第187話 海エリアのボス珊瑚亀
ポートタウンに転移する前に、一応運営に要望を送っておいた。今回の調整に関する補填が欲しいという旨だ。この際、SPは無くても良いけど、何かしらお詫び的なものが欲しい。
前に【暴食】を手に入れた時に、勝手に【消化促進】と【捕食】が統合された事を思い出した。今回の調整は、それに沿った調整だったと考えられる。元々二つとも持っていたし、どっちもモンスターから得られるスキルだから、気が付かなかっただけで、本来はこっちが正しい状態なのかもしれない。
【武芸百般】は統合するスキルが多くて、不具合的な事になっていたのかな。それでも、お詫びは欲しい。貰えそうなものは貰っていくという根性だ。
「血瓶が欲しいなぁ……出来れば、闇の因子系のやつ」
ポートタウンに来た私は、一旦【大地操作】と【調教】を入れ替える。海での戦いは、地面に干渉出来ないので、【大地操作】は外しても問題ない。海底に降りたら、そうとは言い切れないけど。
「【召喚・スノウ】」
ポートタウンの外に出て、スノウを喚び出す。スノウの突撃甘えを受け止めつつ、頭を撫でてあげる。
「スノウ。私を乗せて、海を飛んでくれる?」
『ガァ!』
スノウは元気な返事をしてから、【矮小化】を解いた。その背中に飛び乗る。心なしか身体が前よりも安定している。【武芸百般】に統合された【騎乗】のレベルが50に設定された結果、その分の恩恵を受けているって感じなのかな。
スノウが飛び立ち、海の上を飛んでいく。上から海を見下ろすけど、特に何か変わった場所は見当たらない。
「あるとしても、海の中かな。海……泳げるのかな……」
まだ溺れるかもしれないと思って、海での水泳はしていない。一応、【武芸百般】で【水泳】は取った事になっているはずだし、【騎乗】と同じでレベルも50になっているはずなので、ちょっとは泳げるようになっていてもおかしくはない。
「今度、アカリと一緒に来て試してみるかな」
『グル?』
「ん? 海に入ろうかなって。スノウは、海に入りたい?」
『ガァア!!』
「へ? ちょっ!?」
スノウが、唐突に急降下し始めた。完全に海に向かっている。今の会話で、私が海に入りたいという風に解釈したみたい。まぁ、間違っていないのだけど、今じゃない。
スノウを止める前に、思いっきり海の中に突っ込んだ。私は、すぐに影を操って、スノウに自分を括り付ける。何とかスノウから切り離される事はなかった。身体から力が抜ける事もないので、しっかりとスノウを掴んでおく。
スノウは、泳ぎも得意みたいでものすごい勢いで進んでいく。引き剥がされないように必死になりつつも、周囲を見回す。恐らく、【武芸百般】の【水泳】のおかげで、水の中でもちょっとぼやけているけど、ある程度の視覚は保てている。
だけど、問題は呼吸だ。現状、そこまで苦しくないけど、この状態で戦うのは厳しいと思う。そもそも水中での戦闘ってどうやれば良いのだろうか。クロコダイルの時は、血を吸って倒したけど、海で同じ事が出来るかは分からない。
そんな中、正面から何かが接近してきていた。【感知】から【索敵】に進化して、精度がかなり上がった。相手の形がはっきりと分かる。ただ、距離は五十メートルで固定みたいだ。
モンスターは、鮫のような形をしている。名前は、マンイーターシャーク。クエストを探した時にも思ったけど、物騒な名前だ。
【水氷操作】で上手く倒せるかと悩んでいると、スノウが止まって、ブレスを吐いた。固まっていく海水を掴んで、思いっきり投げた。スノウ自身が【操氷】を持っているから、そのまま氷を操って、避けようとしたマンイーターシャークを追尾して命中させた。動きが止まったところに、スノウが突っ込んで思いっきり噛み付いて倒した。
ドロップアイテムは、人食鮫のヒレ、人食鮫の肉、人食鮫の牙、人食鮫の肝油、人食鮫の血だった。
