第335話 熾天使の稽古
『では、始めましょうか』
そう言って、セラフさんが飛び始める。私も同じように空を飛ぶ。同じくらいの目線まで飛んでいるけど、セラフさんが軽く距離を取った。
「何をするんですか?」
力を引き出すために、何をするのか聞いていないので、確認はしておかないといけない。
『私と模擬戦をして頂きます。武器の使用などは禁止です。あなたが持つ属性のみで戦って頂きます』
セラフさんがそう言って、私に向かって手を伸ばすと、私の目の前にウィンドウが出て来る。
『武器スキル魔法スキルが封印されます』
スキル欄を見たら、武器スキルと魔法スキルが灰色になっていた。これが封印されている状態らしい。一応、血液のスキルは属性扱いされるみたいなので、そこだけ安心した。格闘系統のスキルも封印されているので、本当に属性操作系のスキルとかのみで模擬戦をしないといけないみたい。まぁ、多分師匠達の稽古と同じだと思う。
『始めます』
セラフさんがそう言うのと同時に、セラフさんの周りに虹色の外炎をした炎が出て来た。私の【神炎】と同じだ。セラフさんの【神炎】が私に向かって高速で迫ってくる。
こっちも【支配(火)】を持っているので、逆に奪えるかと思ったけど、こっちの言う事は全く聞かない。向こうの方が上と考えると、セラフさんは完全支配をいくつも持っている可能性がある。
【神炎】に当たらないように高速で飛ぶ。火属性も神聖属性も完全耐性を持っているけど、当たらない越した事はない。私自身の耐性であって防具の耐性じゃないし、相手が同じ【熾天使】だと本当にダメージを受けない保証もないから。
でも、セラフさんの【神炎】は確実に追尾してきている。さらに嫌な予感がして、急降下する。すると、私がさっきまで飛んでいこうとしていた方向に虹色の透明な何かが通った。恐らくさっき話もあった【神風】ってやつかな。レインの【神水】はそんな感じじゃなかった気がする。【神炎】を手に入れた今なら、レインの水も変わって見えるのかな。
そんな事を思いつつ、身体から水を出して、セラフさんの【神炎】にぶつける。水が一気に蒸発して、【神炎】の勢いを削ぐ事しか出来ない。
「セラフさんの炎が強いのかな?」
血液と水を出して、後ろに壁を作り出す。その壁で【神炎】を止めて、こっちも【神炎】を出してセラフさんに飛ばす。武器を作る事も出来るけど、武器系スキルが機能しないのなら、補正も掛からないので、そのまま飛ばすしかなかった。セラフさんは恐らく【神水】を出して、自身を覆った。そこに【神炎】が命中するけど、【神水】の一部を蒸発させただけで、セラフさんには一切届いていない。
飛びながら武器スキルを属性スキルに変更していく。【放電】に【疾風迅雷】で溜まっている雷を乗せて放つ。その雷撃をセラフさんは虹色に輝く雷撃をぶつけて打ち消した。恐らく、あれが【神雷】だと思う。
次に【神炎】と水を【属性結合】させて、広範囲を霧で満たす。湿度の高い場所みたいな不快感があるけれど、これで目眩ましにはなる。
その中で【蒼天】のチャージをしつつ、【天聖】のチャージもする。この二つは武器スキルでも魔法スキルでもないので使用出来る。
【天聖】も【蒼天】のように熱線として吐き出せるので、こうして同時にチャージが出来る。そのチャージしている二つを【属性結合】で合わせる。口から漏れる光が、白く変化する。
次に、血液を大量に出していく。一部の血液を服の下に仕込ませておいて、他の血液は盾のように平べったい板の状態にする。それを作っていると、急に強烈な風が吹いてきた。その風で霧が晴らされる。同時に、【神雷】が放たれた。その【神雷】を【吸雷】で吸収する。
「んっ……!」
身体を大きな衝撃が襲ってくる。吸収できる量を超えたって事なのかな。即座に【放電】で吸収した【神雷】を放つ。セラフさんは虹色の光で防いだ。あれは【神光】だと思う。本当に色々な属性を持ってみるみたいだ。
次の攻撃が来る前に、血の盾を連れて高速でセラフさんに向かって飛ぶ。セラフさんが放ってくる【神雷】や【神炎】を血の盾で防いでいく。そうして隙間を抜けていったところで、【電光石火】を使い、一気に距離を詰めた。
これには、セラフさんも驚いたようで、少し目を開いた。セラフさんに触れるために手を伸ばす。それに対して、セラフさんも手を伸ばしてきた。互いの指先が触れた瞬間に、【魔氷結】を発動する。
『なるほど……』
セラフさんは、私が何をするのか知りたかったから手を伸ばしたみたい。一瞬で氷結部分を壊された。そして、そのまま【神風】による打撃がお腹に叩き込まれて、距離が離れてしまった。でも、ちょうどチャージも終わった。即座にセラフさんの方を向いて、【蒼天】と【天聖】の混合熱線を吐く。白い熱線が吐き出され、セラフさんに向かっていく。熱によるダメージは、【熾天使】の効果でない。【蒼天】のデメリットである沈黙状態もなかった。これが【天聖】と結合した結果ではないのなら、【蒼天】をデメリットなく使えそうだ。
熱線を受けたセラフさんは、一切ダメージを受けていなかった。目の前に【神光】の壁があるから、それで受けきったらしい。
『ここまでですね。お疲れ様です』
セラフさんはそう言いながら降りてくる。稽古が終わりという事なので、血液を戻しておく。
『面白い技をお持ちのようですね。ですが、まだ根源を得るには足りません。また後日お越しください』
「あ、はい」
この稽古で強制的に属性スキルのレベル上げをさせる感じかな。これまでの稽古でも似たようなものだったから、これは間違いないはず。
『もっと属性に慣れた方が良いですね』
「分かりました」
素直にそう言うと、セラフさんに頭を撫でられる。ここでセラフさんのプライベートエリアから出て、天上界に戻った。
神殿に出たけど、さっきまでいたスローン、ケルブと呼ばれていた天使がいなくなっていた。
「あっ、そうだ。私って、ここを自由に探索しても大丈夫ですか?」
『大丈夫ですよ。ですが、天使達には近づかないようにお願いします。あなたは【熾天使】ですので、彼女等も落ちつかないと思いますから』
「はい。分かりました」
最初にここに来た時、私を見て頭を下げていたし、落ちつかないのは本当の事だと思う。
「セラフさん達は大丈夫なんですか?」
『私達は長くここにいますので、天使達も慣れています。ですが、あなたは初めていらっしゃったので、緊張が解けるのには時間が掛かるかと』
つまり、何度も通いつつ天使達には近づかないというのを守って、ようやく受け入れられるって感じかな。でも、何か分かりそうではあるし、根源に迫れる可能性もあるから、何度も通う価値はあると思う。天上界って名前だけど、ここも隠れ里の一種なのかな。他の隠れ里と比べて、訪れられる人がかなり限られてくるような場所だから、双刀の隠れ里みたいな事になるのは当分先かな。
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