第44話異常発生

 翌日は再びソードフィッシュ狩りをするために船をレンタルしている。少しでも敏捷のステータスをあげることが、この旅における僕のミッションなのだ。


 ちなみに朝にギルドに寄ったところ、僕たちに対して他の冒険者から微妙な距離感があるのを感じた。


 それはルリカラとたわむれたいと思う女性冒険者の気持ちだったり、ルリカラのブレスの影響にびびって近づけない感じというか、それは様々だ。


 なんというかこういう噂が広まるのは本当に早いものだと理解させられた。もちろん僕たちにとって噂が広まるのはありがたいことでもある。


「さて、今日はいっぱい狩るよ」


「おー、ニールやる気だねー」


 いつまでもお荷物ではいたくないし、ルリカラを守るために僕自身がもっと強くならなければならない。


 ルリカラがさらわれる可能性があるとしたら、それは僕が弱いからでもある。せめて、何かしらの強みを得たいと思うぐらいは許してほしい。


 そう思うと、ルイーズに渡してしまった疾風のレイピアのような物が僕にもほしい。


「な、何? ニール? このレイピアは渡さないんだからねー」


「そ、そんなこと思ってないから大丈夫だよ」


 ステータスを底上げてくれる魔道具とかないのだろうか。いや、そんな便利なアイテムがあったらみんなつけてるよね。


 少なくとも人が多そうな王都の冒険者でもそんなアイテムをつけている人を見ていない。僕が知らないだけで本当はあるのならいいのだけど。


 そうしていつもの灯台の近くまで船を進めていくと、何やらアルベロの様子がおかしいことに気づく。


「何だか、海が変ね……」


 錨を下ろしていると、海面を見ながらアルベロがそうつぶやいた。


「どうしたの?」


「海に小魚の気配を感じないのよ。これだと撒き餌をしても小魚が集まるか微妙ね」


「海は広いから、撒き餌をまいたら集まってくるんじゃない?」


「それならいいのだけど……」


 何やら他にも気になることがあるのか、周囲をかなり警戒している。


「アルベロ、あそこに岩礁なんてあったっけー?」


 ルイーズが見つけたその岩礁は灯台からギリギリ見える位置にあった。この間には無かったような気がする。


 岩礁が見えるあたりは少し深くなっているはずで、本来ならそんなものがあるはずがない。大型の船も通る場所だと思うし、潮の満ち引きとかで説明できるものなのか。


 すると、僕の頭の上に乗っていたルリカラが小さな唸り声をあげる。見ている方向はルイーズが見つけたあの岩礁だ。


「ルリカラ? どうしたの」


 悪意を感じる。あれは敵。こっちに来るならルリカラがやっつける。


「ルイーズ、あれは岩礁じゃない! マーマンの群れよ!」


マーマンの群れ!?


 よく見ると岩礁のような黒っぽいものが生き物がひしめきあっているように動いている。


「あれがマーマン……」


 海のゴブリンと呼ばれる厄介者で、船を見つけると悪さをしてくる魔物。ゴブリンと同じランクDで討伐すると小銀貨四枚で追加報酬はない。


 マーマン自体ランクDなのでそこまでの脅威ではない。もちろんEランクの僕より上なので一人では倒すことは推奨されていない……。


「ニール、錨を上げて」


「う、うん」


「すぐに戻って冒険者ギルドに報告をするわ」


「海の深さから考えてもかなりの数のマーマンが集まってるよねー。ひょっとしたらキングマーマンがいるのかな?」


「その可能性は高そうね」


 キングマーマンのランクは確かC。強さは僕たちがギリギリで倒したあの進化個体のゴブリンとそう変わらない。


 そんな魔物がマーマンの群れを指揮して攻めてくるとなると、もはや恐怖でしかない。


 あの群れは、小魚が大型魚から身を守るために集まるベイトボールのようなものではない。その行動は全く逆で、仲間をどんどん集めて進撃するタイミングを窺っているのだろう。


 アルベロ予想ではあと二日程度で港に向けて進軍する可能性があるのではとのこと。


 あのマーマンの塊が海の底から塔のように立ち上がっていると考えるとその数はとんでもないことになる。


 一昨日前までは見えていなかっただけで、きっとマーマンの異常発生は既に少し前から始まっていたのだろう。


「何だか大変な時にバブルラグーンに来てしまったわね」


「そうだねー。ここって今、高ランクのパーティっているのかなー?」


「うーん、どうだろう。王都と比べたらランクが落ちるのは確かよね」


 昨日の三人組は駆け出しと言っていたので、僕とそうランクも変わらないだろう。


 メンバー次第で防衛戦になるのか、マーマンが集まりきる前に叩くのかの判断が決まるのだろう。


「ねぇ、アルベロ。マーマンの群れがバブルラグーンにやって来ない可能性とかはない?」


「ないわね。魔物が群れて何もせずに解散するなんてことは絶対にないわ」


 ないのか。そりゃそうか。まあ、ないよね。


「ちなみに冒険者ギルドに報告して王都に戻るという選択肢は?」


「それもないわ。こういう緊急事態の時は街から街への移動は制限されるの。冒険者は全員何かしらの役割が与えられるわ」


「報告する前に逃げ出せば大丈夫だけど、その場合はバブルラグーンに住んでる人が大変なことになっちゃうでしょ。だからこういう時、冒険者は協力して街を守らなきゃならないんだよねー」


 冒険者ギルドに所属している以上はしょうがないらしい。確かに登録の時にそんなことが書かれている書類を見た気がしないでもない。


 そうなると、ここは強い冒険者がいることを祈るしかないか。


 マーマンどのぐらい集まっちゃうのだろうか……。

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