか」
「ニール。アローヘッドと戦う場所を国境近くにしたことで、もう馬車を守る必要がないの」
「つまり?」
「ニールとルイーズも一緒に戦うってことよ」
そうか。僕も戦うのか……。
「でもさー、戦力になるのかなー?」
僕が疑問に思ったことをルイーズが先に言ってくれた。
さすがにAランクの冒険者を相手にDランクの冒険者が何を出来るというのだろうか。
「私も含めてだけど、アローヘッドは私たち三人を戦力として見ていないと思うの」
「だよねー」
「そこにつけ入る隙があると思うわ。私にはこの短弓ハジャーダ。ルイーズには疾風のレイピア。ニールにはインベントリがある」
「二人は武器があるのに僕だけインベントリって……」
「インベントリも使い方次第じゃない?」
そうなのだろうか。確かに鉱山の採掘では大活躍をしてみせた。旅の道中ではスペシャルドリンクや野草の採取でも役立っている。
「あっ、そういえばマジックリングがあるよ」
一つだけ魔法をストックできるマジックリング。今この指輪の中にはルリカラの偉大な聖なるブレスが入っている。
「うーん、ブレスに効き目があるかが問題よね」
「ダンパーには効いたけど、アローヘッドに効くかわからないにゃ」
それは確かにそうだ。アローヘッドがどんな人なのか知らないけど、ダンパーと同じような犯罪的な思想があるかと言われるとどうなのだろうか。
ブレスを当てられたとしても何事もなかったらその時点で終わりな気がする。
「それならマハリトのスクロールの方がよさそうだね。いっぱいあるし」
「そうね……」
ただ、マハリトは範囲爆炎魔法なのでキャットアイがアローヘッドの近くにいると巻き込んでしまうので使用できない。これはこれで扱いどころが難しい。
まあ、アローヘッドとの戦いまでにはまだ少し時間があるのだからじっくり考えようと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます