第31話格上討伐ガチャ

 やってきた浜辺には数組の冒険者達が見えるものの、午後ということもあってなのか若干疎らな感じがしないでもない。


 すると、少し離れたところでバブルクラブを討伐しようと囲んでいる三人組のパーティが見えた。


 ロングソードを持った前衛二人と大きな盾を持ったタンクの男たちだ。


 戦い方は盾で逃げ道を塞いで、反対側からロングソードで強引に削っていくやり方のようだ。


「あまり美しい戦い方ではないわね」


 その戦いぶりについては、アルベロ先生のお眼鏡にはかなわなかったようだ。


「アルベロだったらどんな作戦を立てるの?」


「バブルクラブの弱点は頭なの。でも、私の弓だとパワーが足りなくて倒せない」


「つまり、フィニッシャーは私のショートソードね」


「そう。そのためには私とニールで隙を作らないといけない」


「うん」


 おっ、僕にもちゃんと役割があるようだ。


「そこで登場するのがこの貝殻の粉を混ぜて作られた煙幕弾よ」


 アルベロが取り出したのは小さな袋のような物に包まれた弓矢だ。


「煙幕弾?」


「これをバブルクラブの眼のあたりにぶつけると煙幕で視界が悪くなるの」


「そこを後ろから私のショートソードで強襲するのね」


「まだ早いわ。バブルクラブがパニックになるから、ニールは盾を当てて引きつけてほしいの」


「おおー、なるほどー。そこを後ろから忍び寄ればいいのね」


「ニールもルイーズの動きをバブルクラブに悟られないようにしっかり注意を引いてね。あと、周辺に木が少ないから私の守りも気にしてほしいわ」


 確かに森での戦いならアルベロは安全な木の上から攻撃をできたけど、ここは一面に広がる砂浜。たまに椰子の木があるけど、偶然そこにバブルクラブがやって来る可能性は低い。


「頑張ります」


 アルベロを守りつつ、攻撃の際にはバブルクラブの注意を引く。これが今回の僕の役割。


「ハリトは撃っちゃダメよ。大事なカニ肉が焦げちゃうから」


 高値で買い取りしてもらえるカニの脚はなるべく傷つけないように討伐する必要がある。


 さっきの三人組パーティのように強引に倒していたら脚が折れたり傷つき買取価格が大幅に下がってしまうのだ。


「ねえ、ニール。そろそろガチャ回してみよーよ。まだバブルクラブもいないしさー」


 そろそろ我慢できなくなったらしいルイーズがガチャを促す。


 周辺に数組の冒険者はいるものの、ガチャは僕以外に見えないので気にする必要はない。


「そうね、格上討伐ガチャだったっけ? 楽しみだわ」


「じゃあ、回してみようか。スキルガチャ機動!」


 ガチャを頭の中でイメージすると、新作の『格上討伐ガチャ』が現れた。


 今回のガチャはボディが銀色にコーティングされた、ちょっと未来感溢れる洗練されたガチャガチャだ。


 インベントリから銀貨を一枚取り出して突入する。一万円のガチャだ。前回は初回プレミアムでインベントリのスキルを手に入れた。それだけこの一万円ガチャにはおおいなる魅力がある。


 銀貨を投入すると、銀色のボディに数字の三の文字が浮かび上がった。これが意味することは何なのか。


「ど、どうしたの?」


 僕の戸惑いに気づいたのか、ルイーズが反応する。


「銀貨を入れたらガチャガチャに三の数字が浮かんだんだ」


「それって、スキルが三つもらえるんじゃない!?」


「そ、そんな訳……」


 あるのだろうか。いや、いくら一万円ガチャとはいえ、そんな大盤振る舞いが……あるのか。


「落ち着いて。回してみればわかることでしょ」


「そ、そうだよね。では、回すね」


 僕がガチャを回し始めると三の数字は二へと減っていく。この確かな重みは通常ガチャとは違う。安いポーションやヒーリング草が出る気配は微塵もない。


 そして、銀貨ガチャならではのアップテンポの音楽が流れ、まるでミラーボールのようにくるくるとまわり演出を高めていく。今回は近未来的なガチャだ。


「どうなの? どうなの?」


 ルイーズを制するようにして、僕は祈りを込めながらさらにガチャを回していく。


 そして、ガタゴトンと落ちてきたのは銀色に輝くカプセルだ。僕だけにしか見えないけどスモークの演出もあって中身の期待をもたせる。


 ゆっくりとカプセルを開けると、短弓ハジャーダという文言が頭に入ってくる。


 これは、武器? 世界樹の枝で作られた短弓ハジャーダ。風の加護によりエルフの民に力を与える。


「その手に持っているのは弓か?」


 やはり、弓となるの気になるのはアルベロだ。しかも、世界樹の枝とかエルフに力を与えるとかの情報がある。


「はい、これはアルベロが持つべき武器だと思う」


「いいの? これ、多分すごい価値があると思うのだけど……」


「武器の名前は短弓ハジャーダ。世界樹の枝で作られた弓で風の加護でエルフに力を与えてくれるみたい。アルベロ専用の武器でいいと思う」


「世界樹の枝……」


 弓を受け取ったアルベロの手は少し震えている。それだけこの弓の凄さを理解しているということなのだろう。僕にはよくわからないんだけど。


 まあ、僕が弓を扱えるとは思えないし、エルフの民であるアルベロが持つべき武器で間違いない。


 ということは、次に出てくるものって……。


「続けて回すよ」


 僕の予想通り銀貨を投入すると数字は二から一に変わって、同じような演出が展開される。


 そうしてカプセルを開けると、またしても武器の名前が頭の中に浮かんでくる。


 名前は疾風のレイピア。風の加護を纏いし武器。僅かな魔力消費で持つ者に身軽さを与え俊敏性を高めてくれる。


 欲しい。俊敏性を高めてくれる武器はめちゃくちゃ欲しい。けれども、この武器を持つべきなのは残念ながら……。


「ルイーズ、これは君の武器だと思う。武器の名前は疾風のレイピア。僅かな魔力消費で持つ者に身軽さを与え俊敏性を高めてくれるそうだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る