ここでスノウは海から飛びだして、空に戻った。
「ぷはっ……海は海で危険だなぁ。普通に泳いでいたら、鮫に食べられるし。これに加えて、シーサーペントなんてモンスターもいるみたいだし、普通のプレイヤーはどう戦うんだろう? 船を借りて移動して、上から攻撃なのかな。あっ、スノウ、海はもう良いよ。ありがとう」
『ガァ!』
スノウに頼めば、海のモンスターも倒せるし、恐らくレインでも問題なく倒せるだろうけど、私自身がどうやって倒すかを探さないと。
「血を吸えないと、スキルも手に入らないし」
『ガァ?』
「何でもないよ。このまま東に向かって飛んで」
『ガァ!』
海での戦闘はアク姉達に相談してみるとして、まずは、ボスエリアへと繋がる転移場所を探す。基本的にエリアの端にあるので、そこを飛んで貰う。中々見つけられずにいたけど、唐突にボスエリアに転移する旨のウィンドウが出て来た。すぐに、YESを押して、ボスエリアへと転移した。転移した場所は、広い海の真ん中だった。
「さすがに、ボスエリアは陸地なんて都合の良いことはないか……ん? あれは……陸地?」
近くに陸地がない事を確認してから遠くを見てみると、木のようなものが生えている陸地みたいな場所が影で見えた。
「スノウ、あそこに行って」
『ガァ!』
スノウが羽ばたき、島のような場所に向かって飛ぶ。ものすごい風圧を受けるので、必死にスノウにしがみついておく。今度は、風を操るスキルが欲しいな。そうしたら、この風圧も散らせるのに。
その分、スノウの速度は速く、すぐに影の正体を見つける事が出来た。
「なるほど……あれがボスって事か」
正体は、背中の甲羅から珊瑚を生やした全長何十メートルもある巨大な亀だった。名前は、コーラルタートル。
「スノウよりもでかい……てか、どうやって倒すの?」
思ったよりも巨大なボスで、どうやって倒せばいいのか分からない。
「取り敢えず、なぐっ……避けて!」
適当に殴ってダメージの通りを調べようと思ったら、向こうの方から攻撃してきた。背中の甲羅に生えている珊瑚が射出されてきたのだ。スノウは、珊瑚を避けるために空で動き回る。
「弾幕が凄いな……スノウ! あいつに近づいて!」
『ガァ!』
スノウが珊瑚を避けながら、コーラルタートルに近づいていく。その間に、双血剣を抜いて、自分の血で【血液武装】を使う。さらに、【影装術】を重ねた。
「スノウ! 私を飛ばして!」
スノウの背中から飛び降りた私をスノウが尻尾で飛ばす。この際に、私も身体を反転させて、足で尻尾を受けて、初速から最大速度で飛んだ。高速移動にスノウの力も相まって、異常な速度が出ていた。その中で、双血剣を【血液武装】で大槌の形に変える。この勢いを乗せて、この大槌を叩きつけて、かち割るつもりだ。
【第六感】と【予測】で攻撃の経路を読み、身体を捻ったりして、ギリギリ避けていく。そして、コーラルタートルに近づいたところで、身体を一回転させる。
「よいしょお!!」
全ての勢いを乗せた一撃を、コーラルタートルの甲羅に叩きつける。コーラルタートルの身体が思いっきり海に沈んだけど、ダメージは一割にも届いていない。思っていたよりも硬い。
「【影装術】の効果がでかい……いや、それなら……」
私は【空力】で、その場に浮きつつ、【索敵】と【腐食】を入れ替える。こんなでかい相手に【索敵】は必要ない。嫌でも視界に入るし、水中で争うつもりはない。
私の攻撃で沈んでいたコーラルタートルは、再び浮上してきた。その甲羅に着地した私は、再び大槌を振り下ろした。【腐食】の耐久値減少効果を利用出来ないかと思ったのだけど、この目論見は正しかった。さっきよりも深い一撃を叩き込む事が出来たからだ。
「やっぱり、この甲羅は、鎧みたいなものか。なら、このまま削る事が出来そう」
