第180話 新しいギルドメンバー
アク姉に頭突きをしていると、部屋の中に次々に人がログインしてきた。アク姉達のパーティーハウスだから、当然メイティさん達だ。
「ん? アクア、早いわね……って、ハクちゃんに会いたかっただけか」
アメスさんが、若干呆れたような感じでそう言った。元々皆で遊ぶ予定だったけど、アク姉は集合時間より早く来て、私と会っていたという事らしい。アク姉らしいと言えばらしい。
「おっ、全員いるね。突然だけど、ハクちゃんのギルドに入らない?」
「本当に突然だな」
サツキさんが苦笑いしながらそう言う。開口一番にそう言われたら、そうなるのは当然だ。
「ハクちゃんのギルドって、この前アカリちゃんが言っていたやつでしょ? ハクちゃんとアカリちゃんが許可を出すなら入りたいけど」
メイティさんがそう言って、私の方を見る。私の意思の確認をしたいみたい。
「大丈夫ですよ。アカリも同じ意見です」
「ハクちゃんとアカリちゃんがそう言うのであれば、入りたいですね。今後、ギルドに入っている事で何かあるかもしれませんから」
「ギルド特典という事ですわね。確かに、それがあれば嬉しいですわね」
「取り敢えず、皆、賛成で良いわね。じゃあ、お願いしようかしら」
本当にすんなりと決まった。アク姉の言うとおり、誰も反対する事はなかった。まぁ、フレ姉のギルドよりも、メンバーが全員気心知れている仲だからかな。私とアカリもメイティさん達とは、現実で何度も遊んでいるしね。
「それじゃあ……どうしたら良いんでしょう?」
私がそう言うと、皆がずっこけそうになっていた。ギルドマスターになってはいるけど、メンバーの入れ方とかは知らない。そもそも誰か入る予定はなかったから。
「取り敢えず、ポートタウンに行くわよ。あそこで申請が出来るはずだから」
「善は急げ! ほら、ハクちゃん、行くよ!」
アク姉に手を引かれて、ポートタウンへと向かう。アク姉達に囲まれているからか、特に絡まれる事は無かった。もしかしたら、アク姉が言っていた通り、私の話題はランキング戦の影響で薄くなっているのかな。とても有り難い事だ。
そのまま受付で、アク姉達の入団申請をして、ギルドエリアの鍵を受け取る。
「アカリは、ギルドエリアにいるみたいだから、ギルドエリアに行く?」
「だね。アカリちゃんにお金渡さないとね」
「一人当たり千二百五十万Gだけど、皆、持ってるよね?」
メイティさんの確認に、皆が頷く。皆は、お金を持っているみたい。因みに、私は、その分のお金なんてない。ついさっき、隠密双刀でなくなったところだし。
皆で一緒にギルドエリアに転移する。いつも通り転移すると、厩舎の中からスノウが飛び出してくる。目の前で着地して、いつも通り突っ込んでくる。
「おはよう、スノウ」
『ガァ! ガァ?』
元気に返事をしてから、アク姉達を見て、首を傾げている。見た事のない人達がいるって感じかな。アク姉達も、スノウの姿を見て声を失っている。話に聞いていても、小さなボスモンスターが目の前にいるという状況は、すぐに飲み込めるものじゃないみたい。
『あ、お姉さん』
「レイン。畑の世話をしてくれたの? お疲れ様」
スノウの声で私に気付いたのか、畑の方からレインも駆け寄って来た。どうやら、畑の世話をしてくれていたみたい。スキルのレベル上げの関係で、畑の世話があまり出来ていなかった。その中で、レインは水やりだけでなく収穫や種まきもしてくれているので、本当に助かっている。レインのために、アカリが収穫したものを入れるストレージを置いてくれたので、そこに材料が入っている。ただ、地面を耕す事は難しいみたいなので、そこは私がやる必要がある。
ここでもう一つの問題があって、レインを褒めてあげるついでに、スノウみたいに撫でてあげたいのだけど、まだダメージを受けてしまう。だが、【聖人】と【聖血】を得られたので、ここでダメージを受けないようになっている可能性もある。
なので、試しにレインを撫でてみると、若干痛いくらいで大きなダメージを食らう感じではなくなっていた。体内の光の因子が濃くなって、耐性が付いた感じかな。闇の因子が薄くなっているのではと心配にもなってしまう。
レインは、私に撫でられた事に驚いてから、嬉しそうに笑った。
『うん! そうだ。白炎花が咲いたよ』
「本当!? あっ……ちょっと待って。スノウとレインに紹介するね。新しいギルドメンバーだよ」
すぐに白炎花を見に行きたいという欲求を抑えて、先にアク姉達を紹介する。スノウが、さっきから首を傾げ続けているしね。
「初めまして、ハクちゃんの姉のアクアだよ。よろしくね」
「メイティだよ。よろしく」
「アメスよ。よろしく」
「サツキだ。よろしく」
「カトリーヌですわ。カティと呼んでくださいまし」
「トモエです。よろしくお願いします」
『レインだよ。こっちはスノウ』
『ガァ!』
言葉を喋る事が出来ないスノウの代わりにレインが自己紹介した。それに合わせて、スノウも手を上げて挨拶する。ここを見ても分かる通り、スノウとレインの仲は良好だ。
「さてと、アカリは、屋敷の方にいると思うから、私は畑に行って来るね」
「あ、うん。またね」
屋敷は目立つので、普通に迷わないで行ける。なので、ここでアク姉達と別れても問題はない。スノウは、厩舎で寝るために戻っていったので、レインと一緒に畑に向かう。すると、白く炎のような花びらをした花が咲いていた。
「おぉ……本当に咲いてる。ここまで三週間近くかぁ……割と長いなぁ」
『もう収穫しちゃって良い?』
