第98話 アク姉も加わってPvP
私達が話していると、アク姉が手を鳴らす。普段は、あんな感じだけど、しっかりするところはしている。
「時間も限られてるし、始めようか。私が、申請するね」
アク姉がそう言って、素早くメニューを操作する。結構慣れた手付きだ。
「アク姉もPvPやってるの?」
「時々、パーティー内でやってるよ。はい」
メニューから視線を逸らさずに返事をしたアク姉から、申請が届いたので、YESを押して受け入れる。また開始までのカウントダウンが始まるけど、誰一人戦闘準備をしない。身内だから、ここら辺はゆるゆるだ。私もスキルの装備を修行用にする。
「それじゃあ、ハクちゃんから始めてね。私達は、一手遅れて動き出すから」
「うん」
アク姉も加わって、PvPを用いた修行が始まる。サポートが入ると言っても、基本的に狙うのはトモエさんだけだ。あらゆる妨害を抜けて、ターゲットを倒す。まぁ、倒せないけど。
高速移動を伴って拳を振い、トモエさんにぶつかる。まだ付加されてない状態なので、トモエさんを、少しだけ押す事が出来た。こうしていると、やっぱりタンクの凄さがよく分かる。
ここで蹴りも打ち込もうとしたら、
「【リリース】」
アク姉が、石の壁を複数出してきた。私の足元から出て来たので、こっちの体勢を崩される。乱れた姿勢のまま、壁を蹴って、距離を取る。いや、どちらかと言うと、距離を取らされたって感じだ。
「【フリーズバインド】」
地面が凍り、私の足を巻き込む。
「ふんっ!!」
私は、拘束を無理矢理引き剥がす。アク姉の拘束が、身体にやられていたら、梃摺ったと思うけど、足からの拘束なら、【神脚】で引き剥がせる。まぁ、ちょっと賭けではあったけど。
「ふ~ん……足は駄目だね。それと固体での拘束も効果は薄そう。【ウォーターエンブレンス】」
アク姉の水の拘束だ。あれは、ジャイアントトードの時に見た。全身を包まれるから、多分窒息系のダメージも貰う事になる。それに、水というのがなんとなく嫌だ。今の私は泳げないし。
再び高速移動をして、石壁の横に向かう。拘束される直前に、私が急加速した事によって、アク姉の拘束からの逃れる事が出来た。思いっきり、地面に足を突き刺して、ブレーキを掛ける。
「【アトラスの支え】」
メイティさんが付加を掛ける声が聞こえる。その直後、壁を迂回しようとした私の前に、大きな盾が迫ってきた。私の動きを読んだトモエさんが、盾を突き出してきたのだ。
私は、強く踏み込んで、思いっきり盾を殴った。互いの攻撃が衝突し合ったけど、競り負けたのは、私の方だった。ノックバック率軽減のスキルや防御力上昇のスキルに加えて、メイティさんの支援もある。これに打ち勝つ方法は、殴るではなく蹴りしかない。言ってしまえば、私の蹴りは、トモエさん程のタンクにも打ち勝てる可能性を持っているという事になる。
「【ライトボール】」
メイティさんの魔法が、私の真横から放たれる。絶妙に死角に入る嫌な位置取りだ。【ライトボール】の速度は、何度も撃たれて覚えた。当たる前にしゃがんで避ける。
「【アースロック】」
私の足元が割れて、私の足が埋まる。無理矢理足を引っこ抜く。物理的な拘束且つ足に限定したものは、私に通用しないってアク姉も分かっているはずだけど。そんな疑問を抱いたと同時に、アク姉の狙いが分かった。拘束を解くという一手。この一手を足された事で、大きな隙が生まれていた。
その隙は、目の前にトモエさんがいる状況では、致命的だ。上段から剣が振り下ろされる。
「っ!」
避ける事は叶わない。だから、両手で刃を挟み込み、受け止めた。真剣白刃取りみたいなものだ。何とか上手くいって良かった。
体勢的に少しキツいけど、無理矢理トモエさんを蹴る。トモエさんは、すぐに剣を引くのと同時に盾で防いだ。トモエさんとの距離が出来た瞬間、私の目の前を半円状の石の壁が塞いだ。アク姉の妨害だ。すぐに蹴り壊して、トモエさんの方に向かう。
「【ライトレイ】」
即座に前に転がり込む。背後から放たれた光線が、私の頭上を抜けて行った。
「【ウィンドロック】」
身体に風が纏わり付いてくる。完全に動きが止まるという事はないけど、暴風の時に身体を動かしにくいのと同じように、身動きが取り辛い。
「んぎっ……ん!」
思いっきり踏み切って、強引に拘束を突破した。ここで【血武器】を使い、ナイフを三本作る。この三本が、大体短剣分くらいの量だ。ただ、これには問題があって、結局のところ【血武器】を三回使っているのと同じなので、結構HPを消費する。
力一杯ナイフを投げて、トモエさんを攻撃する。このくらいの攻撃は、トモエさんにとって屁でもないので、盾で弾いた。そのまま突っ込んで行き、途中でホワイトラビットを拾って吸血する。ホワイトラビットを咥えて吸血したまま、トモエさんに突っ込んだ。
盾を抜くために、蹴りを打ち込む。少しだけトモエさんが押される。追撃で、拳を振う。トモエさんは、本当に盾の扱いが上手い。私の拳は、威力を上手く逃がされる。
そのまま追撃を続けようとしたけど、すぐにその場から飛び退く。同時に、光の輪が私を追ってきた。
私は、その光の輪を蹴って消す。一応、物理判定もあるみたい。さらに、そこに光線も飛んでくる。私は、近くにいるスライムを掴んで、光線にぶつける。モンスターを利用するのは、特に禁止されていない。スライムは、一瞬で蒸発した。回復役のはずだけど、スライムは一撃で倒せるみたい。さすがに、回復役でも、そこまで弱いという事はないか。
こうして、アク姉とメイティさんの妨害を抜けて、トモエさんに攻撃をしていった。トモエさんの反撃を食らったり、メイティさんの攻撃を避け損なってダメージを負う事もあったけど、それはホワイトラビットで回復していった。そんな修行は、今日もきっかり三時間続けた。
「はい。今日は、ここまで」
アク姉がそう言った事で、修行が終わる。前まで家に住んでいた事もあって、アク姉も夕食の時間をおおよそ把握している。だから、私が言わなくても、中断してくれた。
「はぁ……はぁ……」
実際に体力を消費した訳では無いけど、精神的には疲れた。アク姉が加わった事で、負担が跳ね上がったのが原因だ。でも、おかげで、色々と分かった事もある。基本的な拘束系の魔法は、【神脚】で無理矢理突破出来るという事だ。その分一手遅れるけど、抜けられると分かったのは、大きな事だと思う。
「お疲れ様。ちゃんと対処出来てたね」
アク姉が、抱きしめながら頭を撫でてくる。だが、私が疲れている原因は、そのアク姉にある。その事を思い出して、アク姉をジト目で見る。
「アク姉のせいで疲れた」
アク姉にぼやきながら空を見たのと同時に、一つ思い出した事があった。
「あっ、そうだ。アク姉、夜に時間ある?」
「夜? 明日も休みだから、全然大丈夫だよ」
「ちょっと訊きたい事があるんだけど」
「それじゃあ、パーティーハウスの方に来て。お風呂とかも済ませてって考えると、二十時くらいかな」
「うん。分かった」
アク姉と約束をして、メイティさんとトモエさんにもお礼を言った後、解散となった。そして、ログアウトした。
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