プラン変更
「——急で悪いんだけど、よろしく頼むよ」
田島は通話を切ると、下げていたステレオのボリュームを上げた。グレン・グールドが弾くベートーヴェンのピアノソナタがバング&オルフセンのスピーカーを通して室内に響き渡る。だがすぐに、流れるピアノ曲が耳ざわりに感じられて再び音量を大きく下げた。
白のTシャツにグレーのスウェットパンツという格好で田島は書斎の椅子に腰掛けていたが、数日前に破壊の限りを尽くしたこの部屋は、妻のおかげで、あらかた元通りに戻っていた。iMacも買い替えられていて、以前よりも厚みの薄い最新型になっていた。以前まで壁に飾られていた現代アートがなくなっていることに気づくと、田島は罪悪感を覚えた。服装が現代風にアレンジされたゴッホの自画像は妻の知人の画家が描いたもので、彼女のお気に入りの作品だったからだ。
田島は階下のリビングでテレビを二時間ほど観て時間を潰してから、アディダスの白いパーカーを羽織って外に出た。
大通りに出てタクシーを拾った。気の良さそうな年配の運転手が休みなく話しかけてきたが、田島が相づちを打たなくなると、年配の運転手は押し黙った。SuicaとPASMOのロゴの下に「交通系電子マネーご利用になれます」と書かれたステッカーなどが貼られた窓を通して、走りゆく景色をただただ黙って眺める。途中で腕時計をしてこなかったことに気づいて少し悔やむ。時間はスマホで確認できるのだが、腕時計をせずに外出することは稀だったので、何となく手元が落ち着かなかった。気づくとタクシーは目的地に到着していた。約束の時間よりも四十分ほど早く着いたことになる。乗車料金を現金で支払い、数百円の釣りを辞退してタクシーを降りる。
待ち合わせに指定された場所は、改札口が一つしかない小さな駅だった。周辺には、営業を終えたモスバーガー、TSUTAYA、本屋、大衆居酒屋などがあり、駅から伸びる一方通行の道路は、こじんまりとした商店街になっていた。深夜だったため当然電車は動いておらず、ロータリーに数台のタクシーが並んでいるだけで、人影はほとんどなかった。生活音が消えた夜のロータリーはひっそりと静まり返っていて、何となく厳粛な気持ちにさせられた。ロータリーの椅子に座って相手の到着を待つ。見上げると、夜空は灰色の厚い雲で覆われていて、日中の暑さはやや影をひそめていた。
視線の先に小さな交番があった。交番の存在は不安な気持ちにさせた。しばらくして小腹が空いてきたので、四、五十メートルほど先にあるコンビニに向かった。
自動ドアを通って店内に足を踏み入れる。コンビニを利用するのは数年ぶりのことだった。雑誌類が並んだ棚の前では、色白の若い男性店員が床に置かれた雑誌の梱包を解いていた。店員はちらりとこちらに顔を向けたが、挨拶の言葉はなかった。
田島は店内をさっと見渡す。自分の他に客の姿はなかった。ツナとたまごのサンドイッチを持ってレジの前に立ち、レジカウンター横のホットドリンク専用のケースから微糖の缶コーヒーを一つ取り出した。雑誌を並べていた色白の男性店員が作業の手を止めてレジへと向かってきたが、その際とくに急ぐそぶりは見せなかった。支払いを済ますとレジ袋を手にコンビニを出た。
田島はロータリーの椅子に再び腰を下ろした。石造りの椅子はひんやりしていて、スウェットパンツを通して臀部を少しだけ冷やしてきた。サンドイッチを食べながら、あの日の決断を苦々しい思いで噛みしめる。徳間から話をもちかけられたとき、すぐに飛びつくことなく、結果をしっかりと吟味すべきだったとずっと後悔していた。復讐ならもっと違った手段もあったはずで、自分が選んだ方法は極端すぎたのだ——。あらゆることが悪い方向に進んでしまった現実を思うと、悔やんでも悔やみきれなかった。気づくとサンドイッチを食べ終えていた。口の中のものを洗い流すように缶コーヒーを口に含んだ。
