第301話 花粉の恐ろしさ

 連撃を受けたアルラウネは、途中で蔓のネットを作って勢いを殺した。


「【ゾーン】【暴嵐刃円】」


 私達全員からアルラウネが距離を取ったのを確認して、アク姉が風の刃を伴った竜巻を放つ。最初の魔法が恐らく空間魔法で、アルラウネのいる場所に座標を正確に指定したのだと思う。それに、前にエアリーが使っていたものよりも大きい。魔法陣理論とか色々と覚えているはずだから、普通の魔法でも威力が高くなる。

 アルラウネのHPが大きく削れていく。その中で、私はあることに気が付いた。それは、周囲の色が少し黄色くなっていた事だった。


「何これ。花粉?」


 直後、【心眼開放】の第六感が反応する。ものすごく嫌な感じ。それは、周囲全体からしていた。


「エアリー! 全体に上昇気流!」


 私の指示に、エアリーは即座に従った。アク姉の竜巻とは別にボスエリア全体に及ぶ上昇気流が生まれた。私達の周囲を舞っていた花粉が上空に上がっていく。その一秒後、花粉がいきなり大爆発した。その規模は、空が爆発で埋まるような規模だ。

 そして、僅かに花粉が残っていたので、私達にも爆発の影響が及ぶ。幸い、影で防御出来るレベルの威力まで落ちているみたいだから、まだマシだとは思う。


「花粉爆発か。エアリーは、花粉への対処に集中して。下手すると、皆、動けなくなる」

『分かりました』


 エアリーには、花粉対策をしてもらう。空での爆発を見るに、皆は割と大きなダメージを受ける事になると思う。私は、【貯蔵】分があるから普通に耐えられそうだけど。

 そして、【索敵】にアルラウネの他のモンスター達が引っ掛かった。一段目のHPが半分を切った事で、そういうフェーズに入ったのかもしれない。


『お姉ちゃん……私とライで……やる……』

『……』こくり

「うん。お願いね」


 ソイルとライは、周囲から集まってくるモンスター達の殲滅に動く。その間に、アカリの元まで移動する。


「アカリも前に出よう」

「えっ、でも……」

「良いよね、アク姉?」

「うん。ソイルちゃんとライちゃんが周囲のモンスターを倒してくれるから、こっちは問題ないと思う」

『私が代わりに護衛に入りましょう。今の状態でも、近づいてくるモンスターぐらいなら倒せると思います』


 エアリーがアク姉達の傍に移動する。常に上昇気流を生み続けているエアリーは、いつも通りに攻撃が出来ない。常に花粉を地面に停滞させないというのは、結構大変みたい。でも、護衛は出来るっぽい。まぁ、それ以上の事くらい出来そうではあるけど。


「お願いね。無理はしないで」

『はい』

「行くよ」

「うん!」


 アク姉の嵐が途切れたところで、一足先に【電光石火】を使って突っ込む。双血剣を槍に変形させて、アルラウネを突く。地面から伸びてきた蔓が槍に絡みついてくる。そのタイミングで、【加重闘法】で重みを増させる。一部の蔓が引き千切れるけど、アルラウネの目の前で槍が止まった。


「【一点刺突】」


 私の影から飛びだしたアカリが細剣でアルラウネを貫く。ダメージは少ないけど、アルラウネが毒、麻痺、沈黙、暗闇、呪い、出血状態になった。細剣に毒薬を付けていたのと技の効果だろう。

 相手が動けなくなったのなら、話は早い。一気に叩き込む。私よりも先行したサツキさんが大剣を振う。


「【剛剣】」


 アルラウネの真上から大剣が叩きつけられる。周囲が見えないアルラウネは、地面にめり込んだ。ギリギリのところで蔓の鎧が大剣で叩き斬られるのを防いだ結果だ。それでも一段目のゲージを飛ばす威力を持っていた。

 HPゲージが二段目に掛かる。瞬間、周囲から大量の蔓が飛びだしてきた。その一部がまとまって、サツキさんに向かって振られる。技の硬直時間で動けないので、サツキさんが避ける事は出来ない。だから、その間にトモエさんが入って防ぐ。

 でも、それで終わりはしなかった。嫌な予感が私を襲う。影を操って、アカリ、サツキさん、トモエさんの身体を掴んで後方に投げる。

 直後に、アルラウネを中心に大規模な爆発が起こった。周囲に舞っていた花粉は、エアリーが飛ばしてくれたけど、アルラウネは自分の身体から花粉を出して爆破してきた。これが第二段階に入る前の行動なのだと思う。

 地面から浮き上がったアルラウネは、周囲の蔓をアク姉達に向かわせる。そして、アルラウネの目がピンク色に光った瞬間、アルラウネの目の前に影から飛びだした。爆破直前に【影渡り】で影に入る事によって、花粉爆発を避けていたから出来た事だった。


「【魅了の魔眼】は、私には効かないよ!」


 アルラウネの目を手で覆って、私の身体とアルラウネの身体を縛り付けた。完全に零距離まで接近出来て、相手に防御手段がないタイミングを待っていた。これで、必勝の方法を使える。


「【プリセット・牙】」


 スキルを牙系統に変えて、噛み付く。元々状態異常になっているからあまり変わらないけど、一番使いたかったのは、【炎牙】だ。アルラウネの身体が内側から燃える。そんなアルラウネの血は、花の蜜のような匂いと甘さだった。匂いはキツいけど、結構美味しい。人型の精霊っぽいけど、本質的には植物寄りなのかもしれない。

 アルラウネは、蔓を使って私に攻撃をしようする。それを、魔法の連続発射でアメスさんが撃ち落としていった。


「【アトラスの支え】【アテナの守り】」


 メイティさんが私に防御アップのバフを掛けてくれる。【夜霧の執行者】があるから平気ではあるけど、それが切れた時のためかな。メイティさんは、適宜その場で必要な人にバフを掛けてくれている。私に掛けなかったのは、私の攻撃がどういうものなのかちゃんと分からないからだと思う。それに、速度を上げられると私の動きに支障が出るかもしれないしね。そういうところは、しっかりと考えてくれる人だ。

 蔓の攻撃をアメスさんとカティさんが弾いてくれるので、安心して飲む事が出来ている。一番厄介な花粉爆発も、その瞬間を先読みしてアク姉が突風を吹かせてくれているおかげで、最小限の被害しかない。その被害も影で防げる。

 トモエさんとサツキさんは、いつ私が離れても対応出来るように攻撃の準備をしている。アカリもどんな状況になっても対応出来るように、トモエさん達とアク姉達の間の位置で待機している。周辺のモンスターは、ソイルとライが倒してくれているし、周囲の花から出ている花粉は、全てエアリーが上空に逃がしている。地味な働きだけど、これが割と大きい。

 何度かの花粉爆発で、爆発が花粉に伝播して広がる事が確定したからだ。アルラウネの花粉爆発の前兆を見逃さず、アク姉が遠くに吹き飛ばしているのと、花粉のほとんどを上空に巻き上げている事で、この花粉爆発がアク姉達の元まで伝播しない。受けるダメージを最低限まで減らすのに、必須な動きと言える。

 私達はエアリーがいるから良いけど、普通のレイドだったら二人の魔法職がこの対応に追われる事になる。とてつもなく厄介だ。

 私の吸血が始まった以上、ほぼほぼ勝ち確の状況だ。影と血で身体を縛り付けているし、そう簡単に引き剥がされる事もない。そのままアルラウネの二段目のHPを削り切る。そして、アルラウネの行動が、また変化する。

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