第80話騎士団長

 翌日から宵の月亭には冒険者ギルドの関係者が列をつくって謝罪やら提案にやってくる。あとでおかみさんにも謝らなければならない。


 冒険者ギルドとしてはとにかく翌日に控えた慰労会へ僕たちを参加させたいのだろうし、この国から出ていかれるなんてことは何としてでも避けてもらいたいのだろう。


 というか、まだ王様に欠席の話や国を出ることを伝えていないのか。


 Dランクの冒険者なんかどうとでも説得できるとか思っているのではなかろうか。


「もう、今度は何?」


「えーとね。王都の冒険者ギルドと年間契約を結ぼうだって。パーティへの資金援助として白金貨一枚だって」


「少なっ! 年間でパーティ全体に白金貨一枚なのー?」


 一般的にCやDランクの冒険者と冒険者ギルドが契約を結ぶなんてことはありえないので、白金貨一枚はそれでもすごい契約提示だとは思う。


 しかしながら、カルメロ商会の後ろ盾を得た今となっては、その額は僕たちには何も響かない。


「慰労会って明日なのに、私たちが参加しないことを本当にまだ伝えてないのかな」


「伝えられないんだろうね。自分の発言が原因になってしまったから。それでも、見知った騎士団の方も数名現場にいたから、そろそろ王様の耳にも入る頃じゃないかな」


 噂をすれば何とやら。

 部屋をコンコンコンと叩く音がする。


「はい、どうぞ」


 今朝から冒険者ギルドの職員さんが定期的にくるので、僕の泊まる二階の部屋は応接スペースと化している。


「失礼する」


 やってきたのは何と騎士団長。


「お久し振りです」


「ああ、久し振りだな。元気そうでよかった」


「どうぞ、そちらに座ってください」


「うむ。それは?」


「冒険者ギルドから年間契約の提案です」


「なるほど、君たちを囲い込もうと必死なんだな。その契約は受けるのか?」


「いえ、受けません」


「では、やはり……国を出るのか?」


 騎士団長までは昨日の話が通っているということらしい。


「そうですね。そのように考えています」


「そうか」


「王様に伝えますか?」


「いや、私からは言わないよ。今回の件は冒険者ギルドの落ち度であるし、彼らが話を持ってこない以上、騎士団が動くこともない。私はこの話を聞いていなかったことにしよう」


「大丈夫なんですか?」


「ここには個人的に来ただけで、騎士団とは無関係だ」


 騎士団長、意外といい人なのかもしれない。


「活躍は聞いているよ。何か新しい目覚めがあったのか?」


 そういって僕の膝の上で丸くなっているルリカラを見る。テイマースキルに目覚めたことはすでに知っているんだったね。


「どうでしょうね。言えることは、仲間に恵まれたということです。これは宵の月亭を紹介してくれた騎士団長のおかげかもしれません」


 ここでアルベロやルイーズに会わなかったら僕の冒険者生活はかなり苦しかったはずだ。


「それはよかった。王からの命令とはいえ、この世界に来たばかりの君を放り出さなければならなかったのだからね」


 召喚された時は殺されそうな視線を向けられていた騎士団長だったけど、無力な僕を知ってからは短い時間ではあったけどいろいろな情報を教えてくれた。


 王宮側の人なのですべてを信用することはできないけど、根本的にはいい人なのだろう。


 さて、ではこちらも少し話を聞いてみようか。


「国を出るとわかったら、王様は何かしてくるでしょうか?」


「冒険者ギルドよりは必死に引き止めてくると思う。王は異世界人の能力にかなり期待をしているように感じる。場合によっては、捕まえにくることだってありえるな」


「何もしてないのに捕まえに来るんですか?」


「理由など何とでもでっち上げられる。リメリア王家への反逆疑い、それから取り調べと称して君のスキルを無期限で調べ上げるなんてこともね」


「そんなこと……」


「命令があれば私は君たちを捕まえに動かなければならない。そうなる前に早くここから立ち去ることをおすすめするよ」


 どうやら本当にいい人なのかもしれない。


「ご忠告ありがとうございます」


「王の耳にはまだ情報は入っていない。そして、君たちの慰労会の準備のため騎士団の人員の多くは城に集中している」


「情報ありがとうございます」


 今の話を聞いて決心がかたまった。それはアルベロもルイーズも一緒だろう。今頃冒険者ギルドで話し合いをしているだろうキャットアイにも伝えてなるべく早くここを出よう。


 キャットアイは僕の調査クエストについても今回の出張費を高額請求して契約打ち切りをしてくると言っていた。うまく話が進んているといいのだけど。


「それでは私はここらで仕事に戻ろう。明日の準備で忙しいのでね。では」


「はい」


 とりあえずはお昼にキャットアイと合流してからの動きになる。その前にドワーフのおじさんの所へいかないとならない。


「ここからはキャットアイをのぞいて個人行動は控えましょう」


「そうだねー、何があるかわからないし、国を出るまでは注意が必要かも」


「そうだね。じゃあ、順番にドワーフのおじさんの所へアダマンタイトを持っていって、その後に冒険者ギルドで前向きな話でもしておこうか」


 僕たち三人は頷いて、すぐに準備に取りかかることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る