強烈な悔恨が頭の中をループしていたところでスマホが鳴った。出ると、〝桜町通り商店街〟はわかりますか、と相手から聞かれた。該当の商店街は顔を上げるとすぐにわかった。先ほど利用したコンビニがある通りだった。どうやら、商店街をまっすぐ進んだ先に神社があるらしく、そこで待っていろとのことだった。立ち上がるとすぐに向かった。
缶コーヒーを飲みながら道路の左側をしばらく直進していると、背後から車が迫ってくる音が聞こえてきた。通り過ぎるかと思われた車が自身のすぐ横で停車したため、田島は思わず顔を右に向けた。停車したのはトヨタのミニバンだった。ミニバンのスライドドアが自動で開くと、サングラスをかけた男が車内から声をかけてきた。
「乗ってください」
田島は一瞬硬直したが、すぐに状況を察して後部座席に乗り込んだ。ドアが自動で閉じてミニバンは静かに走り出した。
サングラスの男は、左耳にピアスをした肌が妙にきれいな男で、何度か顔を合わせたことのあるなじみの男だった。いつもはブラックスーツを着ていたが、今夜は薄手の黒いブルゾンをはおっていた。運転席でハンドルを握っている若い男にも見覚えがあった。両脇をすっきりと刈り上げた小太りの男で、隣の男と同様、サングラスと黒ブルゾンという組み合わせだった。
隣に座る肌のきれいな男はサングラスを外すと言った。
「無駄に歩かせてしまってすみません。尾行がないか確認する必要があったので」
尾行なんてあるわけないだろ、と言ってやりたかったが、田島はその言葉をぐっと飲み込んだ。
「缶、預かりますよ」
男が手を伸ばしてきたため、田島は中身を飲み干して空き缶を手渡した。
「さっそくですが、以前お渡しした携帯をお預かりしても」
田島は組織に連絡したプリペイド式と思われる小型の黒い携帯電話を男に手渡した。
「新しい携帯は、後ほどお渡しいたします」
次に男は、小型のアタッシュケースを膝の上に置いて開けて言った。
「ここに、スマホと財布、腕時計やキーケースなどを置いてもらえますか」
田島はスマホと財布とキーケースを取り出してウレタン素材の上に置いていった。
運転席に座る小太りの男は、走り出してからずっと、バックミラーとサイドミラーをしきりに見ているようだった。おそらく尾行の有無を確認しているのだろう。
隣の男は閉じたアタッシュケースを足元に置くと、今度は黒くて細長い電子機器を取り出し、失礼します、と一言発してから、こちらのからだをくまなく調べはじめた。必要な措置だということは理解していたが、うんざりさせられた。
いい加減、信用してもらいたいものだな……。
「どうだ?」
肌のきれいな男は機器を動かしながら運転席の男に聞く。
「だいじょうぶです。尾行はなさそうです」
田島は二人のそんなやりとりを見て、あれだけのことをしている組織なのだから、念には念を入れて当然なのかもしれないなと思った。そう思い至ると、自然と苛立ちも消えていた。
電子機器による確認が終わると、男は短い言葉で聞いてきた。
「で、田島さん、今回はどういったご用件で」
羞恥心からしばらく口をつぐんでいたが、男が回答を急かしてくるようなことはなかった。気づくと隣の男はiPadを取り出していた。ややあって用件を切り出した。
「期間を、短縮したいんだが……」
「かしこまりました。期間の短縮ですね」
妙にあっさりした対応に気が楽になる。
「短縮ですと、以前、うちのアサミから説明があったかと思いますが、短縮期間に相当する金額から、手数料として十パーセント差し引いた金額が返金額となりますが、よろしいですか」
田島は了承の意を込めてうなずいて見せた。
「では、どのように変更しますか?」
充分な間を置いてから、数日間さんざん悩み抜いた末に到達した結論を相手に告げた。
「藤原を、十年から三年にしてもらいたい……。それと、藤原以外の三人は、もう楽にしてやってほしい……」
「と言いますと、藤原英雄以外は、処分してもよろしいということで?」
