第212話 雲の上の頂上

 スノウは、どんどんと高度を上げていき、雲の中に突っ込んだと思ったら、そのまま雲を突き抜けた。


「おぉ……良い景色」


 時間帯的に夕方なので、夕陽が周囲の雲を照らしている。茜色の大地って感じがする。


「おっ、スノウ、頂上だ」

『ガァ!』


 雲の上に半径百メートルくらいの平らな山頂があった。そこの中央に大聖堂のような建物があった。


「おぉ……でかいなぁ。スノウ、降りて」

『ガァ』


 頂上に降りたスノウの背中から地面に降りる。


「それじゃあ、スノウは、先に帰ってて」

『グルル……』


 もっと暴れたいのか、私と一緒にいたいのか分からないけど、スノウは喉を鳴らしながら、頭を押し付けてくる。


「あの大聖堂の中を調べるから、スノウには狭いでしょ? それに、少しは休みを設けないとね。ゆっくりと休んで」

『ガァ』

「【送還・スノウ】」


 若干不服そうだったけど、スノウをギルドエリアに戻した。


「さてと、幸い、近くにはモンスターもいないし、さっさと調べよっと」


 大聖堂の方に向かう。大聖堂は、真っ白な建材で出来ている。ところどころ欠けているから、かなり昔に建てられたものという事が分かる。大聖堂の前にある小さな階段に脚を掛けると、何だかぞわっとする感覚に襲われた。


「うわっ……鳥肌が凄い……それだけ聖属性が強いのかな。砂漠の神殿とは正反対って感じ……私の予想は正しかったかな」


 大聖堂の中に入ると、まっすぐ奥に十字架があった。建物の構造的にも、十字になっている。中央には、魔法陣のようなものがあり、窓ガラスは、全てステンドグラスになっている。


「あのステンドグラス……物語調になってるのかな? 絵だけだから、詳しい事は分からないけど、誰かの一生みたい。他に何か変わったものはないかな」


 周囲を見回しながら、中央の魔法陣に立つ。特に魔法陣の上にいて何か起こるという事はなかった。【霊峰霊視】が発動する事もない。クエストのフラグがないのか、そもそも何もないのか判別がつかないというのは面倒くさい。


「柱に彫られているのは、天使かな。羽が生えてるし。やっぱり天使の収得条件を満たす場所か。石像みたいなのないかな。教会って、そういうのありそうだけど……」


 念のため、大聖堂の中を隈無く調べていく。でも、【霊峰霊視】にも何も反応するものはなかった。情報が書かれた紙でもあれば良かったけど、それすらない。


「何も情報無し……」


 何かあればと思いながら上を見ると、三階くらいの高さに通路があるのが分かった。さっきから、ステンドグラスより上は見てなかったから気付かなかった。


「何だろう?」


 私は、【飛竜翼】を使って、その通路に移動する。【悪魔翼】を使わなかったのは、聖属性が強い場所だからだ。下手に悪魔らしさを出したら、危ない目に遭うみたいな事もあり得るし。まぁ、中に入った時点で何もなかったから、大丈夫だとは思うけど。

 通路は、両端で二つの部屋に繋がっていた。どっちも調べればいいので、適当に決めて入口手前側か入る。中にあるのは、机と椅子だけだった。でも、【霊峰霊視】で靄を見つける事が出来た。

 靄の正体は、金で出来たロザリオだった。


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天聖教のロザリオ:その昔天聖教にて配られたロザリオ。最初期の型であり、天聖教枢機卿が所持していたと言われている。


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『ストーリークエスト『天聖教の総本山』を開始します』


 また新しいクエストが始まった。総本山を見つけるクエストみたい。手掛かり無しにどうしろっていうのだろうか。


「まぁ、なるようになるか。これまでがそうだったし。もう一つの部屋も調べよう」


 もう一つの方の部屋に入ると、その中は赤い染みでいっぱいだった。


「…………えぇ……天聖教の裏の面……? 気分悪いわ」


 【霊峰霊視】で見えるものもないので、情報はなにもない。


「【召喚・レイン】」

『あれ? どうしたの?』

「ごめんね。休んで貰おうと思っていたんだけど、ちょっとだけ手伝ってくれる?」

『うん!』


 本当にうちの子は良い子ばかりだ。


「この部屋を掃除出来る? 大分染みこんでいるから、難しいかもしれないんだけど」

『やってみる』


 レインが水を操って、壁や床を掃除していく。水洗いにも限界があるだろうから、少し綺麗になるくらいかなと思ったら、滅茶苦茶綺麗になっていた。さすがは、【神水】ってところかな。

 全部の血を洗い流した事で、本来の壁と床が剥き出しになった。


「これ……何か彫られてる?」

『そうみたい』

「文字……じゃない。何かの記号か暗号かな。取り敢えず、スクショだけしておこう」


 【言語学】なども装備して読もうとしたけど、一切読めなかった。なので、何かしらの暗号だろうと判断した。スクショしておけば、色々なところで見返せるので、それを利用する。


「それじゃあ、レインを帰すね。何度も喚んじゃってごめんね」

『ううん。いつでも喚んで』

「ありがとう。【送還・レイン】」


 レインを戻して、中央の魔法陣に戻る。そこで、守護天使の羽根を取り出す。すると、守護天使の羽根が勝手に浮き上がっていった。

 そして、大聖堂の天井に空が現れる。黄色っぽい光で溢れている事から、実際の空とは別物だという事が分かる。だって、今は夕方から夜に移るタイミング。空は暗いはずだからだ。

 耳に鈴の音などが聞こえてくる。空からは、光が差し、守護天使の羽根と似たような羽根が舞い降りてくる。さらに、楽器の音とおよそ人のものとは思えない歌も聞こえてきた。

 全身に鳥肌が立つ。大聖堂いた時よりも身体を駆け巡る寒気が凄い。【悪魔】の時とは別の怖さがある。

 空を流れる雲の中から、巨大な手が出て来た。異常なまでに白い手は、私に向かって、どんどんと伸ばされる。いつもなら逃げるけど、それすらも出来ない。身体が竦んで動けないという感じだ。その手に包まれ、さらに全身が光に包まれた。眩しすぎて、何も見えない。歌と楽器の音は鳴り止む事なく、さらに音を増していく。音楽がピークに達した時、私を包んでいた光が身体に吸い込まれていき、手が離れていった。その直後に、上から羽根が落ちてきて、私の胸に吸い込まれた。


『条件を達成したため、【天使】が収得可能になりました』


 さっきのイベントが【天使】のイベントだったらしい。正直、気分の良いものではなかった。【悪魔】も【天使】も私達からしたら、恐怖の対象になるのかもしれない。


「まぁ、いいや。【天使】は収得っと」


 【悪魔】の時と同じようにスキルが派生した。そのスキルである【天使翼】も収得する。これで三対の羽になる。全部違う種類だけど。

 さらに、もう一つスキルが増えていた。それは、【魔聖因子】というスキルだ。


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【天使】:天使の序列に加わる。光に属する力を大きく強化する。光属性に対して、大きな耐性を得る。全ステータスを大きく上昇させる。控えでも効果を発揮する。


【天使翼】:魔力によって出来た天使の羽を生やす事が出来る。羽の展開時のみMPを消費して飛ぶ事が出来る。控えでも効果を発揮する


【魔聖因子】:スキルやアイテムによる闇属性と暗黒属性、光属性と聖属性による継続ダメージを無効化する。控えでも効果を発揮する。


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 これで、因子関係のダメージに悩まされる事は無くなった。もしかしたら、回復魔法も効果があるかもしれない。今度、メイティさんに頼んでみる事にする。

 取り敢えず三つのスキルを収得するだけにした。スキルの整理は、またギルドエリアに戻った時にする。

 今は、大聖堂の近くを調べる。その前に、ログアウトして夕ご飯だ。

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