第57話ギルドからの報奨金2

 ソファに案内されると、すぐにエイビスさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。


 王都の冒険者ギルドは規模も大きいせいか、ギルドマスターに会うことはなかった。こちらでは職員さんがどこかフレンドリーというか身近に感じる。


 王都は忙しいのか、会話できるのが受付嬢のカルデローネさんぐらいだからね。


「さて、まずは今回のシーデーモン討伐に関してお礼を言わせてください。偶然とはいえ王都から優秀な冒険者の方々が来ていたことをありがたく思います」


 もちろん、バブルラグーンを拠点にしている冒険者もそれなりにいるけど、ランクの高い人でBランクまでだったそうだ。そういう意味ではAランクのキャットアイさんが偶然いたことは奇跡だろう。


「なかなか難しいのですが、シーデーモンの出現を考えるとAランクの冒険者が在籍してくれると助かるんですけどね」


 そう言いながら、チラチラとキャットアイさんの方を見ているけど、それは王都の冒険者ギルドが許してはくれないのかもしれない。


「王都より待遇がよかったら考えなくもないにゃ」


 しかしながら自由な猫さんにとって移籍はなくもないらしい。


「おおー、話し合いの余地がありますか!」


「ギルドマスター」


 ギルドマスターのスレインさんはキャットアイさんの態度に前のめりになった所をすぐにエイビスさんに注意されてしまう。


 バブルラグーンとしてはAランク冒険者がいてくれるだけでありがたいことだろう。少なくともシーデーモンを相手にできる戦力が整っていなければ街から人が減ってしまうだろうからね。


「ああ、すみません。この話はまたあとでさせてください。先に報奨金の方からでしたね」


 冒険者ギルドの人員管理というのも結構大変なのかもしれない。これが地方の冒険者ギルドの悩みというやつなのだろう。


「ギルドマスター、こちらを」


 エイビスさんが持ってきたのは金貨だ。特に袋や布に包むことなく剥き出しの金貨。ついこの前にガチャで回したあの金貨が目の前に大量にある。


「一昨日の聞き取り調査も踏まえてですが、エイビスの評定から特に修正はありません。シーデーモンの討伐に冒険者ギルドは金貨五十枚を出します」


「金貨五十枚……」


 目の前にある大量の金貨。これがもらえるのか。すごいなAランク魔物。


「アルベロさんには三十枚。ですが、昨日三枚の前借りがあったようなので二十七枚ですね」


 なるほど、アルベロは両替ではなく前借りを選択していたのか。


「続いて、キャットアイさんとニールさんに十枚づつです」


 金貨十枚は約百万円の価値だ。あの戦いでこんなにもらえてしまうのか。


「ありがとうにゃ」


 しばらくはお金に困らなそうな勢いで儲かっている。


「それから、ニールさんはタグをお預かりさせてもらいますね」


「あっ、はい」


「エイビス、Dランクへの変更をお願いします」


「かしこまりました」


 ギルドマスターからタグを受け取ったエイビスさんがランクアップの手続きのために退出した。


「ニールまたランクアップしたにゃ?」


「シーデーモンの近くにいたので魔素を多くの吸収したみたいなんです」


「それはラッキーだったにゃ」


「なんだか申し訳ない気分です」


「運も実力のうちにゃ。あの場に駆けつけてきたニールだから得られた利益にゃ」


 キャットアイさんが言いたいのは、運を引き寄せるのも、その人の行動次第ということなのだろう。


 僕的にはアルベロがいたから駆けつけたというのもあるし、何よりキャットアイさんがいる場所の方が安全だと判断したのだけど、思いの外に危険な目にあってしまった。


「それから、ダンパーの件ですが。王都の冒険者ギルドとも連絡がとれまして、謝罪として金貨三枚をお渡しすることになりました」


「そんなにもらえるんですか」


「本来あってはならないことでしたので。しかもニールさんを再び危険に晒してしまいました。お金で解決する話ではないと思いますが、迷惑料と思って受け取ってください」


「あれから、ダンパーは?」


「鉱山の町ミストマウンテンに移送されました。心を入れ替えたかのように真面目になってますよ」


 そう言ってギルドマスターは僕ではなくルリカラを見る。冒険者ギルドもダンパーがあーなったきっかけにルリカラが関与していることをちゃんと理解しているのだ。


 そういえば、ミストマウンテンと言えば、リリィたち三人の冒険者の故郷と言っていたっけ。


「ミストマウンテンでは、どのような鉱物が採掘されるんですか?」


「ミストマウンテンといえばゴールド、シルバー、それからミスリルにアダマンタイトですね」


 金や銀だけでなくファンタジー鉱物が出てきた。


「ミスリルにアダマンタイトですか」


「ミスリルは魔法との相性がよい鉱石で、粘りのある石ですね。アダマンタイトはとにかく硬い職人泣かせの石で、ちゃんと加工された武器は一生物と言われています」


 ガタッと立ち上がったのはアルベロ。


「硬い武器……。それは、矢じりにも使えますか」


 硬いと聞いてすぐに頭に浮かんだのは僕だけでなくアルベロもだったようだ。


「矢じりのような細かい加工には向いてませんね。とにかく硬いので加工できる職人も限られますから」


「そ、そうなんですね……」


 アルベロのためにも短弓ハジャーダの威力に耐えられる矢じりを早く見つけてあげたいところ。


「ドワーフの職人でもかなり限られた方でないと難しいでしょう」


「そうですか。ありがとうございます」


 王都にいるドワーフのおじさんは知っているけど、アダマンタイトの加工ができる人なのかは不明だ。


 まあ、話を聞いてみて可能ならお願いしたいところだけど、アダマンタイトってかなり高そうな鉱物な気がするんだ。


 まあ、でも矢じりに使用する分ぐらいならたいした量でもないか。


 きっとそれよりも加工費のほうが高くつくのかもしれない。とりあえず、今回かなりの報奨金を貰っているから、それでどれだけ造れるのか聞いてみたいね。

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