第410話 圧倒的戦力

 イベント開始時刻。私とアカリは、ファーストタウンの広場にいた。準備はバッチリなので、後は転移待ちだ。早く転移しないかなと思っていると、隣のアカリがちょっと緊張していた。


「大丈夫だって。私達がいるんだから」


 アカリの腰に手を回して、引き寄せながらそう言うと、アカリの強ばりが解けていった。


「うん。そうだね。私は、私に出来る事を頑張らないと」

「そういう事」


 このままアカリにキスしたいなと思っていると、転移が始まった。アカリと一緒に転移した先は、高層ビルが建ち並ぶ、廃都市エリアのような場所だった。


「前は障害物がないような平原だったけど、今回は障害物モリモリの廃都市か。モンスターの場所が目視出来ない可能性があるかな。取り敢えず、皆を喚ぶかな」


 スノウ、エレク、ヒョウカ、ニクス、レイン、ソイル、エアリー、ライ、メア、マシロ、ラウネ、フラムを喚び出す。ヒョウカは、アカリの護衛として喚んでおいた。戦闘は得意じゃないみたいだけど、アカリと連携すれば大丈夫だろうという判断だ。


「こうして見ると、小さい子が多いね」

「まぁ、スノウ、エレク、ニクスくらいだもんね。フラムも長身だけど、それは神霊としてはの話だし。ヒョウカは、アカリと一緒にいてね」

『は、はい! が、頑張ります!』

「うん。無理はしないでね」


 緊張しつつも張り切っているヒョウカの頭を撫でてあげる。その間に、アカリの方を見て、目だけでヒョウカの事をよろしくと伝えておく。私の言いたい事を理解してくれたアカリは、目で任せてと返事をしてくれる。


「それじゃあ、他の皆は、それぞれでモンスターを倒して行って。でも、絶対に無理はしない事。危なくなったら、協力してね」


 皆に指示をすると、一斉に返事をされる。それぞれ同じように返事をしている訳じゃないので、ちゃんと聞き取れはしなかったけど、全員了解したのだけは分かる。皆頷いていたし。


『うむ!』

『分かりんした』

『分かりました』

『はい』


 背後から声がして、ちょっと驚いた。そこには玉藻ちゃん、胡蝶さん、紅葉さん、清ちゃんがいた。


『ところで、これは何事じゃ?』


 玉藻ちゃんのこの言葉に、思わずずっこけそうになった。まさか、事情を知らずに四人で来るとは思わなかった。


「何も知らずに来たんですか?」

『うむ! いつもの世界に行ったら、皆がいなかったのでな! ハクの気配を追ってきたのじゃ!』


 一応、私と契約している状態だから、私の居場所は分かるらしい。今日は皆でギルドエリアに来たけど、誰も居なかったから、私の元に来たら、ここに来たって感じみたい。


「今から、ここに来るモンスターを殲滅するんです」

『ほう。また変わった事をするんじゃのう。妾達も手伝うのじゃ』

「心強いです」


 戦力が増えるのは嬉しいけど、どう考えても過剰戦力な気がする。いや、そもそも神霊が六人もいる時点で過剰か。

 そんな事を思っているうちに、殲滅戦のカウントダウンが始まる。


「それじゃあ、頑張ろう!」

『おお~!』


 皆で気合いを入れるのと同時に、カウントダウンが終わり、殲滅戦が始まる。私は、【熾天使翼】を広げて、空に飛び上がる。同じようにスノウとニクスも飛ぶ。

 空から来るモンスターを警戒しようと思って空を飛んだけど、正解だった。ビルより上から鳥のモンスターが向かってきている。そのモンスターは、スチールレイブンだった。全方位から来ているので、一遍に全部を倒すのは無理そうだ。

 スノウとニクスは、左右に分かれて、それぞれで迎え撃ちに向かう。その間に、私は血液で弓を作り、同様に矢を血液で作りつつ、矢の先端に圧縮した【神炎】を乗せる。同時に、【蒼天】と天聖の混合熱線をチャージする。これで急に強いモンスターが来ても対応出来る。【無限光】になった後も熱線は使えるので有り難い。

 そして、限界まで引き絞った弓に番えた矢を、【物体操作】も利用して放つ。勢いよく飛んでいった矢は、一体のスチールレイブンに命中する。その瞬間に、圧縮していた【神炎】を解放。大きな爆発と共に【神炎】がスチールレイブン達を焼く。

 それを繰り返して、スノウとニクスと一緒にスチールレイブン達を倒していった。その間に、地上の方でも戦いが起こっている。とは言っても、エアリーが次々に斬り刻んで葬り去っているだけだけど。地上を移動しているのは、戦闘アンドロイドと火力ドローンと氷兵士と氷騎士かな。私の【万能探知】で分かる範囲では、この四種だった。


『空からも大分来ているみたいでありんすね』


 いつの間にか、胡蝶さんが私のところまで来ていた。胡蝶さんは糸で組まれた足場に立っていた。建物より高いところにいるのだけど、工事の足場みたいに糸が組まれて自立していた。それに、よく観察してみると、あちらこちらに蜘蛛の巣が出来ている。


「罠を張ったんですか?」

『一気に来られても困るでありんしょう。足止めにはなりんす』

「そうですね」


 胡蝶さんの言うとおり、火力ドローンは捕まって動けなくなっている。そして、エアリーが倒す前に倒されていった。胡蝶さんの蜘蛛達が倒してくれているみたい。こうしてみると、胡蝶さんの蜘蛛を使った戦い方は、こういう戦いでかなり有効だ。まぁ、罠である巣があってこそだけど。あの巣を張る速度も重要な一手だった。


「この調子なら、このフェーズは大丈夫そうですね」

『どんどん強うなるのでありんすか?』

「前にやった時はそうでした。大きな敵もどんどん増えます」

『ふむ。久々に本気になれそうでありんすね』


 胡蝶さんの本気を見られるのは、ちょっと楽しみかもしれない。というか、玉藻ちゃん達が本気で戦っているところを見られるのが楽しみかな。

 そのままモンスターを殲滅していく。私、スノウ、ニクス、エアリー、胡蝶さんの五人で、このフェーズは乗り切っていく。他の皆は力を温存する。全員で力を消費するよりも随時投入していく方が良い。この前の殲滅戦の経験もあって、そうする方が良いと判断出来る。多分、下ではアカリが説明してくれたのかな。

 そうして第二フェーズがやって来る。第二フェーズでは、第一フェーズのモンスターに加えて、氷熊、桜幽鬼、ジュエルアルマジロ、ファイアバットが追加された。これくらいだったら、第一フェーズと同じように倒しきる事が出来る。ただ、ファイアバットが蜘蛛の巣を焼くので、胡蝶さんは、少し苛立った様子だった。途中で、私を糸で引き寄せると、ひたすら頭を撫でていたから間違いない。そうしている間も私は弓で射っていたけど。

 第二フェーズまでは、準備運動。本番は第三フェーズからだ。

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