第210話 お世話と拍子抜け
ギルドエリアに戻ったところで、一つ悩む事があった。それは、ソイルの居場所だ。
「ソイルはどこか住みたい環境とかある?」
『土……いっぱいなところ……あそこが良い……』
ソイルが指さしたのは、大きく広げた畑だった。
「畑で良いの?」
『うん……土……弄って良い……?』
「良いけど、作物を荒らすのは駄目。分かった?」
『うん……!』
割と簡単に決まった。地の精霊だから、土が完全に剥き出しになっている畑が気に入ったのかな。ソイルは、畑の中に入ると、何も埋まっていない土の中に入っていった。水の中に入るのは、まだ理解出来たけど、まさか土の中に入るとは思わなかったので、ちょっと驚かされた。
ソイルを見ていると、今までギルドエリアでは聞こえなかった音が聞こえる事に気付いた。
「ん? やっと飼えたのかな」
畑の奥に作られた牧場には、牛、羊、豚、鶏がいた。それぞれ数は四。ここから繁殖と素材採取を行っていく。何が取れるかは、後で確認してみようかな。
「そういえば、皮が必要って言ってたっけ。もしかして、解体も私がするのかな……」
「まぁ、【畜産】の派生でスキルがあるみたいだからね」
「アカリいたの?」
唐突に後ろから声がしたから、ちょっと驚いた。
「うん。ようやく手続きも終わったからね。解体に関しては、まだ先の事だから、すぐにって事はないよ。繁殖に関しては、私達に出来る事はないみたい。雄雌を一緒にいさせて、自然と妊娠するのを待つしかないみたい」
「そうなんだ。それじゃあ、私がやる事って、餌の用意くらい?」
「後は、定期的に様子を見てくれると良いかな。ブラッシングとかもしてくれると、懐き度が上がって、素材の質が変わってくるから」
「懐き度かぁ……皆、懐き度高いんだよなぁ……」
「ハクちゃんが異常なのか、特殊な状態なのかって感じだよね」
「ね。そうだ。これ直せる?」
アカリに、祈りの霊像の破片を渡す。これが直れば、他の精霊も喚び出す事が出来るかもしれないので、ちょっと期待してしまう。
「う~ん……どうだろう? やってみるけど、ちゃんと直るか分からないよ」
「それで良いよ。費用は払うから」
「このくらいは良いよ。牛とかの面倒を見てもらう訳だし」
「そう? あっ、それと畑に地の精霊ノームのソイルがいるから、今度挨拶してあげて。今は、寝てるのかよく分からないけど、畑の中に入っちゃったから」
「ギルドチャットで言ってた子だね」
そう言って、アカリが畑の方を見る。畑の中に入ったって言うのを、そのまま中に入ったと捉えたのかな。実際には、土の中に入っただから、ここから見る事は出来ない。
「土の中だよ」
「えっ!?」
これには、アカリも驚いていた。でも、すぐに納得していた。ソイルが精霊だからかな。
「ソイルちゃんには、後で挨拶するとして、これお世話道具ね。エレクちゃんにも使えるから、ブラッシングしてあげてね」
「うん。ありがとう」
道具はアカリが全部作ってくれたので、何も問題はない。今日は、少し世話をしてから、次のエリアに行ってみる事にする。
ブラッシングや餌箱、飲み水の確認など、一通りの作業をして、どういう流れでやれば良いかを考えていく。
「飲み水は、レインの水で大丈夫かな?」
『悪い影響はないと思う』
いつの間にか隣に来ていたレインが答えてくれた。最近、周囲にいつの間にか知り合いがいる事が多い気がする。まぁ、危害を加えてくる人達じゃないので、全然困りはしないのだけど。
『ここにも水を入れれば良い?』
「じゃあ、お願いしようかな」
『うん!』
レインは進んでお手伝いをしてくれるから助かるけど、色々と仕事を押し付けちゃって申し訳ないって思う。
でも、やる気満々のレインの姿を見ると、遠慮する方が悪い気がするので、こういう時は頼んでしまう。
水をレインに任せるとしたら、やることは餌とブラッシングなどでの懐き度向上だ。取り敢えず、牛達に拒否される事がなかったのが、一番助かった。暴れん坊とかがいたら大変だっただろうから。
「取り敢えず、こんな感じかな。飼葉は、もう育った?」
『うん。種も一緒に出たから、また植えて育ててるよ』
育つまで大体三日ってところかな。育つのが早いのは、とても助かる。
『今は、乾燥させてるよ。そうした方が良いみたい。アカリさんが言ってた』
「あ~……確かに、牧草とかって乾燥させてるイメージがあるかも。生でも良い気がするけど、アカリが言うなら、牛とかの生育には、そっちが適してるんだろうなぁ。後は、野菜とかの切れ端をあげたりか」
『野菜……食べてみたい……』
「わっ!? ソイル!?」
さっきまで畑にいたソイルもいつの間にか隣にいた。この子達は気配を消す遊びでもしているのだろうか。
「じゃあ、食べる?」
適当に人参を取り出して、ソイルに食べさせる。すると、レインも口を開けて、こっちに向けてくるので、レインにも人参を食べさせる。二人とも美味しそうに食べるので、人参は好きみたいだ。橙人参っていうどう見てもただの人参だけど、そんなに美味しいのかな。
「もし食べたかったら、ストレージに入っているのから食べて良いからね。食べ過ぎは駄目だけど」
『うん!』
『うん……!』
そんなやり取りをして、家畜達のお世話を終えた私は、魔法都市に転移した。傘を差しながら外に出て、レインを喚び出す。
「レイン、雨を止めてくれる?」
『うん!』
レインの力で、降っている雨を止めて貰う。これで、私が傘を差さないでも大丈夫になった。レイン自身に混乱の状態異常が付かないか心配だったけど、自分に当たる前に止めていたから、混乱にはなっていなかった。
「それじゃあ、行こうか」
『うん!』
山脈エリアに向かう為には、また雨男を倒さないといけない。過去に戦った時は、かなり苦戦したけど、今はどうなるか。
レインと一緒にボスエリアへと転移する。そこに向かうまでのモンスターは、大体レインが倒してくれた。水のある場所なら、レインは無敵だ。
ボスエリアに来て、レインがすぐに雨を止める。そのまま進んでいくと、雨男の姿があった。レインのおかげで、雨による視界不良がないから、雨男の姿がよく分かる。
「それじゃあ、やってみようか」
私は、【雷足】【空力】を使った高速移動で、雨男の背後に移動する。前よりも速い移動だったので、雨男の反応が遅れていた。攻撃手段を奪う為に、手に持っているショットガンを蹴り飛ばす。そこに、レインが水で拘束する。さらに、首根っこを掴んで、足払いを掛け、地面に叩きつける。
そのまま力ずくで押さえつけて吸血し、雨男を倒した。手に入れたスキルは、【散弾銃】だった。まさかの銃のスキルに驚いたけど、そもそもショットガン自体作られていないので、全く意味がない。しばらくは死にスキルになりそうだ。
「ありがとう、レイン。レインのおかげで、楽に突破出来たよ」
『ふふん!』
ドヤ顔をするレインの頭を撫でてあげる。最初の頃よりも、レインは表情豊かになっている。レインも成長しているのだなと思いながら、一緒に次のエリアである山脈エリアへと転移した。
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