処分、か……。田島は男が使った、〝処分〟という言葉に複雑な思いを抱く。彼らの命は、殺処分される保健所の犬や猫と同じように無慈悲に奪われていくことになるようだ。確かに、あの四人は一線を越えた。しかし、だからといって、あそこまでする必要はなかったのだ。何度も言うように、自分のとった行動は極端すぎたのだ。
できることなら彼らを生きて解放してやりたかった。だが今となっては、死を通してでしか、彼らを解放する手立てはなかった。
「再度確認ですが、藤原英雄は、十年を三年に短縮でよろしいですか?」
男の問いかけに、田島は力なくうなずいて見せた。本音を言えば、藤原も他の三人と同じように解放してやりたかった。とはいえ、悲劇の元凶を、そう簡単に許していいものか判断がつきかねたため、今回は彼だけ期間の短縮にとどめたのだった。
「では、三人の処分方法ですが、次の中からお選びください」
男はiPadのディスプレイをこちらに向けた。そこには、さまざまな殺害方法が箇条書きで表示されていた。刺殺、絞殺、撲殺、焼殺、溺殺、銃殺、薬殺、凍殺、
「焼殺なんてお勧めですよ。火あぶりですね。あとイメージが湧くように、実際の殺害現場を撮影した動画もありますが、ご覧になりますか」
田島は力なく首を横に振って見せた。これ以上おれに、悪夢を見させないでくれ……。
ややあって力なく答えた。
「三人とも、楽に死なせてやってほしい……」
男はこちらの発言に対して、一瞬何か言いたげな空気を出したが、すぐにビジネスライクな口調で、わかりました、安楽死ですね、とだけ答えた。
男が自分に言いたかった言葉がわかったような気がした。きっと男は、こう言いたかったのかもしれない。本当にそれでいいんですか、後悔することになるかも知れませんよ、と。だが、今の自分には、これ以上彼らに苦痛を与えることなど、とてもじゃないができなかった。妹が自殺を図ったことで心は極端に弱りきっており、ストレス耐性は限りなく低下していたからだ。
「ところで、三人の死に際には立ち会われますか?」
田島は力なく首を横に振って見せた。
* * *
乗っていたミニバンが薄暗い高架下で停車した。そこで降りるように言われた。
アスファルトの上に降り立つと、隣にいた男も続いて降りてきた。男は運転手に待っているよう命じると、こちらに顔を向けて言った。
「田島さん、少し歩きませんか」
男の言葉に少し驚きつつも、田島はうなずいて男のあとに続いた。
二人して川沿いの遊歩道に足を踏み入れた。石畳で舗装された、幅の広い道だった。前を歩く男がベンチの前で立ち止まり、座るよう促してきた。田島は促されるままに、木製のベンチに腰を下ろした。
田島はこのシチュエーションにとまどいを覚えた。しかし黒い
「あの、田島さん、だいじょうぶですか?」
「え……」
「ずいぶんと疲れてるような感じなんで」
男の問いかけに、田島はつい本音を漏らしてしまう。
「実はあの日以来、眠りが浅くなってるんだ……。それに、悪い夢も見るようになってね」
すぐに田島は自分の発言を悔いた。他人に自分の弱さをさらけ出したことを恥じた。ところが、隣に座る男の落ち着き払った様子を見て羞恥心は和らいだ。男の達観した態度が、この程度で恥じることはないという気持ちにさせてくれたようだ。
「そうでしたか。でも、心配しないでください。うちの組織に仕事を依頼して精神的にまいっちゃう人、何も田島さんだけじゃないですから。人って、ふだん見慣れないものを見ると、脳がストレスでオーバーヒートしちゃうんですよ」
本当だろうか? 今の発言を素直に受け入れることができなかった。これは自分の勝手な想像だったが、依頼者の多くは拷問の様子を見て心の底から笑い飛ばせるような金持ちの異常者ばかりで、そんな連中が心を病むとは思えなかった。ゆえに今の発言は、こちらの気持ちを軽くするためにつかれた、心優しい嘘ではないかと思った。
「もしかして君も、眠れないことが……」
ためらいがちにたずねると、まさか、と鼻で笑われてしまった。