大槌を双血剣に戻して、削り切ってやろうと思ったら、周囲の海水が浮き上がっていた。これは、私も見覚えがある【操水】もしくは【水魔法才能】の能力だ。
「【召喚・レイン】」
召喚されたレインは、瞬時状況を理解し、コーラルタートルが浮き上がらせた海水の支配権を奪った。そして、次の瞬間、驚くべき事をする。
『えい!』
急に身体を浮遊感が襲う。即座に、【空力】で空に立つ。私が見た光景は、さながらモーセの海割りだ。コーラルタートルの周囲の海水が消えて、海底が丸見え状態になっていた。チートを疑われないか心配になるレベルだ。
「スノウ!」
私の元にスノウがやってくるので、背中に乗る。
「レインとスノウは、コーラルタートルの拘束!」
『ガァ!!』
『うん!』
スノウにコーラルタートルの上に運んで貰う。その間に、レインは海水を操って、コーラルタートルの四肢を凍らせて、地面に縫い付けようとする。スノウもブレスで身体を凍らせていった。その間に、私は甲羅の上から首に移動する。単純な攻撃では、時間が掛かる。だから、【真祖】で防御力を無視する。
首に魔力で出来た牙を突き刺す。ものすごい磯臭さが口の中を襲ってくる。藻を口の中に目一杯詰め込まれたかのような不快感だ。ヤバいくらいの吐き気に襲われつつも、どんどんと血を飲んでいき、HPを減らしていく。
【真祖】の吸血能力は、【暴飲】の効果によって、異常なまでの勢いで飲めるようになっている。そして、この飲む量は、自分の意識で変える事が出来るので、師匠の時みたいに少量飲むことも出来れば、今みたいに尋常じゃない量を飲むことも出来る。その分、不快感は増し増しになっているのだけど、長く味わうよりもマシという考えで一気に吸っていた。
【天眼】で私の周囲を俯瞰するけど、特に攻撃が来る事はない。スノウが上空でヘイトを買ってくれているので、珊瑚による攻撃がスノウに向かっているからだ。水は、レインの支配下だから、そもそも操れない。三分程で全ての血を飲み干して、コーラルタートルを倒した。ドロップアイテムは、珊瑚枝×20、珊瑚亀の甲羅の欠片×30、珊瑚亀の核。
『【真祖】により、コーラルタートルから【堅牢】のスキルを獲得。【鉄壁Lv50】【剛体Lv50】【不動Lv50】【加重Lv50】を統合するため、以上のスキルが収得不可能となります』
滅茶苦茶丁寧に教えてくれるようになった。【武芸百般】と同じなら、この四つのスキルは、このレベルで内包される事になる。【鉄壁】はともかく【加重】は重くなるから要らないのだけど、【真祖】のランダム性に文句は言えない。言いたいけど。ものすごく言いたいけど。
「二人ともお疲れ様」
『ガァ!』
『うん!』
二人の頭を撫でてあげてから、レインと一緒にスノウに乗って空に移動する。私達が安全圏に移動したところで、レインが海水の支配を解く。
「レインって、あんなに支配出来るんだね?」
『うん。私も驚いた。でも、凄く疲れちゃった』
あれだけの事をしたのだから、かなり消耗していてもおかしくない。精霊と言っても、何でも出来るわけじゃないから。
「それじゃあ、レインは、ゆっくり休んで。スノウは、もう少し手伝って貰うね」
『うん』
『ガァ!!』
「【送還・レイン】」
二人の返事を聞いてから、レインをギルドエリアへと帰す。スノウには、まだ私の足になって貰う必要があるので、もう少し付き合って貰う。
スノウに乗って、次のエリアとなる大洋エリアへと転移する。これで、ここの経路が出来たので、ボスエリアを素通りしてエリア移動が出来るようになる。このまま大洋エリアを攻略はしないので、もう一度海エリアに戻って、ポートタウンからギルドエリアへと転移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます