第253話 アークサンクチュアリの大きな建物

 アカリと話している間に、結構良い時間になっていた。


「それじゃあ、私は、そろそろ行くね」

「あ、うん。ごめんね、長話しちゃって」

「良いよ。嫌だったら、そもそも話さないし。アカリと話すのは楽しいからね」

「そう言ってくれると嬉しいな。それじゃあ、いってらっしゃい」

「いってきます」


 アカリに見送られて、私はアークサンクチュアリに転移した。


「さてと、まずは街の探索からかな」


 【霊峰霊視】を意識しつつ街を見て回る。中央近くにはお店的な場所が多い。特に薬局みたいなお店が多かった。お店ごとに扱っている薬が違っていて、そういう専門のお店みたいになっていた。

 そして、次に多かったのは、武器屋だ。沢山の武器を扱っていて、その中に双剣もあった。ただ、ラングさんの作ってくれた双血剣と隠密双刀には及ばない。まぁ、安いっていう利点はありそうだけど。良い武器屋を発見出来なかった時には、お世話になるのかもしれない。


「う~ん……民家が多いから、調べられる場所が限られるなぁ。でも、空き家もいっぱいある。大きな家もいっぱいだ。これなら、テイムモンスターも飼えるかも」


 庭の大きな家もあるので、テイムモンスターを飼う基準を満たす家も多かった。実際、そこにホワイトラビットやオルトロス、ランカクタス、スライム、さらに見た事のない虫型モンスターがいた。一番大きなモンスターだと、ジャイアントトードがいた。私の他にもボスモンスターをテイムした人がいるらしい。

 条件は何なのだろう。ちょっと気になる。ただ、そこは気にしてもしかたない。街の何かが分かる訳でもないからだ。【霊峰霊視】で見える靄を探しながら歩いていると、三つの靄を発見した。出て来たものは、天聖教の十字架が三つ。


「また十字架。そういえば、山脈エリアの大聖堂でロザリオを見つけたっけ。もしかして、ここが天聖教の総本山?」


 山脈エリアの大聖堂でロザリオを見つけた時、『天聖教の総本山』というクエストが始まった。そして、ここでは十字架が手に入った。この事から、アークサンクチュアリが天聖教の総本山だと考えられる。名前的に神聖さもあるし、あり得ない話ではないと思う。


「つまり、邪聖教も関係しているかもしれないって事か」


 もう一つのクエスト『邪聖教の謎』。ファーストタウンの地下道で手に入れたペンに書かれていた文字を読んだ事で発生したクエストだ。どちらも聖教と付いている事から、恐らく関係のある宗教だろうと踏んでいる。だから、この二つのクエストを一気に進めるチャンスだ。まぁ、どうすれば進むかが分からないから、確実な事は言えないけど。

 街の半分を調べて、一旦ログアウトする。夕食などを済ませてから、またアークサンクチュアリ探索を再開した。すると、次々に十字架が手に入った。全部同じデザインのもので、区別は付かない。この前のロザリオは枢機卿のものだった。そこから考えると、ただの教徒の持ち物なのかな。

 街の四分の三を調べて終えて、今日はログアウトした。

 翌日。昨日と同じように家畜の世話をしてから、街の探索に向かう。残り部分を調べて、さらに十字架を手に入れた後、この街の中で一番大きな建物の前に来ていた。


「おぉ……改めて近くで見ると、迫力が違うなぁ。それに対称じゃないんだ」


 この大きな建物は、対称的に作られてはいない。非対称で設計された建物らしい。一番奥に一本高い塔が建っているのが特徴的だ。


「あの塔に何か隠されてるのかな。まぁ、ツリータウンと同じでそう簡単に入れるものじゃないだろうけど」


 取り敢えず、建物の中へと入る。中は、映画やアニメなどで見るような神聖な雰囲気を感じさせるような教会チックの内装をしていた。建物一階部分は、全部が教会のような内装をしている。あっちこっちに階段があるから、上に上がる方法はいくらでもある。でも、あの塔に上る階段は見当たらない。単純な作りに見えて、複雑な作りをしていそうだ。


「おやおや、お客様ですかな?」


 正面から白い祭服のようなものを着たお爺さんが近づいてきた。常に笑っている表情をしていて、捉えどころのなさを感じる。細められた目は一体どこを見ているのだろう。

 まぁ、それはさておき、このお爺さんは、どう考えても、この場所の責任者か関係者だ。


「えっと、似たような感じです。見学しに来ました。色々と見て回りたいのですが、良いですか?」

「ええ。ええ。構いませんとも。自由に見て回ってください」

「ありがとうございます」


 まさかの自由見学の許可を貰えた。そこまで重要な施設じゃないのかな。


「その前に、一つだけお訊きしても良いですか?」

「ええ、構いませんよ」

「ここは、天聖教の施設なのでしょうか?」


 私が訊くと、一瞬お爺さんの目が小さく開いた。でも、すぐに元の表情に戻る。


「ええ、そうですよ。天聖教は、ここにある聖堂で生まれたとされています」

「今いる空間は違うんですか?」


 お爺さんの言い方だと、私が今立っている場所は、天聖教が生まれた聖堂では無いという風にも捉えられる。


「ええ。現在は入る事は出来ない場所にあるとされています。私も場所を把握は出来ていないので、ご案内は出来ませんがな」

「でも、この建物の中にあるのは分かっているんですね?」

「それも定かではありませんな。伝わっている話ではという事になります。もしかすると、この建物からは離れた場所にあるかもしれませんな」


 それを聞いて、真っ先に思い付いたのは、山脈エリアの大聖堂だった。


「山脈の上にある施設は違うのでしょうか?」

「山脈……ああ、あそこですか。いえ、古い聖堂ですが、そこは違いますな。天へと祈りを捧げる場とは言われております。ご存知という事は、既にご覧になったのでしょう。特に何もなかったでしょう」

「はい……あっ、いえ、これがありました」


 私は、天聖教のロザリオをお爺さんに見せる。ロザリオを見たお爺さんは、初めて目をはっきり開いた。


「ふむ……古いものですな。私も資料でしか見た事がございませんな」

「そうなんですか」


 そういえば、最初期の型とか書かれていたっけ。いつから天聖教があるのかは知らないけど、お爺さんもロザリオについて詳しく知らないのも納得だ。でも、見ただけで分かるくらいには知っているのも分かった。でも、これに関しては、これ以上教えてくれなさそうだ。


「それじゃあ、邪聖教はご存知ですか?」

「……ええ、かつて、天聖教を潰さんとした犯罪組織の名前ですな」

「犯罪組織? 宗教では?」

「いえ、名前から勘違いされますが、それは犯罪組織の名です」


 こればかりは、丸呑みにする事は出来ない。お爺さんの言うことを信じる事が出来ないとは言わない。でも、敵対していたという点から、本当に犯罪組織なのかは分からない。対立していた宗教という可能性は残っている。


「なるほど。お話を聞かせて頂きありがとうございます。では、色々と見学させてもらいます」

「ええ、ご自由に」


 お爺さんから話を聞き終えた私は、この建物の探索に移る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る