友達でも恋人でもない真面目な家出美少女は 大好きな軽薄従兄と意味深に繋がっている
ののあ@各書店で書籍発売中
第1話:不健全な従兄妹
カーテンの隙間から零れる光で、目が覚めた。
冷房つけっぱなしで寝ていたせいで少し淀み気味な空気の中、無意識に頭を掻きながら起き上がる。
隣を見れば「なんか安心するから」となんとも感覚的な主張をしたJK従姉妹――真理那が、完全に惰眠を貪るスタイルで寝こけていた。
おそらく二度寝か三度寝。
挑発するかのようにぶかぶかなシャツは煽情的だ。出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでる女らしい身体つきはクッキリだし、ムチッとした太腿から下は完全に生足。こっそりシャツの裾をめくってみれば、焼けて小麦色になった肌と水着の形で残る日焼け跡のコントラストが拝めそう。
……無許可は後が怖いし、人のタオルケットを奪って抱き枕のように抱きしめてるので実行は難しいけどな。
「ふわ~ぁ~…………」
大あくびをキメながら立ち上がって、カーテンとベランダの窓を開けはなつ。
ひんやり涼しい部屋をウキウキ喚起せんとする朝風が部屋の中を引っ掻き回すのは爽快だが、長くは続かない。
コレが真理那であれば、モーニングコールにぴったりな爽やか笑顔で「しゃっしゃと起きんしゃいこんボケ」とオレを起こしにかかったかもしれない。
それは見慣れた平常運転そのものである。
だが、今の真理那はむしろオレより良質な睡眠状態をキープしている。
真面目過ぎるきらいがあった従姉妹様が、随分とコッチの生活にこなれたようで何よりだ。
――世間的には真面目さと品行と真逆だが。
ついでに現状がおおっぴらになったらダルイことこの上ない。
何故なら――――。
今のコイツは、自分で認める非倫理的な家出少女生活の真っ最中だから。
「うぅん…………眩しい……」
「悪い、起こしちまったか」
「……ええ、起こされちまったわよ。……おはよっ、晴兎(はれと)」
「おはよう、真理那」
朝の挨拶は気だるげで、目をしょぼしょぼさせている真理那も大変かったるそうかつ気だるげな無防備状態だった。「夜のプロレス後の朝です」なんて冗談をかましたら九割の人間は信じるかもしれない。オレに対するドン引き付きで。
「まだ寝てていいぞ。っつうか、オレもまだゴロゴロしてたい」
「ダメよ。そう言ったあなたは本当にそのままゴロゴロし続けて起きないって、私知ってるのよ」
「それはお前が中々寝かせてくれなくて、睡眠が足りないせいだ」
「……堂々と言わないでよ、このばかちん」
昨夜の出来事を軽くからかっただけで、すまし顔の従姉妹様はわかりやすく頬を赤らめてしまった。日焼けで黒くなっている肌であってもわかる程に。
「いいんだよ実家じゃないんだから、生真面目に寝起きしなくて。もっと肩肘張らずにゆるーく考えろゆるーくさ。そんなわけで一緒に二度寝でもどうだ」
「……ダメよ」
「なにがさ」
「だって……それじゃ朝から一緒に寝ることになるじゃない」
身の危険でも感じているかのようにJK従姉妹は肩を抱くと、無駄に色気が滲み出て誘っているかのような雰囲気が出てしまった。
ちなみに本気でコイツが危険を感じて嫌がっていた場合、その美貌に釣られたアホな男達のように身体の奥底から凍りつく冷たい目で睨まれるので、今の状態は「ちょっとソレもいいかも」と考えている悪くない状態と言える。
それがわかるぐらい、目の前の少女との付き合いは深くて長い。
しかし、まるで十年以上共に暮らした恋人か夫婦かと勘違いされそうな程、他人からは親密に見えるオレ達は決してそのような関係じゃなかった。
ならばなんと言えばいいのか。
無二の親友?
家族のような間柄?
それとも、家出少女を匿う悪い男――。
……オレにもよくわからん。
ただ、この可愛い少女はオレの従姉妹にあたる年下の女の子で。
真面目過ぎたゆえに限界を迎えて家出してきた放っておけないJKで。
オレは、その従姉妹のために不真面目な自由人街道を爆走中の家主だ。
今日も今日とて窓の外は暑さを伴う夏真っ盛り。気晴らしにでかけるにはもってこいの太陽が昇るまで幾ばくもない青空が広がっている。
さてさて、今日はどうしてくれようか。
ぼんやりと考えながら、オレは楽しい楽しいプランを練り始める。
可愛い可愛い大切な従姉妹が、オレの下にいる間は退屈と苦しみから解放されますようにと柄にもなく祈りながら――。
「んぅ」
寝起きでバランスを崩し、尻からコケた真理那の姿を目の当たりにした。
「おっ、黒」
思わず感想が漏れ出た十秒後、顔面に手のひらがペシンと押しつけられて視界が塞がれた。
こんなやりとりが日常的に何度も起こりうると理解している従姉妹に文句はないし、向こうも本気で叩いてるわけでもなく単にじゃれてるだけだ。
「そーゆうのは思っても口にしなければ叩かれないで済むたい」
こんアホめ、と。
そう言いたげな家出娘の口角をあげたあどけない笑みには、残っていた眠気を吹き飛ばすのには十分な威力があった。
「悪いのはオレじゃなくて、この眼なんだ、ちゃんと後で叱っておくから……」
謎な言い訳を口にするオレに向かって、「ん」と真理那が手のひらを伸ばしてくる。
それはオレ達だけにしかわからないシークレットハンドシェイクの合図。挨拶や肯定・否定、他にも安易に使用される。
同じようにオレが開いた手を重ねあわせると、向こうから恋人繋ぎのように指を絡めてきた。気持ちを伝える時に用いる秘密の握手だ。
「それなら仕方ないので、許してあげる」
オレの反応が満足のいくものだったようで。
真理那は手と指でニギニギしながら、可愛いすまし顔で「ふふん」と微笑んだ。この時不覚にも「いいなその表情」と思ってしまったのはバレていないと思いたい。
――しかしアレだ。
よくもまあ、短期間の間にここまで素を曝け出せるようになったもんだ。
しみじみとそう思っていたオレの頭には、従姉妹様がここまで変貌したキッカケとなる日々が蘇っていた。
///注意書き///
※本作に登場するヒロインから偶に方言が飛び出しますが、アレはベースはあるものの、要は「なんちゃって方言」になっています。現実の方言としてみると色々と変な感じになっています。不快に感じた方は申し訳ありません。そういう喋り方だと思ってくださいまし。
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