第83話聖イルミナ共和国とは

「もちろん、何もなければ庇護を受けるつもりなんてないけど、ギルドに移籍登録した際に情報は漏れると思うの」


 冒険者ギルドは国ごとに独立しているそうだけど、冒険者や魔物のランク、ステータスの確認技術とか連携している部分はあるらしい。でも、あくまでも独立した団体であるとのこと。


それは各国の権力者が国の情報が冒険者ギルドを通して他国へ流れることを嫌がっているからだそうだ。


 まあ、わからなくもない。冒険者もランクによっては軍勢と匹敵する力を持っているし、冒険者ギルドが入手した情報が他国に漏れることがあれば戦争になりかねない。


 そういう意味でも、国がある程度は情報統制しているということなのかもしれない。


「移籍登録ということは、今までのランクは受け継げるの?」


「タグに記憶されている情報はそのまま引き継がれるわ」


 よかった。またFランクからだとダンパーみたいな輩にちょっかいをかけられるからね。


 今回は一般的な冒険者として普通に扱ってもらえそうでよかった。


「ルリカラちゃん注目されちゃうねー」


 ルイーズにわしゃわしゃされて満更でもない様子のルリカラ。自分からお腹をさらけ出すぐらいには仲が良くなっている。


「ルリカラ、イルミナ教に誘拐されたりしない?」


「崇められることはあるかもしれないわね」


 おばあちゃんとか手を合わせてくるらしい。


「イルミナ教の礼拝に特別招待される可能性もあるにゃ」


 どうやら、過去に鳥の聖獣をテイムした冒険者がいたらしく、イルミナ教からは定期的に礼拝に招待されるなど、かなりの高待遇でお金ももらっていたらしい。


 つまり、害される危険性はないらしい。逆にルリカラがいることで王国から守ってくれる可能性が高くなると判断したのだろう。


「ルリカラがお金を稼いでくれるんだね」


 よくわからないけど自分の話をしているのは理解しているらしく「いいからもっと撫でたまえ」とルイーズにお腹を向けている。


 信者から崇められることでこのホワイトドラゴンが調子に乗らないといいなと思いつつも、基本的に人見知りなので大丈夫かとも思った。


「追いかけてくるのかなー?」


 ルイーズが気にして後方を見ているけど、今のところそういった気配は感じられない。


「国境までの距離が近い帝国側を重点的に探してくれるといいんだけどね」


 もう少ししたら休憩をしつつ簡単な夕食を食べようと思っている。時間帯的にそろそろカルデローネさんが僕たちの帰りが遅いことに気づいていることだろう。


 馬車と騎馬で勝負をしても勝ち目はない。馬車でゆっくり三十日かかる国境までの日数も騎馬なら二十五日程度では来れてしまう。もちろん、こちらの馬車を探しながらなのでその通りにはいかないと思うけども。


 僕たちがいないことを知って、どのレベルで捜索してくるのか。初動で舐めてくれると助かる。


「馬は三回乗り換える予定だっけ?」


「カルメロが中継地点で馬を用意してくれているにゃ。少しは早く国境まで辿り着けると思うにゃ」


「追手が来たら?」


「ぶっ飛ばすにゃ」


 ここにAランクのキャットアイさんがいることが何とも心強い。とはいえ、追手のランクが低いことを祈りたい。強い人はなるべく帝国方面に向かってもらいたいものだ。


「攻撃は私とキャットアイでやるから、二人は馬車を守って。馬や馬車に何かあったら致命的だもの」


「そうだね、頑張る」

「まかせてー」


 どちらに問題があっても、徒歩移動になってしまうので厳しくなる。せめてもう一人ぐらい乗馬できる人がいたらよかったんだけど、乗れるのはアルベロ一人だけだったのだ。


 まあ、二人乗りで向かったとしても多少は早まるものの馬にも負担がかかってしまうだろう。なので、騎士団長とAランクの冒険者は帝国方面にお願いします。


「王都に戻ってきたAランクの冒険者ってどんな人なの?」


「自分より強いにゃ。遠距離攻撃は持ってないパワー型の剣士にゃ」


「近づけさせなければいいんでしょ」


「そうにゃ。自分が隙をつくるからあとは頼むにゃ」


 キャットアイの実力は知っていても、直近で急成長しているアルベロの弓は想定外の攻撃になるはずだ。やはり、うちのパーティはアルベロの遠距離攻撃がキーになる。


 僕は頑張って馬と御者さんと馬車を守ろう。いきなり攻撃してくるのは想像できないけど、こちらが話を聞かないようなら馬車の車輪とか普通に攻撃してきそうだよね。


 ルイーズと二人で手分けして守れば大丈夫かな。そんなことを考えていたら「何か近づいてくる気配があったら教えるよ。偉大な聖なるブレスの準備は万端」などと伝えてきた。


「そうだね。ルリカラも頑張ってくれるよね」


「ルリカラちゃんも頑張ってくれるの? こんなにお腹を出しちゃってるのに」


 ルリカラはさっきからずっとお腹をわしゃわしゃされたままだ。


「まあ、追手が来るとしても、まだ先の話でしょ。今はゆっくり食事をとって力を蓄えておきましょう」


「そうだねー」


 夜ご飯と明日の朝食は宵の月亭のおかみさんが用意してくれたお弁当だ。スープを温めて早めに就寝しよう。


 あっ、お馬さんにお水と餌も用意しなきゃだね。

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