「あ、うん。大丈夫。でも、一株だけ残しておいて。このまま育ててみたいから」
『うん!』
レインが収穫している間に、畑をどうするか考える。白炎花が収穫可能になるまでの長さは、他の倍以上ある。赤薔薇や赤血花は、既に収穫を終えて、次のサイクルに入っている。二つともアカリの実験に使われていると思う。白炎花も最終的には、アカリの実験に使われるだろう。私には、他に使い道がないし。
「取り敢えず、竜の糞を混ぜておくかな」
アカリが厩舎に設置してくれたトイレのおかげで、スノウから採れる竜の糞が溜まるようになっていた。いっぱいになったら、堆肥にするために肥溜めに移動させる。肥溜めで出来た堆肥は、専用のストレージに入れておいてある。
これを土と混ぜていく。この際、スコップなどを使うと時間が掛かるため、新しく取った【大地操作】で土を操って攪拌していく。ついでに、畑を拡張するために、【大地操作】で耕す。
「うわぁ……便利だなぁ」
特に私が行動を取る必要がないので、他の植物の様子を確認しながら作業をしていると、レインが近づいてきた。
『種が一つ採れたよ』
「四株収穫して、一つだけかぁ。加工の段階で他にも採れたら良いんだけど、そうじゃないと減っていくだけになるかな」
レインから種を受け取ると、種の名前が変化している事に気付いた。
「あれ? 聖炎花? 白炎花じゃない」
『もしかしたら、私の身体のせいかも……ごめんなさい』
「ううん。問題ないよ。むしろ良い事だから。レインのおかげで新しい植物が出来たみたいだし。ありがとうね」
『うん!』
少ししょんぼりとしていたレインが、また元気満々に作業に戻っていった。レインの水で品種改良出来るという事は、他の植物にも影響している可能性が高い。後で、収穫されたものが入っているストレージを確認して、変化しているものがないか探さないと。後は、アカリにも確認しないとかな。実験のために私よりもストレージを見ていると思うし。
「後は、液体肥料を掛けておしまいかな」
予め用意していた液体肥料を撒いて、種を蒔く。
「新しい植物も用意しないと。まぁ、何をするにしても、まずは金策かな。雪兎も、そこまで高くないし、そろそろ海エリアで稼ぐべきかな」
「なら、ギルドに討伐クエストを受けると良いと思います。単発で済みますし、そこそこの金額が手に入りますよ」
「!?」
突然背後から声を掛けられたので、びっくりして肩が跳ね上がった。後ろにいたのは、トモエさんだった。金属鎧を脱いで、楽な格好をしている。ここでまで重武装していなくても良いと考えたみたい。
「何故、ここに?」
「アカリちゃんにお金を渡したので、ハクちゃんの畑を見に来たんです。他の皆は、まだアカリちゃんと話しています。色々と決める事があるので」
「決める事?」
「はい。私達パーティーとハクちゃん、アカリちゃんでは活動の仕方が異なりますから。私達用の建物の場所も決めないといけませんから」
アカリの実験棟を作るって話もあるし、アカリと一緒に決めるのが一番のはず。
「なるほど。それで、そのクエストって、誰でも受けられるんですか?」
「はい。そうです。ギルド会館で見ませんでしたか?」
「色々と面倒な事があって、よく見ずに出て来ましたから」
「そういえば、掲示板が大荒れになっていましたね。受付は小さいですが、端の方にありますよ。受けられるのは、海のモンスターの討伐クエストですが、海エリアで売る素材を集めたいハクちゃんには、ちょうど良いと思いますよ」
確かに、それならちょうど良い。海エリアを詳しく調べたいとも思っていたし。
「教えてくれてありがとうございます」
「いえ、私達をギルドに迎えてくれたお礼でもあります。気にしないでください」
多分、ギルドに迎えなくても教えてくれたとは思うけど、そこは気にしないでおこう。
「それにしても、これは魔法ですか?」
「いえ、【大地操作】ってスキルです。土を操れるので、畑仕事にちょうど良いかなって」
「確かに、鍬を振う必要がないのは、楽で良いですね。空いている畝はありますか?」
「はい。ありますけど」
「では、こちらをどうぞ」
そう言って、トモエさんがアイテムを送ってくる。それは、様々な種だった。球根もあるし、本当に色々だ。
「これ、どうしたんですか?」
「ダンジョンはご存知ですよね? そこにある宝箱にはランダムでアイテムや武具などが入っているのですが、その中の一部です」
「えっ、ダンジョンの宝箱って、種まで入っているんですか?」
「そうです。当たり外れの違いが激しいので、ダンジョンの宝箱はガチャと呼ばれていますね」
「うへぇ……トモエさんの基準で良いんですが、ダンジョンに安定して入れる強さって、どのくらいですか?」
海エリアの探索も進めたいけど、沢山あるダンジョンに挑みたいのもある。素材もあるけど、モンスターの持つスキルに用があるからね。そのためにも、自分がダンジョンに入っても平気かどうか指針になれば良いなと思って訊いてみた。
「そうですね……あのイベントで優勝したハクちゃんなら、十分に戦えると思いますよ。彼女等もいますしね」
「なるほど」
確かに、スノウとレインがいるという点は大きい。これなら、ちゃんと挑めそうだ。海エリアをちゃんと探索してからダンジョンに挑む事にする。
今は、その前に、畑にトモエさんから貰った色々な種を蒔かないと。レインの水で、色々と変化が起きそうだし、ちょっと楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます