第20話 冷蔵庫がないなら作ればいいじゃない
それからの一ヶ月、私は胸当てと自動小銃、それとシールドの製作に明け暮れました。
道具屋のおじさんに頼んで特別なフェイスシールドを作ってもらい、それにも魔法陣を刻んで顔を熱から守っています。
「お嬢さま、根を詰めすぎですよ。少しは休憩されませんとお体に障りますわ。」
「大丈夫。もう少しですから。でも、セリカさん達がいてくれて本当に助かってます。ありがとうございます。」
一日中座りっぱなしで、同じ姿勢で作業を続ける私に、セリカさんは時々こうしてマッサージをしてくれます。
食事も作ってくれるし、掃除をする必要もない。私は、本当に魔法陣に集中することができました。
「終わったー!」
「お疲れさまでした。お風呂に入ってゆっくりしてください。そのあとで、髪を整えますから。」
「えっ?」
「髪がボサボサですよ。そんな姿では、外にお出しするわけにはまいりません。」
「はあ、何か甘いモノが食べたいな……。」
「甘いもの……ですか?」
「そう、プリンとかゼリーとかかな?」
「プリン……ですか?」
「あっ、こっちにはプリンってないのかな?」
「聞いたことがありませんが。」
「そっか、じゃあお風呂に入ったら久しぶりに作っちゃおうかな。」
「ご自分で作られるんですか?」
「そうよ。これでも、お菓子作りは得意だったの。」
お風呂から出たあとで、キッチンにいって食材を確認します。
「玉子はないのね。ミルクも……。砂糖はあるし……、あれっ、そういえば冷蔵庫は?」
「冷蔵庫……ですか?」
調理担当のマリーさんが不思議そうな顔で聞いてきました。
「そっか、冷蔵庫もないんだ……。」
私は道具屋のおじさんに、木の箱の内側に鉄板を貼り付けたものを2つ注文します。
中にはサビ止めの塗装と魔方陣と魔石を取り付けるスペースも用意してもらいました。
「こんな箱、なんに使うんだい?」
「内緒ですよ。でも、これもいっぱい注文が来るかもです。」
魔石は魔力を貯めることがことができる石で、冷蔵庫のように効果を継続するものには必須なんだそうです。
翌日、冷蔵庫が届きました。
「お嬢さま、こんな大きな箱を何に使うのでしょう?」
「マリーさんが楽しくなるものですよ。」
私は用意してあった魔方陣と魔石をセットして、冷蔵庫を起動しました。
片方は摂氏3度の風を絶えず循環させるもので、少し待てば庫内が冷えてくるでしょう。
もう一つの方は、庫内をマイナス5度にキープして、一定量までキューブアイスを製造し続ける製氷機です。
製氷機を起動すると、ガラガラと氷が出来上がっていきます。
「これからは氷が使い放題よ。」
「まさか、こんな魔道具を作ってしまわれるなんて……。」
「こっちの冷蔵庫は、もう少ししたら仲が凍らない程度に冷えるの。」
「凍らないとどうなるんですか?」
「食材が腐りにくくなるの。定期的にクリーンの魔法も発動するから、中はいつでも清潔だしね。」
「腐りにくい……ですか?」
「そうですよ。お肉とか、魚とか、ミルクとかが数日間痛まないのよ。」
「そんなことが可能なんですか?」
「ただ、水分はなくなっちゃうから、食材を入れた容器は蓋をしないといけないですけどね。じゃあ、買い物に行きましょうか。」
「はい。」
私はマリーさんと買い物に出かけます。
「ミルクと玉子は買えたけど、テングサは無いか……。」
「テングサですか?」
「ええ、赤い海藻なんだけど……」
「赤い海藻……浜辺でならよく見かけますけどね……」
「海!海は誓いの?」
「西に歩いて30分くらいですね。」
「王都の反対側なのね。」
一度家に帰った私は、すぐにキックボードで飛び出します。
海へ!
【あとがき】
テングサというのは、固有の品種ではなく総称なんだそうです。
波打ち際にいくと赤い海藻が打ち上げられているのを見ますよね。いっぱい枝分かれしているような感じのアレです。
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