第15話インベントリの新機能

 それから興奮を抑えながらもインベントリでどんどん解体していく。二人が仕留めたジャイアントトードをインベントリに入れるとこう表示される。


 ●ジャイアントトード

  →舌(討伐証明)6

  →お肉6

  →死骸6


 死骸をタップすると「出しますか?」「捨てますか?」と表示される。ジャイアントトードに討伐証明とお肉以外に必要なものはない。


 ということで、「捨てますか?」をタップする。


 すると、死骸の項目はゴミ箱へ移動されていて、ゴミ箱をさらにタップすると「削除しますか?」の表示。続けてタップすると、綺麗さっぱり見事に消滅してしまった。


これ、いらないゴミ捨て放題じゃないだろうか……。いや、多少は魔力が必要なのかな……。というか、ゴミはいったいどこへ消えてしまうのだろうか。


 この新機能について、すぐに二人に話したいところだけど、戦闘中なので休憩になるまでは黙っておこうと思う。と思ったんだけど、木の上から強烈な視線を感じていた。


 どうにも解体が早すぎる僕の様子に、アルベロさんが何かおかしいことに気づいたらしい。


 僕と荷車を交互に指差ししながら若干パニックになっている。普段クールなアルベロさんの驚いた表情というのはなかなかレアかもしれない。


 ジャイアントトード六体、ホーンラビット二体。既に容量的には僕のインベントリに入り切らない量になっているはずなのに、荷車は空っぽで、ジャイアントトードもホーンラビットも姿は見えない。


 アルベロさんは口パクで「どうなってるの?」と質問してくる。といっても、僕にこの新機能を身振り手振りで説明することなんて不可能というもの。


 ということで、ルイーズさんが誘き寄せた追加二体のジャイアントトードを狩った後に休憩をとることになった。


 インベントリのジャイアントトードの舌とお肉は計八セットになっているけど、まだ容量には余裕がある。


 もちろん他のいらない死骸はゴミ箱から消えてしまっている。この調子なら荷車が必要ない可能性が出てきた。いや、カモフラージュのためには必要なんだけどね。


「それで、どういうことになってるの?」

「どうしたのアルベロ」


 どうやらルイーズさんはまだ気づいていないらしい。


「ニールのインベントリよ。もう六体のジャイアントトードが入ってるのよ」

「あれ、でもインベントリには十体の予定じゃなかったっけ?」


「解体済みならね」

「ああっ!」


 どうやらここでピンときたようでルイーズさんは僕と荷車を交互に見て口をパクパクさせている。


「ニール、説明してもらえる?」


「えーっとですね。実はさっき、新機能を発見しまして……」


 僕がインベントリの新機能について説明すると二人は口をあんぐりと開けたまま黙ってしまった。


 しばらくして落ち着いたらしいアルベロさんがようやく気になっていることを質問してきた。


「それで、ジャイアントトードの肉はどんな感じになってるの?」


 それは僕も気になっていた部分ではある。本当にちゃんと解体されているのだろうかと。


「じゃあ、出してみるね」


 インベントリを操作してジャイアントトードのお肉を取り出してみる。一応、食べ物になるから荷車の上に出してみた。


「うわー、綺麗に解体されてるよー」

「ぜ、全部出してみて!」


 何だかアルベロさんの目がちょっとこわい。


 出したお肉は保湿のための皮付きで、ルイーズさんと解体した時と同じように、いや、カット断面とか美しすぎるし、まるで無駄がない……。


 六体分全てのお肉を全部荷車の上に出し終えると、二人はため息をついてしまった。


「私が解体したやつだけ……きれいじゃなーい」


 その解体は僕も手伝いましたから、きれいじゃないのは、ほぼ僕のせいだと思います。


「これは買い取り価格、上がるわね」


 なるほど、解体がきれいだと買い取り価格も上がるのか……。


「それじゃあ、この二体も解体するよ」


 休憩前に討伐したジャイアントトード二体をインベントリに入れると、討伐証明とお肉に分かれ、死骸はゴミ箱へ。


「はい、解体したやつを出します」


「ちょっと待って、こんな早く解体出来るのー」

「し、信じられない……」


 僕の体感でもここまで十秒も掛かっていない。ルイーズさんと解体した時は十五分ぐらいは掛かっていた気がするので、この機能はやはり異常といえる。


 荷車の上に出したジャイアントトードの肉を隈なくチェックした二人は、しばらく無言になってしまった。


「アルベロ、お肉何個ぐらいまでなら何も言われないかな?」

「パーティメンバーも増えて荷車があるとはいえ、二十体分ぐらいまでにしておいた方がいいわね」


「それ以上は、ニールの存在が疑われる?」

「ええ、そうなるかもしれないわ」


 二十セットは銀貨約十六枚。三人で割っても相当な金額になる。まだお昼には早いぐらいの時間帯で既に八体の討伐。二人ならもっと狩ることは出来そうな気もする。


 しかしながら、二人が懸念しているのは僕の心配らしい。一人増えたからといって、急にたくさんのお肉を運ぶのは空間魔法を疑われることに繋がるのだろう。


「二十体のジャイアントトード討伐は二人にとって問題ない数なの?」


「うん、無理すれば三十はいける……かな?」

「無理すればね。だから二十体なら余裕をもって討伐できるわ」


 なるほど、その線引が二十体。余裕があるとはいえ、そこまで無理せずにかなりの額を定期的に稼げるのなら僕としてもありがたい。


「じゃあ、目標は二十体で、時間に余裕があれば討伐証明を集める感じですね」


「よしっ、じゃあ、またジャイアントトード誘導してくるね!」


 この分ならお昼すぎには二十体をクリアするかもしれない。


 あとは無理せず討伐証明集めと。初日にしてはなかなか順調なすべり出しではないだろうか。


 とはいえ、ここは森の奥の危険なエリア。僕一人だったら、いつ死んでもおかしくない場所。二人の足を引っ張らないように集中しなきゃならない。

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