「そんなこと、あるわけないじゃないですか。私は、ああいったことを仕事に選ぶような人間ですよ。私のような人間は、そういった、何て言いますか、人間には当然備わっているはずの、ある種の良心といったものが欠落してるんですよ。ですから毎日、ぐっすり眠れてますよ」
共感を望んでいただけに、男の回答に軽く失望した。男は電子タバコの煙を吐き出してから続けた。
「精神を病むっていったら、アメリカで深刻な問題となっている退役軍人のPTSDなんて興味深いですよね。何たって、過酷なトレーニングを積んできた屈強な兵士ですら、心を病んでしまうわけなんですから。それって結局、筋肉を鎧にしたところで、心までは守れないってことなんでしょうね。きっと心ってのは、思ってるほど丈夫じゃないんですよ。まわりを見渡してみても、心が死んじゃってるような日本人、たくさんいますよね。今の日本は、心が疲弊するようなシステムになってるんですよ。満員電車なんてそうじゃないですか。家畜でさえ、あんなにも詰め込まれないっていうのに、笑っちゃいますよね。知ってます? 満員電車で受けるストレスって、戦場で受けるストレスと同等以上だって言われてるんですよ。やばいですよね。通勤で疲弊して、その上さらに会社でのストレスで消耗する。給料はいっこうに上がらず、働けど働けど楽にならない。社会人になったとたん、地獄が待っているようなもんですよ。客商売についたなら、客の理不尽なクレームにも対応しなきゃなんない。客観的に見ても謝る必要のない連中に自分を押し殺してまで謝らなければならないわけですから、顔から笑顔が消えて当然ですよね。昔の話ですが、私は学生時代に、個人経営のレストランでバイトしたことがあるんですが、ときおり、とち狂った客が、とち狂ったクレームを言ってくることがあったんです。そんなときはオーナーがひたすら謝り続けるわけなんですが、そういうのを見て社会の
ありがたい言葉だった。人は何よりも肯定されることを望む。心が折れているときにはなおさらだ。面と向かって肯定されたことで、田島は少しだけ気が楽になった。
「田島さん、一つ聞いてもいいですか? その鼻の傷、もしかして彼らに」
自然と鼻に手が伸びていた。苦笑しながら田島は相手にうなずいて見せた。
「やはりそうでしたか。どういう状況だったかは知りませんが、その傷をつけたのが彼らなら、あの連中は苦しんで当然だったんだと思いますよ。あなたみたいな方に、傷を負わせたんですから」
自分を肯定し続けてくれる男といっしょにいるのは心地よかった。さらに、こうやって二人でいることがとても自然なことのようにも感じられ、これが、〝気が合う〟というものなのかもしれないなと田島は思った。ふと、男の足元を見る。ていねいに磨き込まれた黒革のブーツが目に入った。黒いソールと本体のつなぎ目部分にもしっかりとブラシが当てられているのがわかり、それを見て、ますます気が合いそうだと思った。
もうしばらくいっしょにいたいと思ったが、その願いは叶わなかった。男は電子タバコをブルゾンの内ポケットにしまうと言った。
「申しわけありません、こちらの勝手で長々と引き止めてしまって。また何かありましたら、お気軽にご連絡ください。遠慮することはないですよ。なんせこちらは、法外な料金をいただいてるわけなんですから」
男が立ち上がったので、田島もそれにならった。
「それでは、私は失礼します」
男は小さく頭を下げると、背を向けて去っていった。
田島は男の背中をしばらく見送ってから再びベンチに腰を下ろした。黒い川面に視線を向けて、しばらく川の流れをぼんやりと眺めた。
「ああ、そういえば……」
今ごろになって自分の落ち度に気づく。こんな夜更けに無理を言って呼び出しておきながら、彼らに謝罪の言葉一つ言わなかった。自分の至らなさを恥じた。向こうはおそらく気にしてないだろうが、それでも一言あって当然だった。
「ああ……」
