第705話 身の上話

 翌日。一応全てのエリアの探索も終えたので、今日はまたギルドエリアで色々とやる事をするかな。新妖都も残すは玉藻ちゃんの屋敷だけになった。玉藻ちゃんが妖都で一番偉いので、そこはしっかりと分かり易く大きな屋敷に住むらしい。それでも元々の屋敷よりは小さくなっているっぽいけど。

 ひとまず、最初はジークフリートさんとところに向かう。ジークフリートさんは、一番下のギルドエリアに屋敷を作って貰って、クリームヒルトさんと暮らしている。

 屋敷を訪ねると、すぐに中に招き入れてくれた。クリームヒルトさんがお茶も入れてくれて歓迎という感じだ。そもそもそうじゃないと、昨日のイベントでも手伝ってはくれないか。


「ちゃんと挨拶が出来ず申し訳ない。改めて世界で世話になる。ジークフリートだ」

「クリームヒルトです。初対面では醜態を晒してしまい申し訳ありません。現在ブリュンヒルデとは、休戦状態です。ご迷惑をおかけしてしまい本当に申し訳ありませんでした」

「いえ、お互いにある程度譲歩出来ているのなら良かったです。割り切れるような問題ではないと思いますが、少しずつ歩み寄っていただけると幸いです。取り敢えず、お二人も商店街の警備を担当してくださるという事で良いんですか?」

「ああ。この前の戦いで分かってくれたと思うが、俺もクリームヒルトも戦闘は出来る。基本は警備をしつつ上の世界で農作業等を手伝おうと思う。警備は多いに越した事はないと思うが、それは上での作業も同じだろう」


 確かに上で作業してくれる人が増えてくれると、資源が安定して得られるので助かる。人数を見て、資源とこっちで仕事をしてくれるのなら大助かりだ。


「分かりました。よろしくお願いします」

「それと派遣と言ったか。そっちでも使ってくれ」

「はい。その時はお願いします」


 ジークフリートさんが二つのギルドエリアで手伝いをしようと言った本当の意味はここにあった。派遣のメンバーに選ばれれば、どちらかの仕事をしている人数が減る。そこで、減ったところを補うために行動してくれようとしているのだ。


「まぁ、上はキャメロットの住人が手伝っているから問題ないと思うがな」

「ああ、確かに、そうかもですね」


 キャメロットに来た幽霊達はキャメロットの掃除などもしながら周辺の手伝いをしてくれている。ほぼほぼ実体を取り戻したと言っても良いくらいだ。

 だから、資源ギルドエリアは、基本的にフル回転中となっている。それでもアーサーさん達が手伝いをしている事もあるから、手伝ってくれた方が有り難いのは変わらない。アーサーさんは王様だから、周囲の人達は困ったような表情をしている事が多いけどね。


「それとファフニールに何かあれば、俺が対応しよう」

「どういう事ですか?」


 真剣な表情をしながら言っているけど、何かあればの何かがどういう事なのかが分からないので首を傾げる。


「俺はかつてファフニールを殺している。あいつが悪事を働いたからだ。ここでは大人しくしているようだが、もし同じような事が起こるのならば、俺が適任だろう」


 ジークフリートさんは本気で言っているようだ。実際にそういう事があったから警戒しているというのも納得出来るし、理解も出来る。だから、ここでジークフリートさんを叱責する事はない。


「分かりました。あり得ないと思いますが、もしそういう事態が万が一起きた場合はお願いします」


 十中八九、九分九厘、絶対にないと思うけど、そういう事が起きたら頼む事にした。かつて問題を起こしたからと言って、再度同じ事をやらかすとは限らない。それに私はここの住人皆を信じているから、そういう意味で警戒する事はない。


「ああ。これからよろしく頼む」

「よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします。では、失礼します」


 私は、ジークフリートさんとクリームヒルトさんの屋敷を後にする。すると、丁度走っていたアキレウスさんが私の前で止まった。


「おう、嬢ちゃん。ちょっと走らねえか?」

「え? まぁ、良いですよ」


 何故かアキレウスさんとジョギングする事になった。正直、ジョギングで出すような速度ではないのだけど、二人して足が速いからそんな事になっている。


「俺は人と神の間に生まれた半神半人だ」


 唐突にアキレウスさんが語り出した。どうやら一緒に走ろうと言ったのも話を聞いて欲しかったからみたい。


「母親である女神テティスは……言ってしまえば、究極の過保護でな。子供不死にしようと色々とやっていたらしい。その結果、多くの兄弟が死んだみたいだ」

「過保護……」


 過保護のレベルを超えているどころか、保護するどころか危害を加えているのではと思ってしまう。私の思考を読み取ったのか、アキレウスさんは苦笑いしていた。


「俺も神の力が流れる河に沈められてな。身体のほとんどが不死になっている。踵だけが不死じゃないが、まぁ、問題はない。ただそれを親父に叱責されたからかお袋は俺達の元から去った。そこで親父は、ケイローンというケンタウロスの賢者に預けた。そこで育ったわけだ」


 赤ちゃん時代なのに、中々にハードな人生を送っている感じがする。


「ただそれでもお袋は俺を見捨てた訳じゃなかった。お袋は預言が得意でな。俺の死を預言して、それを防ぐために色々としてくれいたんだ。俺の我が儘も聞いて貰った。周りから見りゃヤバい母親っぽいが、ちゃんと母親として俺を愛してくれていたんだ。だが、俺が馬鹿だったんだな。預言通り、俺は死んだ。お袋には悪い事をした」

「そうなんですか……テティスさんでしたっけ。祝福を貰って、こちらに呼びましょうか?」


 ちょっと勝手な事だとは思うけど、アキレウスさんの話を聞いているとテティスさんに会いたいという風にも思えた。だから、ヘラさんかゼウスさんに頼んでテティスさんを探して貰えば、祝福を頂いてこっちに呼ぶ事が出来ると思った。祝福を授けて貰うまでが大変かもしれないけど。


「いや、お袋はニュンペーの一人だったからな。ついこの間会った」

「えぇ!?」


 てっきりお母さん捜しを手伝って欲しいという話かと思ったのだけど、ニュンペーさん達の一人がテティスさんだったらしい。いつも一緒に踊ったり歌っている中にいたのかな。


「その礼を言いたかったんだ。死後、もう会うこともないと思っていたからな。また会わせてくれた事感謝する」


 アキレウスさんはそう言いながら頭を下げる。どうやら身の上話もこの話繋げるためのものだったらしい。確かに、急に言われたら何の事か分からなくて混乱していたと思うので有り難い。


「いえ、もうお会い出来たのなら良かったです」

「それと一つ頼みがあるんだ。賢者ケイローンに会ってくれないか?」

「良いですよ。でも、どこにいるんですか?」


 即答で了承したら、アキレウスさんは少し驚いた表情をしてから、大きな声で笑った。


「ははははは! 本当に面白い嬢ちゃんだな。ケイローンはエリュシオンにいる。俺が案内しよう」

「お願いします」


 こうして、私は賢者ケイローンという人……いや、ケンタウロスだっけ。まぁ、人でいいや。その人に会うことになった。

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