第304話 花精霊のアルラウネ

 周囲を警戒しながら地面に降りた。周囲の植物は大分崩れている。


「ハクちゃん!」


 地面に着いたら、先に降りていたアカリが駆け寄ってきた。崩れている植物の中から脱出して、ちゃんと無事だったみたい。ちょっと安心した。

 【蒼天】の反動が抜けていないので、軽く手を上げて応える。アカリの他にも皆が駆け寄って来た。


「ハクちゃん、大丈夫だった?」


 アク姉の確認に頷く。


「【蒼天】の反動だね。アルラウネは倒したの?」


 これにも頷く。


「でも、アルラウネは消えていない……どういう事?」


 これには首を横に振る。私にも分からないという意味だ。


「最後のトドメが必要とか?」

「う~ん……普通はそうだよね……でも、本当にそうなのかな?」


 メイティさんの考えは、至極普通だ。それに対して、疑問を抱いているアク姉の方がおかしいと言える。

 普通のゲームなら、私もメイティさんと同意見だった。でも、このゲームに関しては、私もアク姉と同意見だ。何かが隠されている気がする。

 ただ、それを伝えようにも、まだ【蒼天】の反動が……


「あ……あっ、声出た。私もアク姉と同じ意見。この子の身体がポリゴンになっていないのは、何か理由があると思う。多分、トドメを刺すか、他の選択肢を取るのかって感じじゃないかな」

「でも、何をするの?」


 アカリにそう訊かれて、一つ思い付いた事があった。


「ライ、交代ね。今日は、頑張ってくれてありがとう」

『……』こくり


 頷いて答えるライの頭を撫でてあげてから、ライをギルドエリアに帰した。


「【召喚・レイン】」


 ライと交代でレインを喚び出した。


「レイン。この子に水を与えてくれる?」

『うん。良いよ』


 レインの水でアルラウネを包み込む。すると、アルラウネが水を吸収し始めた。でも、HPが表示される事はない。すぐに再戦という事はなさそうだ。

 どんどんと水を吸収してアルラウネが目を開けた。そして、私の事をジッと見る。


『アルラウネをテイム出来ます。YES/NO』


 驚いたけど、迷わずにYESを押す。名前の入力が出来るようになるので、少し考える。


「安直だけど、ラウネで」


 名前をラウネで決定する。


「えっ……テイム出来たの?」

「うん」


 アク姉は、驚いてから大きく息を吐いた。私ばかりテイムしまくりだからかな。相手はレイドボスだし、結構シビアな条件が付けられていると思うけど、それがどんな条件かは分からない。これまでテイム出来た人がいないとしたら、精霊をテイムしている事が条件にありそうではあるけど。


「よろしくね。ラウネ」

『よろしくなの……』


 ラウネはギルドエリアへと転移した。同時に、レイドをクリアしたというウィンドウが出て来る。報酬は、アンブロシアの種と世界樹の苗木だった。称号も手に入れた。【花精霊の守り】といもので、植物系モンスターから受けるダメージを微減少するというものだった。場所によっては使いようがありそう。


「アカリは何だった?」

「アンブロシアの花だけ」

「そうなの? 私は花精霊の蜜だったよ」


 他の皆の報酬もアンブロシアの花か花精霊の蜜だけだった。私は、ラストアタック報酬も含めて二つって感じなのかな。いや、一番の報酬は、ラウネをテイム出来た事なのかな。


「そういえば、アク姉の方は、どんな感じだったの? 私、最後一人で戦ってたんだけど」

「え? そうなの? 私達は、虫モンスターが滅茶苦茶押し寄せてきてたよ。エアリーちゃん達がいたから、何とかなったって感じかな」

「私達の方は、木の化物が襲い掛かってきたよ。ウッドマンって名前だったかな。そこまでの数じゃないけど、結構硬かったから、サツキさんが大活躍だった」


 私以外の方もそれなりに大変そうだった。


「それにしても、結構意地悪な仕様よね。前衛と後衛を分けて、前衛の中でもまた分けられてって、ここのレイドは最大十八人だけど、本来はどんな感じで分けられるのかしら?」

「姉さんに訊いてみる?」

「その手があった。暇があったら訊いておいて」

「オッケー」


 アク姉はそう言って、フレ姉にメッセージを書き始めた。絶対返信の催促も書いている。そして、フレ姉は、そういう催促に文句を言いつつ、手早く返信を送ってくれる。実際、すぐに返信が来た。


「前衛と後衛の分断は、そのままで最後は与えたダメージが多い人が一対一になるみたい。全体の合計での計算みたいだね。HPがなくなった後に、また一撃与えないとレイドは終わらないってさ」

「じゃあ、一対一になるのは確定って事? 酷すぎない?」

「あっ、ゲルちゃんから追加情報だ。下で戦っている人達が全滅すると、そのモンスター達がどんどん上に上がってくるみたい。下が全滅したら、虫と木の化物も合わせて一人で戦う事になるみたい」


 やっぱり、下の人達も重要な役割を担っていた。攻略するなら、ダメージをコントロールして一人で戦う人を固定する必要があるかな。間違って一人で戦うのが苦手な人に当たったら、最悪だからね。そう考えたら、ソロばかりしている私が最後になったのは運が良かった。一撃が重いけど、攻撃速度は遅いサツキさんじゃ、攻撃を捌ききるのは難しそうだし。


「じゃあ、ソロで挑んだら、最悪な事になるんだね」

「レイドに一人で挑むなって事じゃないかしら。それか、それを突破出来るだけの力を身に付けろって事かもしれないわね。ハクちゃんなら、一人でも出来るんじゃない?」

「いや……最後ヤバいですよ。尖った木が飛んで来ますし、これまでの攻撃が何重にもなって飛んで来ますから」

「……エグいわね」

「それならハクちゃんが上がって良かったな。私じゃ対応しきれない」


 サツキさん自身も無理だと思ったみたい。一人でアルラウネと戦えるだけの戦力を持つ人が必要って、結構難しい気がする。初心者用かと思ったけど、ちゃんと高難易度のレイドエリアだったらしい。


「明日の死霊術士の墓場は、こうじゃないと良いなぁ」

「割と特殊な部類だろうから、さすがにないと思うけどね。取り敢えず、今日はこれで解散かな。ハクちゃんとアカリちゃんは、どうしたい?」

「私はギルドエリアに戻って色々とする」

「私も同じくです」


 という事で、今日はこれで解散となった。割と疲れていたから、一旦ギルドエリアで休むのと同時にラウネの住む場所を選ぶ。十中八九畑になるだろうけど。

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