今度は別のことに思い至ると、軽いめまいに襲われた。近日中に三人の命が奪われることになる。そんな現実に胸が苦しくなった。命の重さを肌で感じた。生きている価値などないと思っていたあんな連中の命でさえ、決して軽々しく扱ってはいけなかったことを知り、動揺した。さらに、次のような不安が頭をもたげ、顔から血の気が引くのを感じた。
「彼らは本当に、安楽死によって死を迎えられるのだろうか……」
両手で頭を抱えた。すべてを後悔した。
* * *
「今日はどうしちゃったんですか」
男は助手席に座る先輩に向かって言った。
ハンドルを握るトヨタのワンボックスカーは夜の国道を軽快に飛ばしていた。
「サガラさんが、クライアントとあんな風に話し込むなんて」
助手席に座る先輩は、
「ああそうだな。確かに、話し好きなクライアントと話し込んだことは過去に何度かあったが、さっきみたいに、自分から積極的に話したのは今回がはじめてだな」
「ですよね」
「本人にも言ったんだが、あの人とは初めて会ったときから何だか他人とは思えないような親近感を感じていてな。お前もそういう経験ないか? 会ってすぐに気が合うのがわかるっていうか、まるで旧知の仲のように振る舞えるっていうか、おれはそういうのをあの人に感じたんだよ」
「そうだったんですね」
「あと、わかってるとは思うが、おれがクライアントとあんな風に話してたことは誰にも言うなよな」
「ええ、もちろんわかってますよ」
しばらく車内に沈黙が降りる。モノクロの街並みが通り過ぎていく。
男はアクセルを踏み続けながら、助手席に座る先輩から買ってもらった缶コーヒーを口に含む。それから、あの人とサガラさんて、ちょっと雰囲気似てますよね、と言おうとしたが、相手がその発言をどう受け止めるか判断がつきかねたため、代わりにこう聞いた。
「それであの人と、どんなこと話したんですか?」
「大した話はしてないな。適当に世間話をしただけだよ。だが今思うと、ほんと、どうでもいいようなことばかり話してたような気もするな。それも、ああも長々と。待たせて悪かったな」
「いえ、それはいいんすけど。でも、それにしてもあの人、ずいぶんとやつれてましたよね」
「ああ。最初から四人は、少し刺激が強過ぎたんだろうな。刺激のほうが強過ぎて、復讐の快楽を楽しめなかったんだろう。まあ、四人同時にってのが、あちらの要望だったんだからしょうがなかったんだが……。けどな、ああいう人当たりのよさそうな人ほど、とんでもない悪人になる可能性を秘めてるんだよ。振り子の原理といっしょだな。極端な善人ほど、極端な悪に走りやすい。それにあの人からは、自分と同じ匂いを感じるんだ。あの人も、二パーセントの一人じゃないかってね」
「二パーセント?」
「知らないのか? 人口の二パーセントが殺人鬼として世に生まれてくるんだよ。ナチュラル・ボーン・キラーズってやつだな。二パーセントの人間が、生まれながらに人を殺したくてウズウズしてるのさ。傭兵なんてのを職業に選ぶような連中がまさにそうだ。あいつらは、金をもらえなくったって、率先して人を殺すような連中さ。おれらも似たようなもんだろ? まともな神経してたら、いくら金がいいからって、こんなことしてるわけないじゃないか。こんな話もある。戦時中、戦地に赴いたばかりの兵士が、敵を発見しても、人を殺すことをためらって無意識に銃口を空に向けてしまうなんてことがあったそうだ。へたすりゃ自分が殺されるかも知れないっていうのに、人を殺すことをからだが拒否しちまうんだろうな。ベトナム戦争では、前線の兵士の三割しか発砲していなかったっていう説もある。だからあれだ、普通の神経してたら、人なんて簡単には殺せないってことなんだよ。人を痛めつけるにしろ殺すにしろ、それなりのタフさが要求されるってわけだ。ま、話は戻るが、あの人、今はあんな感じで気落ちしてるが、そのうちまた、新しい仕事でも依頼してくるかもしれないぜ」
「そうですかね」
「ああ。何なら、賭けるか」
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